【31】『冷めた闘志』
錬成した大鎌で、ラナが王兄に斬りかかっていく――。
ラナの固有スキル『限界突破』は一時的にスキルレベルを爆上げして、その一撃必殺の威力で相手を葬るものだ。
以前、王弟の前線司令を護衛ごと瞬殺した時は、『斬撃』のスキルレベルが50を超えていた。
――あの恐るべき力なら!
と、俺は期待を込めて、振り抜かれる大鎌の軌道を見守る――。
だが俺の思いは、いとも簡単に打ち砕かれる。
ラナの斬撃が――、王兄に軽々と片手で払いのけられたのだ。
「あああああーっ!」
反動を利用して体勢を立て直すラナの体からは、咆哮と共に『限界突破』の象徴ともいうべき鈍い光が、しっかりと放たれていた。
――スキルは発動している! なら、なぜラナの斬撃が通らないのか⁉︎
困惑する俺の耳に、
「あーら、あんなモンですの? 期待外れですわ」
というククルの声が聞こえてくる。
「お、お前、期待外れって――」
「シャラップ、ダーリン。ちょっと落ち着いて、彼女のステータスを見てごらんなさいな」
ラナをバカにする様な発言に抗議しようとする俺を、ククルはそう言って制すると、大鎌を構え攻撃姿勢を崩さないラナを指差す。
スキル:『創造:LV5』『錬成:LV8』『火炎:LV11』『電撃:LV12』『シールド:LV15』『再生:LV6』etc……。
――『斬撃:LV21』
「な、なぜ⁉︎」
言われるまま、ラナのステータスを確認した俺は声を上げる。
爆上がりどころか、少ししかスキルレベルが上がっていない!
肝心の『斬撃』も、やっとレベル20を超えた程度だ……。
「あんなんじゃ、今のダーリンに毛がはえたようなものですわ」
ククルの言う通りだ――。
スキルレベルがオール20の俺の攻撃が通らないのだから、今のラナの状態で攻撃が通る訳がない。
「どうしてスキルが発動しているのに、レベルが上がらないんだ……?」
理由が分からない俺に、
「簡単な事ですわ。『気』が練れていないのでしょうね」
ククルはさらりと言ってくる。
「気――?」
「ええ。彼女は今、私に嫉妬して頭に血が上っていますわ。そんな状況で、一撃必殺の『気』なんて練れるものですか」
「…………」
確かにメンタルが乱れていれば、百パーセントの力が発揮できる訳がない。
そういえば、ラナは王弟の前線司令を暗殺する時も、呪文の様に自己暗示をかけていた――。
それが今、俺がククルを特別扱いしていると勘違いした事で、ラナは集中力を欠いてしまっているのだ。
「このままいけば、ジリ貧で彼女はいずれ負けますわよ――。まあ私にとっては、悪い虫が消えてくださるのは、それはそれで結構ですけど……」
棘のある言い方で、ククルがチラリと俺を見てくる――。
だが、俺にはククルの真意が分かる。
ククルは、
――さあ、どうにかしてみせろ!
と俺に言っているのだ。
――まったくヤンデレ女の心が、以心伝心で分かるなんて、俺もどうかしてるぜ……。
我ながら、自嘲を禁じ得ない。
その時、王兄が、
「グハハ、まだ食い足りん。食い足りんぞ!」
と、獅子の顔から雄叫びを上げる。
周囲には逃げ遅れたせいで、五体を食いちぎられた美女たちの死体が、いくつも転がっていた――。
『饗宴』という名の暴虐。
魔族が人間の姿に化けて、これまでどれだけの人間を食らってきたのかと思うと、さらに怒りが込み上げてくる。
そんな俺の怒りをあざ笑うかの様に、
「グハハ、その女は特にうまそうだと目をつけておったが、逃げずに自分から向かってくるとは――。グハハッ、重畳、重畳」
あろう事か王兄は、対峙するラナを見つめながら舌舐めずりをする。
瞬間、怒りに任せて飛び出そうとするが、
「ダーリン、怒りが満ちた時こそ冷静に――。あなたは、それができる人ですわ」
ククルの言葉に、俺は雷で打たれた様な衝撃を受ける。
確かにそうだった――。
センチアの固有領域で繰り広げられた、あの壮絶な殺し合い。
その中で、俺はたとえ瀕死の状態でも、いつも『生』への冷徹な計算を働かせていた。
――そうだ、考えるんだ!
俺の脳が、勝利に向かってフル回転を始める。
レベル20の俺の攻撃には限界があるが、それはスキルに依存した時の話だ。
だが俺のスキルは、魔法系皆無の物理攻撃系――。
つまり、レベルを凌駕する攻撃兵器を錬成すればいいんだ!
まずは手近なところから考えろ――。
ステアーの連射は通用しなかったが、もし弾丸の威力を上げたとしたら?
思いついた瞬間、俺は新たな弾丸が装填されたマガジンを錬成していた。
.56ミリNATO弾には、普通弾であるM855の他にもう一つバリエーションがある。
弾芯にタングステンを使用して、重装甲も貫通できる様にしたM995徹甲弾だ。
俺は素早くマガジンを交換すると、ラナに目を奪われている王兄の横顔に照準を合わせる。
冷静に――、冷徹に。
無言のまま引き金を引くと、さっきとは段違いの衝撃に体が軋んでいく。
だがそれでも俺は、
「グハアッ!」
という王兄の絶叫を耳にしながら、けっして引き金を戻さなかった。
「ウウッ――」
側面から三十発の徹甲弾を食らった王兄が、ついに膝をつく。
とはいえ、致命傷にはならなかった様だ。
だが、はるかに格下のレベルの俺の攻撃が、王兄に通った――。
その事実に、俺の闘志はさらに燃え上がっていった。




