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◯◯しないと出られない異世界  作者: ワナリ
第一章『怠惰:異世界攻略⁉︎』

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【20】『正妻パワー』


「ぼ、暴食王だって⁉︎」


「ええ、東方を治める王兄の異名ですわ」


 ククルの言葉に愕然とする。

 まさか大陸を二分する一方の王が、『暴食』の名を冠されているとは知らなかった。


『センチア――』


 すぐに念話で問いかける。


『ワシもククルから、先ほど大体の事は聞いた。断定はできんが――、可能性は高いの』


 センチアも王兄が、『暴食神』である可能性を否定しない。


 これまで俺たちは、お互いを引き寄せ合う『大罪のカルマ』を頼りに、討伐目標である『暴食神』を探していた。

 俺の『強欲のカルマ』は、ラナの『怠惰のカルマ』を引き寄せたが、どうやらククルの『傲慢のカルマ』の方が、当たりを引いたらしい。


『それとダーリン。例の伏せ字――』


『ああ、『二者択一』だろ』


 念話で伏せ字に言及してきたククルに、俺もそれを解き明かした事を伝える。


『結構ですわ――。私、こう考えましたの』


『王兄と王弟のどちらか――。その二者択一か?』


『フフッ、さすがダーリン。ラノベ的発想なら、冴えてますわね』


 以心伝心の答えに、ククルも満足そうな顔になる。


『それなら王兄――。その暴食王を討てば、ミッションクリアって訳か』


『その公算が高いですわね』


『で、その暴食王って、どんな奴なんだ?』


 討伐対象が見えてきた事はいいが、その概要がまったく分からない俺は、ククルに説明を求める。


『私も直接会った訳ではありませんが、東側の領民は、相当な搾取を受けている様子でしたわ』


『……搾取か』


『ええ。王兄は、王弟と争うための戦費調達だけでなく、自身の贅沢のために、領民に重税を課し、国中の美女も徴発し放題――。まさに『暴食王』の名に恥じない暴君ぶりですわね』


『センチア、どう思う?』


 再度、センチアの意見を聞く。


 俺はこいつの眷属兼、(しもべ)の立場として転生している。

 だから、ここは主の判断を仰ぐ必要があると思ったからだ。


『ふむ。やはり確証はないが、挑んでみる価値はありそうじゃな』


『よし……』


 どちらにしても、暴食神の分裂体が覚醒してしまえば、そこでタイムアウトだ。

 なら挑んでみるという、センチアの意見に俺も賛成だった。


『なあ、一応聞いておきたいんだが――、その暴食王自身が、暴食神の正体って事でいいのか?』


 暴食神を討伐する事は既定路線とはいえ、いまだその掴みどころのない存在について、俺は説明を求める。


『うーん……』


 センチアは少し困った声を上げてから、


『そこは、ワシにもよく分からん』


 と、人に討伐を命じておきながら、なんともいい加減な事を言ってくる。


『おいおい、ちょっと待てよ!』


 念話で喚く俺に、


『ちょっとダーリン、シャラップ! ――つまり暴食神の分裂体は、それ自体が個体となるかもしれないし、もしくは『大罪のカルマ』の様に人間に寄生して、そこから宿主を乗っ取る事もあると考えてよいのかしら?』


 またもやククルが、ご主人様っぷりを発揮しながら、状況を華麗に整理してくれる。


『やはり『傲慢女』は頭が切れるの。どこかのボンクラとは大違いじゃの』


 センチアも枕詞の様に、俺をディスってから、


『その通り。百年前に我らが食われ、暴食神が自壊してから逆算するに、奴の分裂体はこの世界の誰かに寄生し、数世代を経て覚醒しようとしていると考えるのが妥当じゃな』


 と、リアルタイムで状況を知る者としての見解を述べる。


『マジか……』


 俺はコテンパンに罵られた事は、ひとまず置いといて、


『その寄生主が――、王族とかってタチが悪すぎだろ!』


 暴食神が選んだ寄生主のまずさに閉口する。


『何代にも渡って民を搾取し、美食に溺れてきた暴君なら、遺伝的に『暴食』の家系であっても不思議はない。じゃからそれを『暴食神』が宿主に選んでも、これまた自然な流れだと言える』


