【30】『女心は分かりません』
王兄の獅子の口から『魔弾』が発射されようとしている。
もちろん標的は俺だ。
俺は力尽きたセンチアに、舞台に向かって放り投げられたまま体勢が整えられない――。
いや、これはマジでヤバイ!
だが、ヤバイヤバイとばかり、言っちゃいられない。
――スキル『回避』で間に合うか⁉︎
そう思った瞬間、俺の視界に華麗なステップで跳躍する女が目に入る。
その一連の動作は、赤い衣装と相まって、まるでタンゴの踊りを見ているかの様だった。
――パーン!
女は高々と足を上げると、そのまま王兄の顔を鮮やかに蹴り上げる。
その結果、王兄の口から放たれた魔弾は、空に向けドス黒い軌跡を描き、俺に当たる事はなかった――。
続けて女は空中で俺をキャッチすると、お姫様抱っこをする王子の様に――、いや魔女の様な微笑みで俺に語りかけてくる。
「ハーイ、ダーリン。ご無事ですかー?」
「ハハッ、おかげ様でな……」
またもやククルに救われた事に苦笑する。
だが、今はそんな場合じゃない。
「ククル、奴は魔族だ! センチアがそう言っていた!」
お姫様抱っこをされたまま、急いで情報を共有する。
「なるほど。どうりであの王様、モンスター臭かった訳ですわ――」
ククルも得心した顔で着地すると、
「では、狩りを始めましょうか。せっかくダーリンも、ご立派な『モノ』を出してくださった様ですし」
と、俺が腰の位置で構えるステアーを、意味深な顔付きで見つめてくる。
――お前、言い方……。
と思ったが、ここはエールだと受け取っておく。
「ああ、こいつで昇天させてやるよ!」
「見かけ倒しになりません様に」
ニヤリとアイコンタクトを交わすと、俺はステアーAUGを王兄に向けてぶっ放す――。
強化プラスチックのボディから、5.56ミリNATO弾が連射されると、三十秒もたたないうちに、三十発の弾倉が空になった。
――さあ、どうだ⁉︎
意気込む俺の目に、魔物と化した王兄が全身に力を込め、体内から弾丸を弾き出す姿が映る。
「――マジか⁉︎」
絶句する俺に向け、王兄がカウンター攻撃の魔弾を連射してくる。
それをなんとか、スキル『回避』でしのぐが、俺はそのまま防戦一方になってしまう。
「あーら、ダーリンのその小っちゃいのじゃ、全然ダメでしたね」
ピンチの俺に、ククルが長鞭で側面攻撃を加えてくれる。
だが、それにも王兄の体はビクともしない。
「うーん、私が倒した『伝説の邪竜』よりも、ちょっと手強いですわね」
長鞭を空中に振り回しながら、事もなげにククルが呟く――。
一息つけた俺は、スキル『洞察』で、魔物と化した王兄のスキルレベルを調べると、軒並みレベル40を超えていた。
――やはり同じくレベル40クラスのククルでないと、対抗するのは無理なのか⁉︎
そう思っていると、
「レオさん!」
女たちを逃がし終えたラナが、叫びながら俺に駆け寄ってくる。
本当なら再会を喜びたいところだが、
「ラナ、ここは危険だ! 下がっていろ!」
俺は、自分の感情を殺して怒鳴りつける。
今は戦時だ。しかも相手は人間どころか魔族だった。
自分の身さえどうなるか分からない状況で、ラナまで守る自信がない――。
そう考慮しての発言だったが、
「んーーーっ!」
ラナが頬をふくらませて怒っている。
――えっ? ラナさん、どうしたの?
理由が分からず焦る俺に、
「どうしてククルさんは良くて、私はダメなんですか⁉︎」
ラナが顔を真っ赤にして怒鳴り返してきた。
「えっ?」
一瞬、戸惑った俺だが、すぐに言葉の意味を理解した。
「いや違うぞ、ラナ。別にククルだけ、特別とかそういう訳じゃ――」
まさかのこの状況での嫉妬に、俺はしどろもどろになる。
「私だってやれます! 見ていてください!」
そう言いながら、ラナは大鎌を錬成すると、
「おい、やめろ! ラナ!」
慌てる俺の警告を無視して、王兄に向かって突っ込んでいく。
「もー、ダーリン。それじゃ逆効果でしょうに――。ほんとに分かってませんわね」
「なっ……⁉︎」
間髪入れないククルからのダメ出しに、俺は閉口してしまう。
ちょっと待て! いったい俺の何がいけなかったというんだ……。
頭がパニックを起こしそうになる。
良かれと思ってやった事が裏目に出た――。
その事実に、俺はなすすべなく立ち尽くしてしまう。
いまだ活路が見出せない王兄の脅威。そこに巻き起こったラナの嫉妬。そして浴びせかけられるククルの冷笑――。
…………。思わず泣きたくなってきた。




