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◯◯しないと出られない異世界  作者: ワナリ
第一章『怠惰:異世界攻略⁉︎』

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【28】『赤の救世主』


 最初の女が選ばれてから、約十人の品定めが進む中、さらに二人の美女が王兄によって選ばれる――。


 これが妃や側室になれるのならば、まだマシだが、この女たちは食われるのである。

 悲鳴を上げ、泣き崩れる女たちの姿に、早く王兄を殺さなくてはと気持ちが焦っていく。


 だが、どうしても一列に並んだ『女の壁』がスナイパーライフルの斜線に重なり、引き金を引く事ができない。

 たとえ女が倒れても、その時には王兄はそれを顧みる事もなく、次の美女の前に移動している――。

 一撃必殺の時が、一向に訪れないのだ。


 ラナの番が来るまで、あと約十人。

 時折、確認するラナの背中に、俺にだけ分かる鈍い光が漂い始めた様に見える。

 ラナは無意識の内に、固有スキル『限界突破』を発動しようとしている――。


 これはまずいと、焦りが募っていく。

 そもそもの計画では、ラナが単身で王兄を殺すはずだった。

 それを俺が肩代わりするために、こうして狙撃に臨んでいるのに、このままでは元も子もなくなってしまう――。


 何か手はないのか……⁉︎

 俺は周囲の状況を、あらためて確認する。


 祭壇の様な舞台は遮蔽物はないものの、かといって、何かこちらに有利に働く造りにはなっていない。

 護衛は王兄を憚って下がってはいるものの、やはり女たちが一番の障害になっている。


 それなら『女の壁』の中に、何か突破口はないかとスコープを覗き込む。

 王兄は向かって左から右に進んでいるので、何かあるならまだ品定めが終わっていない右側の女たちだ。


 そう思って目を凝らすが、美しく着飾った女たちが規則正しく並んでいるだけで、何か特別なものがある訳でもなかった。

 あえて言うなら、ラナの五人ほど右隣の女の衣装が、やけに赤く映えているという事だけ……。


 ――赤⁉︎


 俺はスコープの焦点を、その女に合わせる。

 次の瞬間、美しい金髪の女が首だけをこちらに向けると、パチリとウインクをしてくる。


 ――ククル⁉︎


 叫びそうになるのを、必死に抑え込む。

 本当に心臓が止まるかと思うほど驚いた。

 いつものツインテールをほどいてはいるものの、それは間違いなくククルの姿だった。


 どうしてあいつがここに……?

 いや、あいつの事だ――。王兄の事を調べるために別行動を取ると言っておきながら、すべてを見通した上で、ここに先回りしていたに違いない。


 まったく、お前は峰不◯子かとツッコミたくなる。

 だが、この状況でこれほど力強い味方はいない。

 それにククルは、俺が狙撃に挑もうとしている事を理解している。


 なら、きっとククルが状況を打開してくれる。

 それを信じて、俺は再びスコープを王兄の頭に合わせ直す。


 ラナの順番が来るまでに、さらに一人の女が選ばれた。

 だが、その女は呆然と立ち尽くすだけで、やはりチャンスは訪れなかった。

 そしてラナの隣の女が品定めされる。


 ――これを逃せば、次はラナだ!


 焦りながら必死にスコープを覗き込むが、その女が選ばれる事はなく、ついにラナの順番が来てしまった――。


 王兄がラナの前に立つ。

 その手が――ラナの顔に伸びる。

 顎を持ち上げ、舐める様にその顔立ちを確認しているのが、ここからでも分かる。


 ――やめろ! その下卑た目でラナを見るな! その汚れた手でラナに触れるな!


 全身の血が逆流しそうなほどの怒りが込み上げる。

 同時に下げたままのラナの右手が、ゆっくり開いていくのが見えた。


 ――ラナが『限界突破』を使おうとしている!


 背中越しで顔が見えないが、俺には分かる。


 今、ラナは王兄を睨みつけている。

 そして、本当はか弱い心を、精一杯に奮い立たせている。

 王兄に選ばれた女たちを救うため。貧しさに耐えている家族のため――。そして未来を約束した俺のために。


 ラナの右手が鈍い光を帯びていく。

 大鎌が錬成されれば、きっとラナは王兄に斬りかかる。


 ――だめだ、ラナ! そこをどくんだ! 俺に任せるんだ!


 やはりライフルの射線にラナがいるため、俺は手も足も出せない。


 頼む――、俺に気付いてくれ!

 絶望に心が砕けそうになる。


 ――誰か……助けてくれ。


 そう思った瞬間、


 ――パーン!


 と、舞台上に乾いた炸裂音がこだまする。


 目を凝らすと、舞台上で漆黒の長い鞭を、床に叩きつけている女がいた。


「ククル⁉︎」


 誰もがククルの突然の奇行に目を奪われている。

 もちろん――ラナの目も。


 ククルの正体に、気付いたラナが驚いている。

 それに向かって薄笑いを浮かべるククルは、空いた手の親指を立てると、それをクイと後ろに向けて振る。


「――――⁉︎」


 何かに気付いたラナが、後ろを振り向く。


「ラナ!」


 俺はラナに向かって叫ぶ。

 だが三百メートル離れた塔の上にいる、俺の声に気付く訳がない。


 なすすべなく、ただ呆然とする俺の耳に、


「レオさん!」


 という声が飛び込んでくる。


 聞こえた訳じゃない。

 それでも遠く離れたラナが俺を見つけ、そう叫んだのが俺にはハッキリ分かったのだ。


「ラナ、そこをどけ!」


 俺も声のかぎりに叫ぶ。


 普通なら聞こえる訳がない。

 だが――、ラナは頷くとすぐに、その身を王兄の前から翻した。


『レオ、今じゃ!』


 センチアの念話と同時に、俺も引き金を引いていた。


 ブレーザーR93タクティカルが火を吹き、.338ラプアマグナム弾が空気を切り裂きながら、一直線に飛んでいく。


 時間にして数秒もなかっただろう――。

 次の瞬間、額を撃たれた王兄が、のけぞりながら後ろに吹っ飛んでいった。


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