 センチアも状況を分析しながら、可能性を詰めていく。

 だが今のところ、すべては机上の空論でしかない――。


『私はもう少し、暴食王について調べてまいりますわ』


 同じ事を考えていたのか、ククルがその調査を買って出る。


『それなら俺も――』


 と言う俺に、


『ダーリンは――、話をつけにいく所が、おありでしょ?』


 ククルは、ここまで念話で話す俺たちにキョトンとしている、ラナに視線を移す。


『――っ!』


 返す言葉がない。

 その通り、俺はラナの母親に、娘を暗殺者にした事を糾弾するつもりでいた。


『大体の事は、センチアから聞きましたわ。ダーリンの事ですから、見捨てられなかったのでしょうけど、それでも胸のつかえは消してきてくださいな』


『すまねえ……』


 薄笑いを浮かべるククルの心遣いに、心から感謝する。

 いつもはドSで冷たい事ばかり言うが、こういうところにマジで頭が上がらなくなる。


 だがククルは表情をあらためると、


『ですがダーリン、この子は――』


『ああ、『固有スキル』の持ち主――。しかも母親から受け継いだ二世だが、俺たちと同じ『大罪のカルマ』持ちだ』


 俺も先回りして、ラナの素性について説明する。


『『固有スキル』の力は?』


『スキルレベルが瞬間的に跳ね上がる――。『斬撃』に至っては今のお前以上で、50を超えていた。まさに『限界突破』の名前通りだ……』


『そうですか……』


『だが、一番タチが悪りぃのは、本人が『固有スキル』の存在に気付いていない事だ。しかも素のスキルは、どれも大した事はねえ』


『なるほど――。さっきダーリンが私のスキルレベルに驚いていた時も、その子はポカーンとしていたのが理解できましたわ。『洞察』のスキルさえ持っていないんですわね』


 ククルは、一通り納得したのか、ウンウンと頷くと、


「ではラナさん。私はこれでひとまずおいとまいたしますが、ダーリンをよろしくお願いいたします」


 と、ラナに話しかけていながら、視線は俺を激しく牽制する。


 瞬間、俺はその意味に恐怖する。


 それが間違っていない証拠に、


「は、はい。ククルさんもお気をつけて」


 と素直に頭を下げるラナに、


「では、ごきげんよう――。ラナさんも、あまり人の奴隷をかどわかしますと、ロクな事がありませんので、お気をつけ遊ばせ」


 挨拶を装いながら、思いっきりトゲのある言い回しで、警告を残していく。


「も、ち、ろ、ん、ダーリンも」


「は、はい……」


 ククルの背中を見送る間、生きた心地がしなかった。

 救いなのは、ラナがキョトンとした顔をしていて、ククルの真意に気付いていなさそうな事だった。


「ハア……」


 ため息をつく俺に、


「あの……レオさん。ククルさんとはどういうご関係なんですか?」


 休む間もなく、ラナから悪意のない直球が投げ込まれる。


「あー、配下だ。奴は俺の配下なんだ!」


 とりあえず即答する。

 嘘は言っていない。固有スキル『征服特権』で、俺はあいつの王の立場なのだ。


「でも……、さっきククルさんは、レオさんの主人だって――。あと奴隷とも言っていましたよね」


 グハッ、ピュアなツッコミやめてー!


 確かに俺はククルの支配者であるんだが、ミッション攻略の過程で奴隷契約も結んじまってるんだよな……。

 いや支配者なのに配下の奴隷って、俺どういう王なのよ⁉︎


「あと『異世界』とか……」


 もうラナさん、記憶力よすぎー!


 これは下手な事は、もう口走れないなと動揺していると、


「それに――、『ダーリン』ってどういう意味なんですか?」


 ついに来たもっとも触れてほしくない、最強最悪のキーワードに、俺は硬直する。


「あ……、ああ……」


 もう、それしか言えなくなった俺に、


「んー? どういう意味なんですかー⁉︎」


 女の勘なのか、ラナはいつもとは違う、らしくない勢いで食いついてくる。


「ほら、アレだ。ダーリンっていうのは……、俺のアダ名なんだよ」


「えー、ほんとですかー⁉︎」


 うわっ、なんでラナさん、今日はそんなに鋭いのー?

 元気になってくれたのは嬉しいんだけど、もうマジで勘弁してくれ……。


 ――離れていても俺を支配する、ククルの女王様力。

 その凄まじさに俺は、ノックダウン寸前になる。


『プププッ、いったいどっちが支配者なのか分からんの。ギャハハハ!』


 そんな俺の心を読んだ、センチアの声がメチャクチャ耳に痛かった。


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