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◯◯しないと出られない異世界  作者: ワナリ
第一章『怠惰:異世界攻略⁉︎』

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【13】『無理無理無理無理』

 

 エルが、ラナを助けてくれと言った。

 突然の事に俺も混乱したが、エルの顔は真剣だった。


「……分かった。落ち着いて話してごらん」


 しゃがんでエルの肩に手を置き、目線を合わせてやる。

 それほどエルの顔は悲壮感に満ちていた。


 この幼い心で相当の決意をしてきたのだろうと、胸が締めつけられる。

 それは言うなれば告発をする様な――、自分の行動が、誰かを裏切る事を覚悟している顔付きだった。


「ラナお姉ちゃん……、きっとお母さんに……嫌な事させられてる」


 勇気を振り絞って言った、エルの一言に胸がチクリと痛くなる。


「うん……」


「時々ね、お母さんのところに『依頼』の人が来るの。そうするとね、お母さんがラナお姉ちゃんを呼んで――、それから少しすると、お姉ちゃんが夜中にこっそりいなくなっちゃうの」


 依頼――。そういえばこのキーワードを、度々耳にしていた事を思い出す。


 俺が初めてラナの家に行った時も、あの母親は俺に、


 ――なんだいその男は? ああ、また依頼かい?


 と言っていた。


「昨日、お姉ちゃんが飛び出して行った時も、後でお母さんに、依頼なの? って聞いたら、すごく怒られたし……」


 そう言って、エルは涙ぐむ。


 さっき届けられた金も、ラナが『依頼』を終えたからだと言っていた。

 それを俺は、ラナが体を売った報酬だと思い込んでしまったのだ。


 だが、これで俺が感じた矛盾が正しい事が証明された。

 いや証明されてはいないが、そう信じたい。


 ラナは、何か母親に命じられて、人には言えない仕事をやっている――。

 それを俺が暴けばいいだけの事だ!


「エル……、もしまた『依頼』の人が来たら、俺にこっそり教えてくれるかい?」


「うん。お姉ちゃんを、助けてくれる?」


 エルの顔に希望の光が差す。


「ああ、まかしとけ」


 力強く請け合う俺自身の心にも、希望の光が差していた。


 ――待っていろ、ラナ。俺はお前の事も、必ず救ってやる!




 決意を固めた俺は、それから荒れ果てた荒野に身を置いていた。


 そこで、一心不乱にモンスターを狩り続ける。

 錬成した銃を撃って、撃って、撃ちまくる。

 ラナを救うため、今できる事をやるために――。


 それはスキルレベルを上げる事だ。


 この異世界にいる『暴食神』の分裂体の手がかりは、いまだ掴めていない。

 もし見つからなければ、覚醒した『暴食神』によって、この世界はまるごと食われてしまう。


 そうなれば俺はもちろん、ククルもラナも死んでしまう。

 たとえラナを救えても、未来がなければ何も意味がない。

 だから『暴食神』を倒す手がかりである、例の伏せ字を解くためのスキル上げを、今はやろう――。そう思ったのだ。


 いつも来ていた草原を避けたのは、ラナと顔を合わせるのが気まずかったからだ。

 今、ラナを問い詰めても、おそらく口を割らないだろう。

 昨日までならともかく、今朝の事で心を閉ざしているはずだ。


 それなら、もう現場を押さえるしかない。動きがあればエルが教えてくれる約束だから、それを待つ事が上策だと判断した。


 別の狩り場を探すのは、スキル『探索』を使えば意外と簡単だった。

 それに副産物もあった――。この異世界の情勢が分かったのだ。


 目の前の事に手いっぱいすぎて、気にする余裕もなかったが、この異世界は先代の王の息子二人が、国を真っ二つにして争っている最中らしい。

 大陸の中心線から東が王兄の領地、西側が王弟の領地で、絶賛戦争中だというから驚いた。


 さらに驚いたのが、ラナの住む貧民街はその境界線のど真ん中にあり、いわゆる緩衝地帯という位置づけにあったのだ。


 なるほど、下手をすれば最前線になりかねない位置に、富裕層が居を構える訳がない。

 それでも貧民街周辺が平和なのは、今は休戦中か冷戦中か、もしくはそこが戦略拠点として価値がないからだろう。


 ともあれそんな世界で、今日までラナたちが無事に生きてこられた事には、ホッとしている。

 俺もミリタリー小説家のはしくれだったので、戦地の略奪の悲惨さは知っているつもりだ。


 だが、そんな世界に――今まさに『暴食神』が隠れているのだ。

 間違いなく戦争よりタチが悪い。


 そう思い、来たるべき時に備えてスキルレベルを確認する。

 草原とは違うタイプのモンスターに手を焼いた甲斐もあって、レベルは18にまで上がっていた。

 それでもまだ伏せ字は開かなかった。


「クソッ!」


 もう日も暮れてきた。気まずいとはいえ、さすがに帰らなければ、ラナも心配するだろう。

 それに夜戦をするのにも、まだ不安がある。


 ちなみにスキルで探り当てたこの狩り場は、東側の王兄の領地内にある。

 無用の接触を避けるために、スキル『隠密』を使って移動していたが、途中で西洋騎士の様な鎧を纏った哨戒部隊に何度か遭遇した。


 そいつらと万が一、戦う事になっても困る。

 俺が倒すべき相手は『暴食神』であり、この異世界の人間じゃない。


「今日はお開きだな……」


 また明日、新たな狩り場に出直すとして、今日は撤退する事を独り言の様に宣言する。


 するとそこに余計なツッコミが入ってくる。


『なんじゃ、解体せんのか?』


 センチアの念話だ。


 確かに言われてみれば、今日だけで五十体近いモンスターを倒している。

 当然、その死骸が死屍累々と辺りに横たわっている。

 解体して、臓器を持って帰れば金になる。

 頭では分かっている。分かってはいるが……。


「いや、無理だ。無理無理無理!」


 と言って、俺はプイと背中を向ける。


 もちろん気色悪いというのもある。

 だがそれ以上に俺は、これはラナの仕事なんだという気持ちが、先に立っていた。


 二人の共同作業――。それを一人でやる気には、どうしてもなれなかったのだ。


 だから――、


『なんじゃ、ヘタレじゃのう』


 というセンチアの言葉を、なんとも心地よく感じながら、俺は家路についた。


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