表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◯◯しないと出られない異世界  作者: ワナリ
第一章『怠惰:異世界攻略⁉︎』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/114

【16】『限界突破』


 ラナが西に向かって進む。

 尾行を始めてから約三十分――。それまでに、何度か騎馬の哨戒部隊と遭遇した。


 境界線かつ緩衝地帯である貧民街から、西へ進路を取ったという事で、王弟軍の領地に向かう事は予想できたが、どうやら目的地はその前線基地であるらしい。


 俺はスキルで身を隠しているからいいが、ラナは王弟軍の姿が見える度に、岩陰や草原に身を隠し、なんとかそれをやりすごしていた。

 もしラナの身に危険が及べば助ける気でいたが、どう考えても十代の少女がやる事ではない。


 俺が不安になるくらいだから、当のラナはもっと不安だろう。

 それでも、やらなければならない『何か』があるから、ラナは進むのだ。


 ラナの母親が受けた『依頼』――。

 その正体が何であるか、俺は見極めなければならない。


 時刻はそろそろ深夜。

 そんな暗がりの中で、煌々とした明かりが見えてきた事に、俺は目を見張る。


 荒野の先に――街があった。

 その外郭から、そこは間違いなく軍の施設であったが、家屋だけでなく何やら歓楽街の様な施設まである事に俺は驚いた。


 そもそも城の様な拠点は、日本的な概念では軍事目的のみを考えているが、西洋やアジアのそれは、都市機能も併せ持つ『要塞都市』である事も珍しくない。


 とはいえ柵の向こうに、鎧を纏った兵に混ざって、明らかに娼婦らしき女たちがウロウロしているのには閉口した。

 俺はミリタリー小説家としての知識で、軍の前線部隊を目的に流れ娼婦が来る事は知っていたが、ここの場合はそれとはまったく違う。


 粗末ながら要塞都市なのに、軍事よりも娯楽が優先されている。

 少なくとも、俺の目にはそう見えた。


 それに見るからに規範も緩そうだ。

 さっき遭遇した哨戒部隊にしても、一応警戒をしているという素振りだけで、国境周辺なのに任務に対する真剣味はまったく見られなかった。


 だから、ラナが無事にここまで来られた点はありがたかったが――、奴らは国を守るという気概もなしに、ただ特権をむさぼっているだけの軍人なのだ。


 前世がド底辺だった事もあって、俺はこういう輩を見ると不愉快になる。

 俺自身の不満もあるが、ラナたちの様に懸命に働いても、貧困に喘いでいる人々もいるからだ。


 そんな思いに憤っていると、ラナが柵の前で粗末な布を頭から被る。

 そのままフラフラと入り口である木戸に近付くと、守備兵はラナをチラリと見ただけで素通りさせてしまう。


「…………」


 あまりのずさんな警備態勢に、絶句してしまう。

 おそらく『依頼』の使者からの指示通りの行動なのだろうが、流れ娼婦を装うだけで、こんなに簡単に侵入できるという事に、俺は驚きと同時に呆れてもしまった。


『レオ、ワシらも行くぞ』


『ああ』


 センチアに促されて、俺も柵の中に入る。

 木戸を通る時に、どうしても腹が立ったので、スキルで姿が見えないのをいい事に、俺は『バーカ!』と念話で衛兵を罵ると、それに続いてセンチアも『バーカ!』と言っていた。


 ラナを追うと、歓楽街の兵の隙間を縫って歩いていた。

 途中、何人かの酔った兵に声をかけられたが、その度に「ヒッ!」と声を上げながら、そそくさと逃げていく――。


 それは、いつもの気弱なラナそのままだった。

 なぜ、そんなラナがこんな軍事施設に、しかも娼婦を装ってまで潜入しなればならなかったのか?

 俺の心は千々に乱れていく。


 何か危険な事でなければいいが――。

 不安がさらに募っていく。


 そしてラナは小さな地図を確認しながら、ついにとある洋館の前で足を止めた。

 粗末な建物だが、装飾の至るところに淫靡な雰囲気が漂っている。

 間違いなく――そこは娼館だった。


 その時点で、俺はラナの身が心配になり飛び出そうとするが、思念体のままのセンチアに肩を掴まれ止められた。


『何しやがんだ⁉︎』


『落ち着け、大丈夫じゃ』


 センチアの言葉通り、ラナは娼館には入らず、その脇道に入ると静かに身を潜める。


 俺はホッと胸を撫でおろすが、


 ――だが、どうしてこんな所に?


