【32】『男の甲斐性』
片膝をついた王兄が、ふらつきながら立ち上がる。
漆黒の体には、俺が撃ち込んだ徹甲弾が多数の傷口を作っていた。
明確なダメージ――。
見えてきた攻略の糸口に、次の戦術を練る。
魔物となった王兄の肉体は、強靭だが無敵という訳じゃない。
これまでの状況を整理すると、ラプアマグナム弾では、三百メートルの距離からでも、奴の頭蓋骨を砕く事はできなかった。
ステアーAUGによる至近距離からの銃撃も、M855弾では豆鉄砲で、徹甲弾であるM995弾で、ようやく膝を折らせる事ができた。
だが、それでもまだ奴は健在だ。
では、どうすればいい?
戦術のロジックを組み立てていく――。
奴を倒すには、あの強靭な筋肉、そして骨格を撃ち抜かなければならない。
そこから導き出された必須要件は――『貫通力』。
それ以前に、ミサイルでも撃ち込めばいいんだろうが、残念ながら今の俺のスキルレベルでは、その錬成は無理だろう。
と共に、こんな至近距離でミサイルをぶっ放せば、王兄だけじゃなく俺たちまで巻き添えを食ってしまう。
根本的に、非現実的な戦術は除外しなくてはならない。
となると――。
俺がある武器に思い当たった瞬間、
『おお、レオ。それにククルも無事でなによりじゃ』
というセンチアの念話が聞こえてくる。
『センチア――、大丈夫なのか?』
『お前を抱えての飛行で、力を使い果たしてしもうたが、まあなんとかなったわ』
『すまねえ、センチア。お前のおかげで助かったぜ』
『じゃが本番は、ここからじゃぞ。ワシはもう現界できん――。お前とククルで、あの魔族を倒すのじゃぞ――。できるか?』
センチアは、珍しく神妙な声で覚悟を問うてくる。
『ヘッ、できなきゃみんな死んじまうんだろ? 今さら何言ってやがんでえ』
『よーし、よい覚悟じゃ。では教えてやろう』
俺の答えが気に入ったのか、センチアがいつもの調子で語り出す。
『よいか――。魔族というのは、元は堕天した我ら神の眷属じゃ。それが地上の邪悪な瘴気にまみれ、姿形を変えたのがその正体じゃ』
『じゃあ王兄も、元々はお前らの仲間だったっていうのか⁉︎』
神の口から聞く魔族の定義に、純粋に俺は驚く。
『そういう事になるな。まあ、あの程度なら天使のクラスじゃろうが、ともあれ魔族は瘴気にまみれた事で、神通力を失っておる』
『それってつまり――』
どういう事だ? と俺が言いかけた瞬間、
『なるほど。つまり神の権能を失った魔族は――、もはや不死身ではないという事ですね」
ククルがまたもや、先回りで答えを言い当てる。
『そうじゃ。魔族は神の力を有してはおるが、もはや紛い物じゃ。特に王兄の様に、獣の瘴気と融合した者は、脳や心臓などの生命器官を破壊すれば、そのまま死におるでな』
『マジか⁉︎』
シンプルな攻略法に、俺はまた驚く。
だが、それなら十分に勝機はある。
つまりは、王兄の強靭な肉体を破壊する攻撃を加えればいいだけの事だ。
同時に俺が考えていた戦術も合っていた事になる――。
それは王兄の強靭な肉体を突き破る事ができる――、つまりは『貫通力』のある兵器を錬成できれば勝てるのではという推論だった。
そこで、さっき俺が考えついたのは、『対戦車ライフル』の錬成――。
いやいや、よく考えれば、今は『対物ライフル』って言うんだったな……。
まったく、時代錯誤な名称を持ち出して、我ながらオッサンだなと悲しくなるが、そもそもここは異世界なので時代もへったくれもないかと、自分で自分にツッコミを入れる。
そんな事はともかく、対物ライフルは対戦車ライフルの進化形で、歩兵の力で戦車レベルの分厚い装甲を撃ち抜く事を想定した、それはそれはエグい兵器だ。
だが問題がある――。
まずはデカイ事だ。そもそも戦車の装甲でも撃ち抜ける狙撃銃が、お手持ちで持てるサイズな訳がない。そんなモンがあったら、世界の歩兵戦術が一変する。
なので対物ライフルは、基本据え置きで使用する。
だが、それでは機動力がない。近接戦で据え置いたライフルの前に、敵がわざわざ来てくれるはずがないのだ。
もう一つは、今の俺のスキルレベルで対物ライフルが錬成できるかだ。
俺の『創造』と『錬成』のスキルレベルは、現在共に20――。
『創造』は物体を構築する設計図で、『錬成』はそれを作り出す技術だ。
どっちが欠けても不良品が出来上がる。
かつて俺はレベルに満たない拳銃を錬成して、その誤作動で死にかけたトラウマがある。
今回使用したブレーザーR93タクティカルとステアーAUGは、両方とも草原でのモンスター狩りで、スキルレベルの上昇を確かめながら、入念に安全確認したものだ。
万が一、対物ライフルで暴発なんて起こしたら、マジで俺は死ぬだろう――。
『やれやれ、今回もイチかバチかの勝負か……』
思わず、思考が念話となってダダ漏れてしまう。
――だが、ここはやるしかねえか!
と腹を括ろうとすると、
『あーら、ダーリン。イチかバチかなんかじゃなくて、もっと確実な方法があるじゃありませんか』
妖しい口調で、ククルが語りかけてくる。
その視線の先にあるものに気付き、俺もハッとなる。
王兄の強靭な肉体を打ち破り、かつスキルレベルが基準を満たしている攻撃法――。
『ラナの『限界突破』か⁉︎』
『はーい、ご名答。ですが、彼女の力を引き出せますかねぇ? まあ、それはダーリンのお願い次第だと、お、も、い、ま、す、け、ど?』
腹の立つ口調にラナを見ると、その目がこちらを睨みつけている――。
怒ってる? いや、あれは拗ねている目だ。
冷静に状況を考えれば、今、俺は念話という仕方のないツールを使っているとはいえ、ククルと目と目で語り合っている。
それをククルを特別扱いしてると思い込んでいる、ラナが不愉快に思わない訳がない――。
無意識に冷や汗が出てくる。
ヤバい……。どの面下げて頼めばいいんだ。
『さあ、ダーリン。男の甲斐性の見せどころですわよ』
完全にククルは状況を楽しんでいる。
だが、俺も男だ。ここはビシッと決めてやる!
そう思い足を踏み出そうとした瞬間、
「許さん……、許さんぞぉ、貴様!」
体勢を立て直した王兄が、ギロリと俺を睨みつけてきた。




