【19】『女王の帰還』
「あ、あの、レオさん。この方は?」
池のほとりで正座している俺に、ラナが心配そうに声をかけてくる。
「主人……、いいえ飼い主ですわ」
目の前にいる声の主が、平然とそう言い放つ。
「そうなんですか?」
ラナさん、そこは普通に受け入れないで。辛すぎるから……。
「どうなんです? ――ダーリン」
「…………はい。そうです……」
真上から見下してくる女王――ククルの圧力に、屈服した俺はそう答える。
「フフッ、いいお返事でしたわ」
答えに満足したククルがニヤリと笑う。
何日ぶりかは忘れたが、久々に食らうこの女王様ムーブに、ククルという存在をあらためて焼き付けられた思いがする。
だが、これで一通りの懺悔は済んだ……。いや済みましたよね? ねっ、ねっ?
そう判断した俺は立ち上がると、
「なあ、お前――、いつからそこにいた?」
さっきから、どうしても気になっていた点を、ククルに問いかける。
緊張する――。
意図していなかったとはいえ、俺の告白モードを一部始終見られていたのなら、恥ずいのと同時に、今後何を言われ続けるか分かったものではないからだ。
「ああ――」
そう前置きしてククルが、妖しく笑う。
瞬時に俺の心が、
――あっ、これダメなやつだ。
と、警戒アラームを鳴らす。
「見ていましたわよ……。ダーリンが、そこの女が脱ぐのを、後ろを向くフリをしながら、横目で覗いていたあたりから」
はいキター! ククルさん、見事な脚色です! 俺の好感度、爆下がりですよねー!
――などと感心している場合じゃない。
「おい、ククル、なに言ってんだ⁉︎ ち、違うぞラナ。俺は覗いてなんかいないからな!」
抗議と弁解を同時展開する。
「ウフフッ」
「れ、レオさん……」
ニヤつくククルと、頬を赤くするラナ。
それぞれ予想通りのリアクションに、分かっていても動揺する。
もうここでの弁解は諦めて、ラナには後で個別に説明するか……。
そう思っていると、
「でもダーリン? あそこで私が声をかけていなければ……、いったい、どうするおつもりだったんですかぁ?」
俺の思惑を読んだかの様な、追撃が襲ってくる。
「おっ、おい何を⁉︎ 俺は――」
こればかりは、全力で否定しておかなければマズイ!
焦る俺に、
『いやー、そりゃ当然、おっ始めとったじゃろうな』
いきなりセンチアの念話がブチ込まれてくる。
「おっ始める訳、ねーだろ!」
思わず念話でなく、素で口走ってしまった。
しまったと思ったが、もう遅い。
「あ、あ、あああああ……」
ラナがアワアワしてしまった。いや、そうなって当然だわ。
純情可憐なオボコさんを相手に、おっ始めるとか言っちゃった時点で、もう完全アウトでしょ……。
しかも過酷な逃走の後だったとはいえ、センチアがいつも俺のそばにいるという事を忘れていたのも、大チョンボだった。
「違う、違う、違うんだーっ!」
俺の声が森の中に、虚しく響く。
「フフフッ」
『クックックッ』
そしてククルとセンチアの勝ち誇った笑いが、俺の心をさらにズタズタに引き裂いていく。
もう勘弁してくれよ、と思ったが、
「でも……、ダーリンもちゃんとレベル上げには励んでいた様ですわね。結構ですわ――」
もう満足したのか、突然ククルが話題を変えていく。
「まあ、全部レベル20じゃ、私に比べればまだザコレベルですけどね」
ククルさん、褒めるかディスるか、どっちかにしてくれませんかね……。
ひと通りヘコんだ後、
クソッ、じゃあオメーがどんだけレベル上がったってんだよ!
腹立ちまぎれに、ククルのステータスをスキルで開いてみる。
「――――⁉︎」
その凄まじさに息を呑む。
HP:550/550 MP:700/700
スキル:『魔弾:LV45』『火炎:LV43』『電撃:LV44』『氷結:LV41』『シールド:LV46』『陥穽:LV41』『浮遊:LV41』『念動:LV43』『魅惑:LV48』『再生:LV45』etc……。
もう爆上がりとかいうレベルじゃない!
HPとMPも跳ね上がっているが、スキルに関しては、この異世界に来た時よりも全部四倍増しのレベル40台になっている。
他にも、前にはなかった新スキルも増えているし……、これじゃ俺がザコと言われても仕方のない成長っぷりだ。
負けを認めた俺をククルがニヤニヤ見ているが、く、悔しくなんかないんだからね! と自分に言い聞かせて、ここはなんとかスルーする。
そういえばこいつはレベル上げに出る前に、『伝説の邪竜でも征伐してくる』とかセンチアに嘯いていたらしいが、いったいどれだけの敵を相手にしてきたんだよ……。
「ど、どうすりゃ、こんなにレベルが上がるんだよ?」
その理由が知りたい俺は、直球で問いかける。
「ああ……、ちょっと『伝説の邪竜』とかいうのを狩ってきただけですわ」
ほんとに狩ってきちゃったんですねー! しかも近所のコンビニでも行く感覚で……。
聞いた俺がアホでした。もうククルさん、相変わらず、パネえっす。
「いや、マジでそんなのいるのか……。ハハッ、やっぱ異世界すげえな……」
俺が力なく苦笑していると、
「ええ、王兄の――、『暴食王』の領地にいたんですのよ」
ククルが俺にだけ分かる、鋭い視線を送ってくる。
「――――⁉︎」
暴食――。
そのキーワードは、萎えかけた俺の心を叩き起こすのに、十分なものだった。