 それはそれで疑念が深まっていく。


 やがて娼館の扉が開くと、そこから取り巻きの武官、そして露出の多いドレスを纏った娼婦に囲まれた、恰幅のいい男がノシノシと姿を現した。


 ラナがその男の姿を窺っている。


「――――!」


 ラナの潜入の目的が、そいつにある事が分かった俺は、すぐにスキル『洞察』で男の身分を調べる。

 

 《所属:王弟軍 第三方面部隊司令》

 

 方面部隊司令だって⁉︎ って事は、おそらくここの軍事施設のトップだ!

 そんな男を、なぜラナは……。


 いや、大方目的は分かった。

 だがラナにそんな事ができる訳がないと思った。


 俺は『隠密』のスキルを使ったまま、両手に銃を錬成する。

 ――これは荒事になる。

 場合によっては、すべてをブチ壊しててでも、ラナの身を優先すると心に決める。


 司令が太った体を揺さぶり、娼婦の体を撫でまわすと、娼館を後にする――。


 護衛の武官は五人。皆、帯刀している。

 だらしなく太った司令はともかく、お楽しみの後で浮き足立ってはいるものの、護衛の体は皆、屈強そのものだった。


 その男たちを、ラナが距離を詰めながら追跡していく。

 居館に戻ろうとしているのだろうが、その行程で次第に人の姿が少なくなっていく。

 粗末とはいえ軍事施設である。おそらく軍人と庶民の居住区は、分けられているのだろう。


 やがて男たち以外、まったく人がいなくなる。

 ――今しかない! 

 そう思ったのだろう。ラナがその身を暗闇から、月明かりの中に晒した。


「バカ! なに考えてんだ!」


 そう叫び飛び出そうとする俺は、今度はセンチアに口ごと羽交い締めにされてしまう。


『おいセンチア、離せ! 無理だ! 刺し違えるにしても、絶対できる訳がない!』


 念話で必死にラナの無謀を訴える。

 まさかとは思ったが、やはり『依頼』は要人の暗殺だった。


 だがラナは、草原のモンスターでさえ倒せないほどのステータスしか持っていない。

 そんな少女が、屈強な護衛に囲まれた武人を倒せるはずがないのだ。

 だからここは俺が、ラナを連れて逃走するしかない――。


 そう思ったのだが、


『いや、見届けい』


 センチアは落ち着いた声で、俺を押し留める。

 その声は、何か『神の威厳』を感じさせるものであり、動揺していた俺もなぜかそれに従ってしまう。


 ラナの顔から布が下がり、その顔があらわになる。

 その表情は――やはり怯え切ったものだった。


 やはり無理だ! と思ったが、見つめるラナの口元が動いている事に気付き、その声に耳をすます。


「私は……、怠け者、怠け者、怠け者、怠け者、怠け者――」


 呪文の様な言葉に愕然としてしまう。


 続けて、


「だから私は、頑張らなくちゃ、頑張らなくちゃ、頑張らなくちゃ――」


 ラナが口走る度に、その体から鈍い光が放たれていく。


『レオ、あの娘のステータスを見てみい』


『――――⁉︎』


 センチアの言葉に従い、急ぎラナのステータスを見る。

 

 HP:55/70 MP:80/80

 

 いや、別に何も変わっていない。こんなの普通の少女のステータスだ。

 だがセンチアが、なんの意味もない事を言う訳がない。

 そう思い、続けてスキルのページをめくっていく。


「――――⁉︎」

 

 スキル:『創造:LV8』『錬成:LV11』『火炎:LV15』『電撃:LV18』『シールド:LV21』『再生:LV13』etc……。

 

 確か、1か2ぐらいしかなかったスキルレベルが爆上がりしている⁉︎

 しかもカウンターの様に、今もレベルが上がり続けている――。


 その中でも俺が目を見張ったのが、

 

 『斬撃:LV58』

 

 もはや常軌を逸していると思った瞬間、ラナの手に大鎌が錬成される。


「私ならできる……、できる、できる、できる……」


「な、なんだこいつは⁉︎」


 不気味に口走るラナに、衛兵たちもその存在に気付く。


『見たかレオ……、これがラナの固有スキル――『限界突破』じゃ!』


 センチアが言った瞬間、


「あああああーーーっ!」


 咆哮を上げながらラナが突進する。


 そして次の瞬間――、目にも止まらぬ速さで、護衛の首が三つ宙に飛んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