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◯◯しないと出られない異世界  作者: ワナリ
第一章『怠惰:異世界攻略⁉︎』

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【05】『怠惰のカルマ』


 ラナに連れられて、彼女の村に向かう――。


 道すがら、俺はたわいない会話をしながら、ラナを観察する。

 年齢は見たところ十代後半。美人ではないが、可愛らしく愛嬌のある容姿なのに、その出立ちは一言でいえば『質素』そのものだった。


 ショートボブの髪型も乱れてはいないが、整っている訳でもない。

 着ている服は、さっきモンスターを解体したために、青や緑の返り血で汚れているが、それにしても年頃の娘にしては、華美さのかけらもない地味なものだった。


 それを機能美と取れない事もないが、何かこう――ラナには、着飾ってはいけないという、強迫観念の様なものがあると思えてならなかった。


 ラナは自分を怠け者だと言っているが、どう見ても真面目な勤労少女にしか見えない。

 話をしていても朗らかだし、何よりも時折見せる笑顔がとても可愛い。

 だからこそ、そんなラナが持つ二面性に、俺は違和感を超えた恐怖を抱いたのだろう。


 ――キメラの心臓を掲げる、笑顔のラナ。

 その映像が頭から離れない。


 いくら高く売れるからといって、少女が平然と屠殺まがいの行為するなんて……。

 目に入る風景や街並みも、ファンタジーそのままの中世ヨーロッパ風の世界だが、少女がそこまでしなくてはならない貧富の格差が、この異世界にもあるって事だ。


 そしてセンチアは、ラナが俺やククルと同じく、『大罪のカルマ』を背負っていると言った。


 ラナがおかしいのは、そのせいなのか――?

 考えれば考えるほど、俺の心はさらに暗い気分になる。


 そこに――、


『のお、レオ――。レオ、レオ』


 まるで空気を読みやがらない、能天気なメスガキボイスが聞こえてくる。

 姿を消したセンチアの念話だ。


『あんだよ?』


 俺もぞんざいに返答する。


『いやの、この娘の『大罪のカルマ』の事じゃ』


『…………』


 心の中を読まれた様な不快感に、俺は何も言わない。

 だがセンチアは、特にそれを気にする事もなく構わず喋り続ける。


『どうも成分がブレとって、あやふやだったんじゃが、どうやら『怠惰のカルマ』の様じゃな』


『怠惰……』


 大方の予想通りといったとこだが、


『――で、ブレてるって、いったい何がだよ?』


 はっきりしないセンチアの口ぶりに、俺はその内容を問い質す。


『うむ。簡単に言うと、成分が薄い。それでいて、何かが重なっておる様にも見える』


『訳が分かんねーよ』


 俺は率直な感想を返す。そこには、ラナの事をあまり悪く言ってほしくないという、個人的な感情もあったと思う。


 それを察してか察せずか、


『ところでレオよ。ラナのステータスを見てみろ』


 と、センチアが言ってくる。


『ステータス? あれってお前の固有領域に呼ばれた者だけじゃなくて、他の異世界でも存在するのか?』


『当たり前じゃろ。お前のいた世界みたいに、ステータスが存在しない世界の方が珍しいわ。フッフッフッ、異世界は『剣と魔法のファンタジー』じゃぞ』


『……チッ』


 センチアが妙に事情通な事に舌打ちするが、そういえばラナはナイフを錬成していたし、スキルという言葉も口にしていた。

 どうやら本当に、『剣と魔法』がスタンダードらしい事を自覚しつつ、スキル『洞察』を使ってラナのステータスを盗み見る。

 

 HP:65/70 MP:63/80

 

 HPは女の子にしては高い。これはきっと、過酷な労働で鍛えられたものかと思われる。

 MPも俺の初期値よりも随分高いが、もしかすると異世界では、これくらい当たり前なのかも、と思う事にしてスルーする。

 

 スキル:『創造:LV1』『錬成:LV3』『火炎:LV1』『電撃:LV2』『シールド:LV2』『再生:LV2』etc……。

 

 スキルについてはレベルは高くないが、ナイフを錬成して見せた様に、俺と同じく『創造』と『錬成』を持っている。

 他に魔法系スキルも持っているから、これでなんとかモンスターと戦おうと思っていたんだろうな。


『別に……なんてことねえステータスじゃねか?』


 俺はまた率直な感想を述べる。


『いやいや、その先を見ろ』


 センチアの言葉に、俺は空中に隠密表示されたラナのステータスのページをめくる。

 

 願い:『お腹いっぱいゴハンを食べる』

 

『――――くっ!』


 俺は息が詰まりそうになる。下手をすると涙ぐんでしまいそうだった。


 確かに俺も前世では苦しんできたが、それでも飽食だった日本で、ここまでの思いを抱いた事はなかった。

 だが、ラナはこんなひどい暮らしをしながら、自分は腹いっぱいメシを食った事もねえのかよ……。


 アラフィフの自分よりも、こんな十代の少女の方が過酷な人生を送っている事に、胸を痛めていると、


『おいおい、違うぞ。『大罪の願い』なんぞ、どうでもいい。その先じゃ、そのまた先を見ろ――』


 センチアは俺の感傷などお構いなしに、事務的に言ってくる。


 こいつには人間の感情がないのか? あっ神様か。と、一人ツッコミをしながら、俺は言われた通りページをめくっていくと、驚くべき内容が表示される。

 

 固有スキル:『限界突破:LV3』

 

『――――⁉︎ マジか⁉︎』


『どうじゃ、驚いたじゃろ。ワシもさすがに驚いたわ』


『…………』


 別名『神の領域』と言われる『固有スキル』は、一億人に一人いるかどうかのレアスキルだとセンチアは言っていた。

 それをラナも持っていたという、驚くべき事実に思わず息を呑む。


「――――? どうしたんですか、レオさん?」


 俺は無邪気に笑うラナを見ながら、胸に宿る言い様のない不安を、さらに募らせていった。


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