【09】『別れの予感』
「ラナ、後ろに下がってろ!」
俺は叫びなから、錬成したベレッタM92Fを連射する。
次の瞬間、9ミリ弾に撃たれたモンスターが、青や緑の血をぶちまけながら草原をカラフルに染めていく。
スキル――『索敵』!
俺が念じるのと同時に、すべてのモンスターの位置とその攻撃軌道が、グラフィックの様に視界に予測表示される。
あらかじめ、スキル『探索』で周囲の地形も調べておいた。
遮蔽物のないこの状況下であれば、後方のラナが不意打ちを食らう事もない。
それなら……スキル『隠密』だ!
俺は姿を消すと、一気にモンスター群のど真ん中まで走り込む。
あとは仕上げにかかるだけ――。
スキル『射撃』の力で、こいつらに鉛玉を叩き込む!
モンスターは残り十体。
――それなら!
と、俺は空いた左手に、もう一丁M92Fを錬成する。
二丁拳銃の両手撃ちなんて、映画やアニメの中だけだと思っていたが、俺はそれを試してみる。
――ドシュッ! ドシュッ! ドシュッ! ドシュッ!
撃ちながら、片手撃ちによる反動をチェックする。
45口径弾に比べて威力が小さい9ミリ弾という点を差し引いても、右手も左手もブレる事なくしっかりグリップできている様だ。
その証拠に、弾丸は正確にモンスターの脳天に二発ずつ叩き込まれている。
そんな事を考えながら戦う余裕が、今の俺にはあった。
センチアの固有領域に召喚されて、スキルの意味も分からずに慌てふためいていた頃とは、えらい違いだと我ながら感心してしまう。
「レオさん、お疲れ様です!」
スキルの効果が切れ、姿を現した俺に向かって、ラナが無防備に駆け寄ってくる。
なぜなら、もうすべてのモンスターを、俺が狩り終えてしまったからだ。
「今回も、あっという間にこんなに倒しちゃいましたね」
ラナが目を輝かせている――。
このモンスターの死骸は、彼女たち家族を養う金になるからだ。
今日の狩りも、これで五ターン目で相当の収穫量になっている。
あのアル中の母親の酒代になるのは癪だが、ラナとその妹弟たちがこれでちゃんとメシが食えると思えば、悪くはない。もちろん俺の納屋での宿泊費もここから捻出されている。
こうしてラナとモンスター狩りを始めて数日経つが、俺の目的は他にもあった。
――スキルレベルを上げる事だ。
抹殺対象だった俺が受肉して転生できたのは、世界すべてを食らわんとする『暴食神』を倒すという、センチアとの契約があったからだ。
まあ契約内容については、だまされた様な側面もあったので思うところもあるが、とにかくこの異世界に来たのも、ここに分裂体となった『暴食神』がいるのが理由だ。
その手がかりは、例のお題――、
『◯◯◯◯しないと出られない異世界』
にあるはずなのだが、これまで『洞察』のスキルを使えば簡単に開いた伏せ字が、一文字も開かなくなってしまった。
おそらくスキルレベルが足りないからだと踏んだククルは、レベル上げのために俺とは別行動を取っている。
それなら俺も、情報収集と共にレベルを上げるために、こうして毎日モンスターと戦闘に励んでいるのだ。
スキルレベルは、この異世界に来た当初の10から13にまで上がっていた。
やはり実戦経験を積むと、レベルの上がり方が早い事を実感する。
それに副産物といってはなんだが、ついに俺にも新スキルが増えた。
『塹壕:LV13』『爆破:LV13』『撹乱:LV13』『情報操作:LV13』
やはり今回も魔法系は増えず、見事なまでの物理攻撃系ばかりだった。
いやこの内容、俺、戦争でも始めるんすかね……。
ともあれスキルレベルは、固有スキル『器用貧乏』のおかげで、また横一線になっている。
今のところ、レベル13の『洞察』では、まだ伏せ字は開かないが、何かのスキルレベルが上がれば同時に『洞察』のレベルも上がるので、とにかく今はなんでもいいのでレベルを上げる事だ。
俺がそんな事を考えている間に、ラナは笑顔でナイフを錬成すると、モンスターの死骸を器用に解体していく。
内容はグロそのものだが、こんな共同作業も板に付いてきたものだと、内心で苦笑する。
今日もこの後、金になるモンスターの臓器を、市場にある薬屋に売りに行く。
その道すがらで、ここ何日か『大罪のカルマ』を背負った人間に遭遇したが、思念体で常に随行しているセンチアいわく、
――どれも小物。
だそうだ。
俺たちの目的は『暴食神』の分裂体だ。『大罪のカルマ』が引かれ合うといっても、『暴食神』に繋がらなければ意味がない。
やはり伏せ字を開く事が、事態解決への最短距離だと思わざるを得ない。
それなら、やはりスキルレベルを上げるしかない。
今、やるべき事はできるだけモンスターを狩り続ける事だ。
俺のやっている事は、間違っていない――。
「レオさん、準備できました」
いや、本当に間違っていないのか――?
笑顔で振り返るラナの顔を見た瞬間、俺の胸がさざ波立つ。
俺の目的は『暴食神』の討伐だ。
今こうしてラナといる事も、その手がかりを得るためにスキルレベルを上げたいからだ。
これは手段だ。目的ではない。
そしてこの異世界の『暴食神』を倒した時、きっと俺はまた別の異世界に行く。
ラナを――置いて……。
「さあ、日が暮れる前に市場に行きましょう」
ラナがそう言って、目くばせしてくる。
いつの間にか、俺たちの間にはそんな信頼関係が築かれていた。
「ああ、そうだな」
俺は短く答えると、ラナが梱包した荷物を代わりに持ってやる。
そんなやり取りも自然になってしまった。
「フフッ」
ラナが俺を見上げながら、嬉しそうに微笑んでくる。
それに俺も笑顔を返す。
やがてくる決別に俺が気付いてしまった事を、彼女に気取られない様に――。




