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◯◯しないと出られない異世界  作者: ワナリ
第一章『怠惰:異世界攻略⁉︎』

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【12】『助けて』

 

 どうやって戻ってきたのかは覚えていない。

 気が付けば、俺はまた納屋の硬い床に寝転がっていた。


 ラナが自暴自棄になってしまったのは、俺のせいだ。

 あられもない裸体を見てしまったせいで、余計に想像力がかき立てられ、頭がおかしくなりそうになる。


 ――ラナは! ラナは! ラナは!


 床を転げ回る。

 もう耐え切れない。顔を合わせる事さえ、正直怖い。いったい、どうすればいいんだ……。

 頭を抱え、何も考えられなくなる。


 そうだ、ここではないどこかへ――。


「逃げるつもりか?」


「うわっ⁉︎」


 起き上がった先に、いきなりセンチアがいた事に驚いてしまう。


「な、なんだいきなりテメー。現界できないんじゃなかったのかよ⁉︎」


「しばらく休んどっとから、少しは力が戻ったわ。それに――」


 センチアはそう言って、俺の目の前にあぐらをかいてフワフワと浮くと、


「――じれったい『ままごと遊び』を見るのにも、少々飽きたでの」


 あさっての方角に目を向けながら、あざ笑うかの様にさらにそう言ってきた。


「て、テメー!」


 一瞬で、頭に血が上るが、


「すべて投げ出して、また逃げるんじゃろ? なら、早う支度せい」


「――っ!」


 センチアの冷静な指摘に、それ以上何も言えなくなってしまう。


 そうだ。俺はまた同じ事をしようとしているのか……。

 ――何かを守ろうと頑張って、それに疲れて、全部嫌になって。


 また前世の記憶がフラッシュバックされて、胸糞悪くなる。


「言っておくがな、今度はどこに逃げても『暴食神』を倒さんかぎり、お陀仏じゃぞ。お前も、ククルもな――」


 乱れる俺の心を整える様な、センチアの言葉。

 その瞬間、俺の思考はククルとの時間を思い出す。

 激しく戦いながらも、共に報われぬ思いを胸に、ただひたすら前に進み続けた――あの『出られない異世界』で過ごした時間を。


 その中で、ククルはやはり前世の記憶にうなされる俺を、膝枕の中でそっと泣かせてくれた。

 俺のすべてを――許してくれる様に。

 そのククルも死んでしまう。俺が逃げれば……。


 右脚に巻かれた赤い縄に手をやる。

 ククルからのHP供給用に付けられたそれは、今はもう肉に食い込み、外れないアンクレットの様になっている。


 今もきっとククルは、『◯◯◯◯しないと出られない異世界』の伏せ字を開くために、懸命にレベル上げをしてくれているはずだ――。


 少し心が落ち着いてきた。ここは大人の判断をしなければと、思考回路をフラットに戻す。

 そうすると、目の前にいるセンチアに感謝しなくては――と気付く。

 少々、癪にさわるが、叱咤激励してくれた事は間違いない。


「センチア、お前、俺のために――」


 わざわざ現界してくれたはずなのに、


「フン、損得勘定じゃよ。あの母子の持つ『怠惰のカルマ』のそばにおった方が、『暴食神』に繋がる近道になるからの」


 センチアはそう言って不敵に微笑む。


 ここで少しでもデレてくれれば好感度も爆上がりするのだが、百戦錬磨のロリババアはやはり一ミリもブレなかった。

 それなら俺もブレない事だ。心の傷は癒えないが、今はやるべき事をやるだけだ。



 

 納屋を出て、ラナの家に行くとエルが出迎えてくれた。

 ラナは明け方に帰ってきて、もう薬草取りに出かけてしまったらしい。

 時刻はもう昼過ぎだし、やはりラナも俺と顔を合わせるのは気まずかったのかと、納得する。


 それなら仕方ないと、用意していた銀貨十枚をエルに渡す。

 これはラナから、預かっておいてほしいと託された金の中から出している。


 ――将来のために。


 そう言っていたラナの言葉の意味が、今ははっきり分かるだけに余計に胸が痛むが、ここはこの妹弟たちを飢えさせないためにも、この金を使うべきだ。


「ありがとうございます」


 妹弟たちの中でも年長のエルは、礼儀正しく頭を下げてくる。

 おそらくまだ十歳を少し過ぎたくらいだろうが、ラナを支えているだけあって、よくできた子供だと感心する。


 そのエルが、


「でも――、今日は大丈夫なんです」


 と言ってきた事に首をひねる。


 そんな俺の態度を見て、エルは少し迷ってから、


「ラナお姉ちゃんが、『依頼』を終えたので……、さっきお金が届けられたんです」


 窓際で昼酒をあおっている母親に聞こえない様に、小さな声で教えてくれる。


 また俺の胸がさざ波立つ。

 ラナが体を売った報酬――。その前には、俺のささやかな心遣いなど無力なのだという事を、思い知らされる。


「そうか……」


 そう言って、俺はエルに背を向け、家を出る。

 昨日、俺が飛び出していくラナを止めていれば、こんな事にならなかったのかもしれない。


 襲ってくる後悔に、胸が張り裂けそうになる。

 俺が何か一言でも言ってやれば、あんな衝動的な行動には……。


 ――――? 衝動的?


 いや待て、もし衝動的に体を売ったんなら、金は即金でもらえるはずだ。

 なのにエルは、さっき金が届いたって言ってたぞ。

 どういう事だ? 辻褄が合わねえぞ……。


 生じてきた矛盾点に、立ち止まり頭を悩ませていると、


「れ、レオさーん!」


 エルが息を切らしながら、走り寄ってくる。


「おいおい、どうした?」


 突然の事に俺がキョトンとしていると、追い付いたエルは、荒れた呼吸を整えもせず一息に言ってくる。


「お願い、レオさん! ラナお姉ちゃんを助けて!」


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