【24】『魔の気配』
荒れ果てた荒野を、東へ東へとひたすら進む。
王都まで約三日の行程――。
その間、通り過ぎる領内の、荒廃ぶりに息を呑む。
中にはラナの暮らしている貧民街の方が、まだマシだと思える村もあった。
もうそれだけで、東方を治める王兄の圧政ぶりが、十二分に理解できた。
――暴食王の名は、ダテじゃない。
異世界とはいえ、人々が苦しむ姿は胸が痛む。
その原因である圧政者の正体が、俺が討伐するべき『暴食神』であるならば、やはり倒さなければならない。
苦しむ人々のためにも――。ラナのためにも!
「手筈は、王弟の配下がつけてくれるって話だが、まだ全然姿を現さないな」
旅人を装うために、粗末なローブを頭から被った俺は、暮れていく地平線を眺めながら、独り言の様に呟く。
「そうですね。さすがに王の暗殺ですから、向こうも慎重になっているのかもしれません」
同じくローブを被ったラナも、声をひそめながら、並んで歩く俺の顔を見上げる。
「ん――⁉︎」
そんな時、沈む夕日の中に二つの人影が見えた。
すぐに、スキル『洞察』と『索敵』を同時展開して、素性と敵意の有無を調べる。
《所属:王弟軍近衛騎士団》
それが攻撃してくる様子がない事を確認すると、
「ラナ、王弟の騎士団だ。ようやく来た様だ」
心配そうな顔のラナに、危険がない事を知らせてやる。
その二人に近付こうとすると、急に進路を変えて少し離れた林に入っていく。
――なるほど、人目につかない場所で接触したいって訳か。
向こうの意図を理解した俺は、ラナを伴い少し遅れて林に入っていく。
一応、スキル『探索』を発動させておいたが、特に伏兵らしき人影もなく、俺たちを闇討ちにしようとする罠はないらしい。
深読みが過ぎるかもしれないが、これくらい慎重で丁度いいと思う。
なんせ俺らは――、これから王の暗殺に臨むのだ。
「ラナ殿で、よろしいですね?」
少し奥で待っていた近衛騎士たちに接触すると、まずは身分を照会される。
「はい――」
ラナの答えに、近衛騎士が頷くと、
「一人と聞いていたが……、そこの男は誰ですか?」
続けて、今度は俺に不審な目を向けてくる。
やはり来たかと、
「ああ、俺は助太刀のレオだよ。聞いてなかったかい?」
これで通ればよしと、とりあえずトボけてみる事にする。
「いや、来るのはラナ殿だけと聞いているが――」
やっぱり通らない様だ……。
うーん、ここは四の五の言い訳しても、余計に怪しくなるんだろうな……。
それなら――、とスキル『情報操作』を発動する。
「――――!」
途端に近衛騎士の片方が、何かを思い出した顔付きになる。
「そうだ――。助太刀のレオ殿ですね?」
「ああ、俺がレオだ」
笑顔で請け合う俺に、
「私も失念しておりました――。失礼いたしました、レオ殿」
もう片方の近衛騎士も慇懃に頭を下げてくる。
「いやいや、いいって事よ」
そう言いながら、愛想よく笑う俺に、ラナがキョトンとしている。
手のひら返しの対応だから無理もない。後でちゃんとスキルだと伝えておこう……。
それにしても、この『情報操作』のスキルは、王弟の前線基地から逃げた時もそうだったが、ほんと使えるわ。
だが冷静に考えれば、前線司令を殺しておきながら、今度はその王弟勢力の暗殺依頼を受けているんだから、因果なもんだ……。
「では、ご案内いたします。ラナ殿、レオ殿」
俺の感傷を遮る様に、近衛騎士たちが声をかけてくる。
まあ、考えても仕方ないなら、ここは余計な事は考えない方がいい。
そう思い、ラナと並んで近衛騎士たちの後に従っていると、
『なにやらここは――、瘴気に満ちておるの』
センチアが俺に念話で語りかけてくる。
『瘴気? なんだよそれ?』
『まあ、言うてしまえば『魔』の気配じゃな――。薄々は感じとったが、王都に近付くにつれて、どんどん濃くなっておる』
『どういう事だよ? モンスターの大群でもいるっていうのか?』
『確かに、かの存在も『魔』にあてられた獣のなれの果てじゃが……。とにかくレオ、気を抜くなよ』
『ああ……分かった』
要領は得なかったが、いつになく真剣なセンチアの警告に、俺も素直にそう答える。
「なあ、ここから王都は近いのか?」
不安を打ち消す様に、前を歩く近衛騎士に問いかける。
「およそ半日の距離です。夜のうちに王都に近付き、明日の『饗宴』に乗じて潜り込みます」
「饗宴?」
初めて聞くキーワードに、俺は首をひねる。
「王兄は年に数回、王都で『饗宴』と称して、盛大な美女集めを催します――」
近衛騎士の説明に、
――ケッ、権力者様はどこの世界でも悪趣味なこった。
心で悪態をついていると、
「そこにラナ殿も出ていただきます」
「――――!」
聞き捨てならない内容に、俺は放心状態になってしまった。




