【25】『優しい嘘』
「おいおい、待て待て待て!」
呆然とした俺は、すぐに我を取り戻す。
ラナを王兄の美女集めの場に出すなど、絶対に受け入れられない。
それに狙いも分かっている。
「ラナに、その場で王兄を殺せっていうのか⁉︎」
あまりに危険――、いや無謀すぎる!
たとえ殺せても、絶対に王兄の護衛たちが黙ってはいない。
いくらラナの固有スキル『限界突破』が強力とはいえ、永久に持続できる訳じゃない。
たとえその場は逃げ切れても、三日の行程を逃げ切れる保証なんてまったくない。
つまり――ラナは生還できないのだ。
「我々、近衛がラナ殿をお守りします」
近衛騎士が真顔でそう言ってくる――。
その目は真剣そのものだった。
だからこそ、俺はその発想に愕然とする。
たとえ歴戦の騎士だとしても、二人で何ができる?
――きっと、こいつらも捨て石だ。
それを本人たちが分かっていないのだから、余計に悲しすぎる。
いや、分かっていて尚かつ、それを忠義として全うしようとしているのなら、さらにタチが悪い。
こいつらの忠義に、ラナを巻き込むなんて迷惑至極だ。
どちらにしても、この筋書きを書いたのが王弟だとするなら、相当な食わせ者だと思わざるを得ない。
「王兄は、めったな事では人前に姿を現しません。『饗宴』の場は、千載一遇の機会なのです」
黙り込む俺を説得する様に、近衛騎士が言ってくる。
「しかも美女の品定めには、王兄が直々に顔合わせをします。これまでの情報では、その時は護衛も王兄から離れているそうです」
もう一人の近衛も補足説明を入れてくる。
確かにその線なら、殺れるかもしれない――。
だがそれは刺し違えだ。
そんなのは、絶対にダメだ!
それに俺は、もうラナに人殺しをさせないと決めた。
考えろ、そのために俺ができる事を――。
「分かった……」
立ち止まったまま、しばらく黙っていた俺は口を開く。
「では、先を急ぎましょう」
説得が成功したと思った近衛騎士たちが、俺の気が変わらないうちにと先に歩き出す。
確かに、こいつらの言う事にも一理はある。
ロクに出てこない暗殺対象を殺るには、これくらいしか手はないのかもしれない。
だが、納得はしていない。
だから、
「レオさん、私なら大丈夫ですから」
俺をなだめる様に、固く微笑むラナに、
「大丈夫だ。俺に考えがある」
と、前を歩く近衛騎士に聞こえない小声で、そっと耳打ちする。
「……はい。私は、レオさんを信じています」
やはり小さな声で答えるラナが、今度は明るく微笑んでくる。
その可愛らしい笑顔を見つめながら、俺は思う。
これでもう別れの挨拶はできないな――と。
まさか状況がこうなるとは、思ってもみなかった。
俺のプランでは、ラナを作戦には参加させずに、俺の単独行動でケリをつける気でいた。
そして王兄を――、『暴食神』を討ったら、転移する前に少しだけセンチアに時間をもらって、安全な場所に待機させているラナに、最後のお別れを言おうと思っていた。
だが流れとして、ラナも『饗宴』に――、しかも最前線に出るハメになってしまった。
それでも、無理にラナを参加させないという選択肢もあったが、依頼主とは作戦前にあまり揉めない方がいい。
――チッ。
心で舌打ちする。
出発前にすでにいくつか考えていた戦術――。
そのもっとも難易度の高いものを、選ばなくてはならなくなった。
明け方に王都に到着すると、身を潜め開門を待つ間、
「みんな聞いてくれ」
と、俺はその戦術の下準備を始める。
「俺は別行動を取る――。ラナはラナで、段取りに沿って動いてくれ」
「れ、レオさんは、どうするんですか⁉︎」
当然の質問が、真っ先にラナからくる。
その顔が不安に満ちているのに胸が痛むが、
「俺は俺で考えがある。もし俺が先に王兄を仕留めたら――、お前たちはラナを守って、急いでこの王都を離れてくれ」
俺はラナの顔を見ずに、近衛騎士の二人に向かってそう指示する。
「わ、分かりました。確かに二手から攻めた方が、陽動にもなるかもしれません」
俺の気迫にあてられたのか、近衛騎士たちも俺の提案を承服する。
「れ、レオさん?」
「大丈夫だ、ラナ。下手を打って、お前を危険な目に合わせる様な事はしない」
ラナが言いたいのは、そんな事ではないのは分かっている。
だが、ここは心を鬼にして、俺の考えを受け入れさせなければならない。
「俺を信じろ。後で必ず俺も追いかける」
「…………」
殺し文句に、力なくラナが頷く。
我ながら、ひどい男だと思う。
――優しい嘘だといっても、嘘は嘘だ。
俺だって、本当なら最後まで一緒にいてやりたい。
だが悲しいかな、アラフィフのオッサンには先の計算が立ってしまう。
こうする事がトータルで、ラナの幸せなんだ。
そう自分にも言い聞かせて――、俺は開門の時を待った。




