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◯◯しないと出られない異世界  作者: ワナリ
第一章『怠惰:異世界攻略⁉︎』

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【22】『それぞれの覚悟』


「――――⁉︎」


 ラナの母親が口にした、最後の『依頼』――。

 その暗殺対象が『暴食王』の異名を取る王兄である事に、俺は愕然とする。


 センチアとククルと協議の上、俺たちが『暴食神』であろうと見定めた討伐対象も、同じく王兄だった。

 これが互いを引き寄せ合う、『大罪のカルマ』の力なのかと、今さらながらその運命に恐ろしくなる。


 だが今は、ラナがその暗殺に駆り出されようとしている問題を、どうにかしなくてはならない。


「お前、ついさっき王兄の依頼で、王弟の配下を殺させておきながら、今度は王兄の――、いや王兄自身を、ラナに殺させようっていうのか⁉︎」


 暗殺者とはいえ、その節操のないやり口に、俺は異論を挟む。


「フン、これまでだって、王兄、王弟、両陣営からの『依頼』を、ずっと私たちはこなしてきたんだ。何を今さら――」


 事もなげにそう言う母親に、俺は絶句する――。

 異世界とはいえ、これが戦争の現実なのかと胸が苦しくなる。


 俺にしてみれば、仁義を前提とした善悪の観念が、麻痺していると思わざるを得ない。

 だが戦争に、仁義もクソもないのが現実なのだろう。

 それに戦争という行為に、それこそ善悪も何も存在しない事は、俺にも分かっていた。


 俺が生きていた地球という世界にも、それこそ物心をついたばかりの少年兵が、傭兵として日替わりで陣営を変えている事もあっただろう――。

 やはりこの異世界では、俺の方が異分子なのかと胸が苦しくなる。


「なあラナ、頼むよ――」


 俺が落ち込んでいる間に、母親はラナに向かって決断を迫る。


「王兄さえ殺せば、長かった戦争も終わるんだ。そしたら、みんな――、お前も幸せになれるんだよ?」


 もう俺に、それを止める事はできなかった。

 そしてラナは――、小さく頷いた。




 太陽が真上に昇った頃、俺とラナは二人で家のまわりを歩いていた。

 アーシャとカムリがついてこようとしたが、おませなエルがウインクをしながら、二人を引き留めてくれた。


 ラナと顔を見合わせ、苦笑してしまったが、ここはエルの気遣いがありがたかった。

 なぜなら――俺たちは、大事な話をしなくてはならなかったからだ。


「いくらお前が、すごい力を持っていたって――」


 固有スキルの存在を知らないラナに、曖昧な表現でそう言ってから、


「相手は王だぞ。失敗すれば、お前は死ぬかも知れないんだぞ?」


 俺は先手を取って、無謀な暗殺に挑もうとしている、その覚悟を問い質す。


「そうですね……。なんででしょうね……」


 ラナは別に俺をけむに巻く訳でもなく、本当に分からないと言った顔で、晴れ渡る空を眺めている。


『センチア、今回の『依頼』は本当だと思うか?』


 不安にかられ気弱になった俺は、思わず念話でセンチアに意見を求める。


『この前、ここに来とったのが、ただの伝令ではなく、王弟の近衛騎士だったからの――。王命であれば、まず間違いはないじゃろ』


 俺自身、そうだとは思っていた。

 それでも何か間違いであってくれと、一縷の望みにすがりたいだけだった。


 ――やはりラナが死地に行くのは、止められないのか……。


 思わず目を伏せそうになるが、


「でもね――」


 と、ラナが頬を赤くしながら、俺の顔を覗き込む姿にハッとなる。


「この『依頼』が終われば……、レオさんとどこに行ってもいいって……。お母さんが、そう言ってくれたからかもしれません」


 そう言い終えると、ラナは満面の笑みを作る。

 それからラナは、堰を切った様に夢を語り始める。


「ねえ、レオさん。戦争が終わったら、どこか遠くに二人で行きましょう。きっとアーシャもカムリもお母さんも、エルがいれば大丈夫です」


「ラナ……?」


「それで、いい所を見つけたら、そこに家を建てて暮らしましょう。それから――」


 そこまで言ってラナは、モジモジする。


「こ、子供をたくさん作りましょう。家族はたくさんいた方がいいです。私のお父さんは、よく食べてよく飲んで、よく暴れて……、本当にひどいお父さんでしたけど、レオさんはいいお父さんになってください。信じています! ああ、もちろん私もいいお母さんになりますよ。約束します!」


 そう言って、ラナは両手を握り拳にして、意気込みを示す。


 初めて聞いたが、ラナの父親も相当にひどい奴だった様だ――。

 それはさっき母親が、少し父親の事に触れただけで、ラナが怯えた様な反応をしていた事でも明らかだった。


 ひどい父親に、ひどい母親――。だからこそ、ラナは暖かい家庭に憧れているのだろう。

 その相手に、俺を選んでくれた事に胸が熱くなる。


「ああ」


 俺は小さく答える――。


 定められた別れがある事は分かっている。

 それでも――、たとえそれが嘘でも、どうして今その思いに応えずにいられただろうか……。


「もう一つ、お願いがあります」


 ラナが目を輝かせる。


「レオさんが言っていた、海――。私もそれが見たいです」


「…………」


 俺が、エルたちにホラ吹き呼ばわりされながら語った――海。

 その時、俺と気まずい関係にあったラナも、密かにそれに目を輝かせていた事を思い出す。


「分かった。絶対に連れていってやる」


「約束ですよ。その時は、エルもアーシャも、カムリも連れていってあげてください」


「ああ、まかせとけ!」


 俺はことさら明るく、そう答える。

 するとラナが静かに、俺の胸に身を預ける――。

 そして芳しい香りに誘われる様に、俺もそっとラナを抱きしめた。

 遠くから、エルたちのはやし声が聞こえてくるが、そんな事はどうでも良かった。


 このまま、ずっとこの時が続けばいい――。


 そんな淡い願いは、


『どうせお前の事じゃから、最初からそうするつもりだったんじゃろうが……、覚悟は定まったか?』


 という、センチアの念話に見事にブチ壊される。


『ああ……、ガッチガチに定まったぜ』


 ムードを読んで、もうちょい待てよと思ったが、俺も顔を上げると東を向きながら、その覚悟をセンチアに向かって力強く述べる。


『暴食王――、いや『暴食神』は俺が倒す!』


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