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◯◯しないと出られない異世界  作者: ワナリ
第一章『怠惰:異世界攻略⁉︎』

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【26】『暴食王』


 開門してからは、『饗宴』の日という事もあり、かなり人の出入りは自由だった。

 城門の中に入ると、異世界の定番ともいえる、豪奢な西洋建築物の数々に目を見張る。


 要塞都市である王都は、さながら祭りの様相だったが、俺は人々の顔がどこか暗いのが気になった。

 そんな中、ラナは王兄の前に出る偽装のために、俺と別れて洋服屋へと向かう。


 近衛騎士も、俺とラナに一人ずつ付く事となった。

 分かれる前に、俺はラナ側の近衛騎士にそっと手紙を託す。

 開門まで隙を見て書いた――ラナへの手紙だ。


 時間がなかったので殴り書きだが、俺の素性と、それを黙っていた事への謝罪と、短い間だったが幸せだったという感謝が書き綴ってある。

 こんな手紙ですべてがチャラになるとは思っていないが、もうこれくらいしか手がなかった。


 近衛騎士には、王都からの離脱に成功したら渡してくれと言っておいた。

 何かを察した様に、何度も俺の方を振り返るラナに、親指を立てて大丈夫だとサインを送る。

 その姿が曲がり角の先に見えなくなると、俺は目をつぶり歯を食いしばる。


 そして、


 ――さよなら、ラナ。


 と、心でつぶやいた。


 気を緩めれば泣いてしまいそうな自分を、頬を叩く事でなんとか食い止める。


 呆気に取られる、残った近衛騎士に、


「よっしゃ、気合いが入ったぜ。いくぞ!」


 と、俺は虚勢を張ると、すぐにスキル『探索』を展開する。


 まずは王都の地形を、完全に理解する必要がある。

 同時に、俺にはもう一つ、どうしても調べなくてはならない事があった。

 それは――、なるべく高い建築物を見つける事だった。


「……あれは?」


 スキルの網にかかった、広場からだいぶ離れた位置にある高層物に、俺は目をやる。


「あれは……、おそらく物見の塔ですね」


 近衛が即答してくれる。

 なるほど、それなら王都の城壁よりも高い建築物が、城内にあるのも納得できる。


「ですが、だいぶ古いものですね。おそらくもう使われていないのでしょう」


 それなら、なお好都合だ。

 俺は近衛騎士の見解に、心で手を打った。


「あそこに行くぞ」


 俺は近衛騎士に有無を言わさず、先に進む――。

 物見の塔まで行く間、王都の人々の話し声が耳に入ってきた。


「やれやれ、また王兄様の美女漁りか」


「選ばれた女も、不憫よのう」


 声をひそめてはいるが、皆、口々に王兄の所業を批判している。

 それだけで、この『饗宴』という名の宴が、とんでもないものだという事が理解できた。

 そんなものに出なくてはならない、ラナの身が案じられる――。


 不安を抱えながら歩く俺の耳に、


「女を食らうとは、まこと恐ろしい王様じゃ」


「暴食王とは、よう言うたもんじゃ。ああ恐ろしや」


 聞き捨てならない、おぞましい言葉が飛び込んでくる。


 その瞬間、体が硬直した俺は、


「おい、王兄が人を――、女を食うって本当か⁉︎」


 無意識のまま、噂話をする人だかりに向かって叫んでいた。


「ひいっ!」


 すぐに人々が散っていく。


「レオ殿、まずいです! すぐにここを離れましょう!」


 近衛騎士の声で、俺も冷静さを取り戻した。

 今の行動は、公然と王兄を批判したも同然なのだ。

 さすがにまずいと、俺も近衛騎士の後に続き、路地に駆け込んでいく。


 だが逃げながら、俺の心はさらに不安になっていく。

 ――王兄が人を食う。

 ラナの身に迫る危険に、俺は王兄暗殺の決意を固めた。




 そして『饗宴』が始まった――。


 王宮前の広場から歓声が上がる。

 まるで祭壇の様な舞台に――王兄が登場したからだ。


 それを俺は、近衞騎士と共に侵入した物見の塔の屋上から眺めている。

 やはり近衞騎士の見立て通り、ここは打ち捨てられ無人の建築物だった。


 広場までの距離は約三百メートル。いや、五十メートル近い高さを足せばそれ以上だ。

 まるで人間が豆粒の様に見える。


「レオ殿、ここからいったい何を?」


 近衞騎士が、不安と不審が入り混じった声で問いかけてくる。

 無理もない。俺だってできればこの手段は取りたくなかった。


「まあ見てなって――」


 そう言いながら、俺は武器の錬成を始める。

 スキルレベルが上がってから、試験的に試していた代物だが、まさかこんなに早く実戦投入する事になるとは思ってもいなかった。


「おお⁉︎」


 近衞騎士が驚いている。

 まあそうだろう。剣や槍の錬成なら見た事があるんだろうが、俺の創造物は『剣と魔法のファンタジー』度外視の物理攻撃兵器だからな。


「レオ殿、これは……?」


「こいつか? これはな――スナイパーライフルさ」


 完成した銃を手に、俺は短く答える。

 ブレーザーR93タクティカル――。.338ラプアマグナム弾を使用する、射程距離一キロメートル以上の軍用狙撃銃だ。


 その無骨ながら洗練されたフォルムに、近衞騎士も息を呑む。

 たとえ見た事のない兵器でも、武に関わる者として、これが人殺しの道具だという事を直感で感じ取ったのだろう。


 そうさ、こいつで俺は――王兄を殺す。


 柵一つない屋上に腹ばいになると、俺はライフルを構え、搭載されたスコープを覗き込んだ。


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