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◯◯しないと出られない異世界  作者: ワナリ
第一章『怠惰:異世界攻略⁉︎』

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【15】『絡まる糸』


 ついに来た『依頼』の使者――。

 それが大陸を二分して交戦中の、『王兄』側の人間だった事に驚いた。

 漠然と何か闇の深い問題だとは思っていたが、まさか戦争に関わる事だったとは予想していなかった。


 ここはスキル『隠密』を使って、少しでも使者に近付きたかったが、アーシャとカムリがいる前で姿を消せば、おそらく騒がれてしまう。

 それなら言い含めるという手も考えたが、子供がどこまで事態を理解してくれるか不安要素が大きかった。


 下手に後でラナや母親に話されれば、俺が探っている事がバレて、すべてが御破算になる。

 だからここはエルを信じて、静観するしかないと腹を決める。


 今、内容が分からなくても、動きが掴めれば現場を押さえる事は可能なのだ。

 そう思い、アーシャとカムリと遊びながら、神経は使者のいる家に向けて集中する。


 念のため、スキル『索敵』を発動させておくが、特に使者がエルや母親に危害を加えようとする動きはなかった。


 やがてエルに見送られて使者が家を後にした。

 すぐに機転を効かせたエルが、遊びの輪に入るのを装い、俺に耳打ちしてきたが、具体的な依頼内容は、使者と母親だけの密談だったので、分からないという。


 済まなそうなエルに、


「十分だよ。ありがとう」


 と言うと、ホッとした顔で、家事をするために家に戻っていく。


 とりあえず『依頼』の使者の尻尾を掴めただけでも収穫だ。

 ここは狩りに行くフリをして、使者を尾行してみるか――。


 そう思った矢先、


「――――⁉︎」


 また別の方角から、ラナの家を訪ねてくる男が現れ、息を呑む。


 今度の男は白のローブだったが、やはり自分の身分を隠そうとしている意図は明白だった。

 いったい、どういう事なんだ……?

 子供たちと遊びながら、またエルの取り次ぎで家に入ろうとする男に、スキル『洞察』を発動する。

 

 《所属:王弟軍近衛騎士団》

 

 ちょ、ちょっと待て、今後は王弟軍って⁉︎

 焦る俺に、エルも不安げな視線を送ってきたが、すぐに家の中に入ってしまった。


 ダメだ……、全然話が見えてこねえ……。

 いくらここが両軍の境界線上にある緩衝地帯だからって、こうも簡単に争っている勢力の人間が、入れ替わり入ってくるものか?

 しかも、こんな貧民街の母子家庭になんの様だ? なんの『依頼』だ?


