【23】『違うよ』
俺は深夜にもかかわらず、寝床の納屋でステータスを開くと、現時点のHP、MP、スキルレベルを再度確認する。
それが済むと武器を錬成し、その精度を細部まで入念にチェックする。
銃火器、刃物、すべて問題ない――。
ククルの様にはいかなかったが、俺は俺なりにレベルアップした。
――あとは前に進むだけだ。
そう考えていると、
『レオ――』
センチアからの合図が来る。
『ああ』
俺も短く答えて、立ち上がる。
納屋の扉を静かに開けて外に出ると、満点の星空だった。
静寂の中、星の明かりを頼りにそっと足を進める。
少し歩くと、小道の先に、やはり足音を殺して歩くラナの姿が見えた。
「――――⁉︎ れ、レオさん?」
どのタイミングで声をかけようかと思っていたが、すぐにラナは俺に気付き、振り返ると驚いた声を上げる。
それに、
――シーッ。
と俺は口の前に指を立てる。
ラナもハッとした顔で、可愛いらしく口に手を当てる。
そのまま、ゆっくりラナに歩み寄る――。
「れ、レオさん。どうして?」
「俺も一緒に行くぞ。ラナ」
小声で問いかけるラナに、俺は結論から答えた。
「全部分かっている。俺にまかせろ――、ラナ」
さらにそう言って、ラナをじっと見つめる。
ラナは、今日は薬草取りに行く事もなく、ことさらにエルやアーシャ、カムリたちと遊び、語り、そして触れ合っていた。
それが父親違いの妹弟たちとの、別れの儀式だという事は、俺の目には明らかだった。
年長のエルは時折、涙ぐんでいたから、彼女も気付いていただろう。
どうせラナの事だから、黙って行くのだろうと思っていたが、やはりそうだった。
「レオさん……」
また涙ぐむラナに、
「帰ってこよう。またここに」
と笑顔で伝える。だが――「一緒に」とは言えなかった。
『言っておくがレオ。『暴食神』を倒したらお前は――』
『ああ、分かってる。俺はすぐに、この異世界とはオサラバだろ?』
センチアの警告にも、俺は即答する。
『ならよい……』
姿は見えないが、センチアも神妙な声色になっている。
いつもは俺を茶化しやがるが、少しはこいつも気を遣ってくれているのか?
なんて思っていると、
『よし! なら、記念に一発おっ始めとくか? ワシ、静かに見とるから』
『おっ始めねーよ! しかも席外すとかじゃなくて、見てんのかよ!』
やっぱりセンチアは、いつものセンチアだった。
だがそんな冗談も、こいつなりの気遣いなのだろう。
思い詰めれば――、悲しくなるからだ。
ここは俺も、最後まで明るくラナを元気づけなくちゃな。
そう決意した瞬間――、
無言のままでいた俺の胸に、ラナがそっと飛び込んでくる。
「――――!」
「少しだけ……、少しだけこのままでいさせてください」
俺を制する様に、ラナが先にそう言ってくる。
その肩を抱く事で、俺もラナの気持ちに応える。
――もうラナに、人殺しはさせない。
だから俺がすべてを背負う。
暗殺対象の『暴食王』こと王兄――。その正体である『暴食神』は俺の討伐対象でもある。
それなら俺が、王兄を倒せばいい。
――それでラナを守ってやれる。
触れ合う胸のぬくもりの中、決意を新たにしていると、
『――違うよ』
突然、聞こえてきた声に、俺は驚きのけ反りそうになる。
念話の様な声――。
それならセンチアかと思ったが、声質が全然違う。
今、聞こえてきたのは、かなり幼い声だった。
確かにセンチアもロリババアだが、こんなタイミングに声音を変えてまで、タチの悪いイタズラをしてくる奴じゃない。
――幻聴か……?
そういえば、耳というより胸から伝わってくる様な感覚だった。
ラナを抱きしめながら、俺も相当にナーバスになっているのかもしれない――。
そう自分を落ち着けようとしていると、
――ゾクッ!
今度は、背中全体を襲ってくる悪寒に戦慄する。
俺の固有スキルである『裏読み』の警告だ。
――な、なんでこれが今……⁉︎
幻聴の後に来た、確かな感覚に今度は恐怖する。
――俺は何かを間違った。
それを予告するのが『裏読み』の力であり、その警告を読み切る事で、俺は幾多の困難を乗り越えてきた。
だが今、俺は『暴食神』の討伐に乗り出したばかりで、まだ何も始まってはいない。
そんな中で、俺が何の本質を見誤り、どんな悪手を打とうとしているのか……?
状況が漠然とし過ぎて、予測の立てようがない。
「ありがとうございます。もう大丈夫です」
そんな時、俺から離れたラナが顔を上げ、笑顔を送ってくる。
ラナには、動揺を悟られたくない――。
だから、
「大丈夫だ――。俺にまかせとけ!」
と、俺はめいいっぱいの笑顔で、できるだけの虚勢を張る。
――もう引き返せない。それなら前に進むだけだ!
出発前の決意を確かめながら、
「行くぞ」
とラナに声をかける。
「はい!」
明るい返事に背中を押される様に、俺は足を踏み出す。
それでも拭い切れない――、一抹の不安を抱えながら。




