【33】『一点突破』
王兄が怒りに身を震わせ、俺を睨みつけてくる。
ラナに睨みつけられた直後だけに、その第一印象は、
――うわー、可愛くねー!
だった。
いやいや、だってラナなら怒ろうがなんだろうが、すべてが可愛いからね。
それに比べて三メートル近い全身真っ黒の巨体で、その上、ライオンの化け物みたいな顔で熱い視線送ってこられても、こちとらノーサンキューですよ……。
とはいえ、戯れ言はこの辺にして、王兄の野郎怒ってらっしゃるぜ――。
「き、貴様は――、いったい何者だ⁉︎」
まるで地鳴りの様な声で、王兄が問いかけてくる。
俺としては、今さらそれ聞いてくるか? と思ったので、
「ただのアラフィフのオッサンだよ――。ただし……、ちょいとばかし『強欲』だがな!」
と、ちょいと粋な答えを返してやったつもりだが、
「アラフィフ……、オッサン……。聞かぬ種族だな」
「はあ?」
王兄の思わぬ反応に唖然としてしまう――。
いやいやいや、それ種族でもなんでもないからね! 仮にそんな種族あっても、全力で加入お断りしますから!
「フン、まあいい。私をここまで傷付けたのは、お前が初めてだ」
王兄の言葉に、
――いやそれ、なんかのフラグですよね?
と、俺はジト目でツッコミたくなる。
だが、
「フン!」
という気合いと共に、王兄の体が黒い光を放ち始めると、そんな事も言っていられなくなる――。
なぜなら、ただでもデカい王兄の黒い巨体が、さらにムクムクと大きくなっていったからだ。
いや大きくなっている訳ではない。全身の筋肉がさらに増強されている様に見える。
――うわー、異世界の進化パターン、キター!
俺がそう思っていると、
「グハハ、これが私の最終形態だ。どうだ驚いたか⁉︎」
わざわざ王兄本人も、自分からそう言ってきてくれた……。
これで一連の『お約束』が回収された訳だが、それはそれで状況はまずくなった。
王兄の皮膚が、まるで鉄の装甲の様に強化されている――。
『センチア――』
『奴め、さらに邪悪な瘴気を取り込んで、己を強化しおったわ――』
俺の問いかけに、センチアは吐き捨てる様にそう言ってから、
『ああして瘴気を取り込み続ければ、やがて奴は自我さえ失い、ただの『魔の獣』と化すというに……。ほんとに愚かな事じゃ』
続けて、堕天した元眷属のなれの果てについて、苦々しく言及する。
『でも、どうすればいいんだ⁉︎ 奴はさらに強くなっちまったんだぞ⁉︎』
『あんなもんは、一時的な強化に過ぎん。時間が経てば元に戻るし、おそらく皮膚の表面に魔力を集中した分、中身はフニャフニャじゃろう」
『えーっと、て事は……』
センチアの分かる様な分からない様な攻略指南に、俺が頭を整理しようとしていると、
『なるほど――、よく分かりました』
またククルが会話に割り込んでくる。
『攻略法は二つ――。まずは持久戦法を取って、王兄が元に戻るのを待つ。ですがこれは、こちらの戦力を考えると、ジリ貧になる可能性があるので、除外ですわね』
『――――』
ククルの理路整然とした指摘に、俺は黙って耳を傾ける。
『もう一つは、短期決戦――。あの皮膚さえ破れれば、中までは強化されていないと仰いましたよね?』
『間違いない。奴ごときで、その身すべてを強化するなど不可能じゃ』
ククルの簡潔な問いに、センチアもまた簡潔な答えを返す。
『でしたら、取るべき策は『一点突破』ですわね。わずかでも、あの皮膚に傷をつけて、そこから強力な攻撃を打ち込めば、それでこちらの勝ちですわ』
『……なるほどな』
ククルの導き出した結論に、俺も納得する。
つまり、結局は『貫通力』のある攻撃を叩き込むという方針に変化はない――。
ただ、その難易度が上がってしまっただけの事だ……。
やれやれと思っていると、
「さあ、いくぞアラフィフ!」
突然、そう叫びながら、王兄が俺に迫ってくる。
――いや待て、アラフィフ言うなし! それマジで、種族名でも名前でもねーんだから!
だが、ここは訂正している時間なんてない。
「チッ!」
俺は手にしたままのステアーAUGで応戦する。
――一点突破。
ククルが導き出した結論に沿って、なるべく射撃ポイントを一点に集中して撃ちまくる――。
動く相手の胸板への射撃なので、難易度が高かったが、かなりの精度に俺は手ごたえを感じていた。
「――――⁉︎」
だが、M995徹甲弾の集中射撃にも、王兄の突進が止まらない。
さっきはこの徹甲弾で、明確なダメージを与えられたのに、今度は皮膚に傷一つついていない――。
――まずい!
考えた分、回避動作が一瞬遅れた。
王兄はその強靭な肉体で体当たりをしてくる気だ。
そんな鉄球みたいな体で、ブチ当たられたら俺はひとたまりもない――。
動揺して、瞬時にスキルを発動させる事もできない。
頭が真っ白になりかけた時、
「レオさん!」
という声と共に、俺の体が側面から掴まれ、真横にダイブする――。
そのおかげで、俺は地面を転がりながら間一髪で、王兄の体当たりをかわす事ができた。
九死に一生を得た――。
顔を上げると目の前に、思い詰めた表情で、俺を見つめるラナの顔があった。