 それこそ俺が勘違いしたみたいに、女衒が来たのなら話は分かる。

 だが来たのは軍の人間だ。しかも王兄軍の次は王弟軍が来た。


 今回もスキル『索敵』を発動させておいたが、変な動きはなかった。

 それにさっきは伝令部隊の人間だったが、今度はおそらく王直属の近衛騎士だ。


 下手な事はしないだろうと思っていると、話が終わったらしく、男はエルの見送りに謹厳に頭を下げると、さっきの使者とは逆の――西の方角へ去っていく。


 それぞれの帰路から、やはり両軍からの別の使者と考えて間違いない。

 今度はエルは、こちらに来る事はなく、困った顔で首を振ると家の中に戻っていった。


 これはおそらく使者を尾行してもラチは明かない。

 どうやら問題の糸は、考えていた以上に複雑に絡み合っているらしい。


 ――ここはやはり、ラナが動くのを待つしかない。


 そう決心すると、


「おーし、じゃあ俺も狩りに行ってくるわ。お前ら、エルお姉ちゃんのいう事きいて、いい子にしてるんだぞ」


 アーシャとカムリの頭を撫でてやると、俺もスキルレベル上げのために狩り場に向かう。

 それから、夕食後に納屋に戻るフリをすると、スキル『隠密』を発動しながら、母親のいる窓際の外に潜み、耳をそば立てる。


 母親がラナに『依頼』の話をするなら、俺がいなくなってからのはず――。


 そう踏んでの行動だったが、


『なんかお前、ストーカーみたいじゃのう』


 という、センチアの的確すぎるツッコミは辛すぎた……。


『うるせえ、黙ってろ! 気が散る!』


 俺も念話で言い返すが、マジで壁越しの会話を聞き取る事は、至難の業だった。

 雰囲気でラナと母親が接触しているのは分かったが、何を言っているのか分からず、ただ焦りだけが募っていく――。


 クソッ、無理か……。


 俺が諦めかけると、


『ふむ、決行は明日の夜の様じゃな――』


『センチア……?』


『場所は小さな地図を渡しておるので分からんが、どうやら西に向かう様じゃの』


 センチアは、権能を駆使したのか、ラナたちの会話の内容を教えてくれた。


『すまねえ……』


 頭を下げる俺に、


『フン。ワシのしもべがストーカーなど、主人の品位が問われるからの』


 センチアはそう言って、姿は見えないが、おそらく不敵に笑っていた。


 だが、おかげで条件は整った。

 明日、俺はラナを尾行して『依頼』の現場を押さえる。

 そしてラナを――救ってやる!

 気合を入れ直し、俺は翌日を迎えた。


 日中、エルに、


「今日の夜、お姉ちゃんが『依頼』に行く。だが必ず俺がラナを助けてやる。だからエルは、アーシャとカムリと静かに待っててくれ」


 と報告する。


 それにエルは、


「はい。私はレオさんを信じています。お姉ちゃんを――よろしくお願いします」


 と笑顔で答えてくれた。


 ここまで協力してくれたみんなのためにも、絶対にやり遂げてみせる。

 夜半、決意を新たにしながら、ステータスを確認する。

 

 HP:410/410 MP:240/240

 

 スキル:『創造:LV20』『錬成:LV20』『洞察:LV20』『探索:LV20』『索敵:LV20』『隠密:LV20』『射撃:LV20』『回避:LV20』『塹壕:LV20』『爆破:LV20』『撹乱:LV20』『情報操作:LV20』

 

 軍が絡んでいるなら、場合によってはドンパチも想定される。

 MPの伸びはイマイチだが、HPは順調に増えているし、なにより各スキルレベルがモンスター狩りのおかげで、ついに大台の20に到達した。


 …………あ!


 そういえば、あまりに開かないので、例の『伏せ字』に挑む事を忘れていた事に、急に気付く――。


 今日はこれからラナを尾行するし、やめておこうかと思ったが、やはり気になるのでダメ元で、スキル『洞察』を発動する。

 すると――なんと、このタイミングで『◯◯◯◯』の伏せ字が開いていくではないか。

 

 『二者択一しないと出られない異世界』

 

 …………は? 例によって、まったく意味が分からねえぞ。

 まあ、二者択一っていうんだから、二つの内どっちかを選べっていうんだろうが、いったい何と何を選ぶんだよ?


 お題の内容に首をひねっていると、母屋の方から小さな音がする。


『レオ』


「ああ」


 センチアの呼び声に応えると、スキル『隠密』を発動して、俺も静かに納屋から出る。


 視線の先に、辺りを見回しながら出発しようとするラナの姿があった。

 その顔は――不安に怯え、今にも泣き出しそうだった。


 すぐに駆け寄って抱きしめてやりたい。

 そう思ったが、歯を食いしばり踏みとどまる。

 すべての呪縛を断ち切るためにも、現場を押さえなくてはならない。


 ――もう少しだけ耐えてくれ、ラナ。


 心で呼びかけながら、その背中を見送り尾行を開始する。


 歩きながら、不意にさっきの『二者択一』を思い出す。

 お題であるからには、これまでのパターンから、必ず俺はそれを遂行しなくてはならない。


 その意味は分からないが、俺には前を歩くラナの隣に、選ばなくてはならないもう一つの何かがある気がして、たまらなく不安な気持ちになった。


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