【04】『ラナという少女』
――自分を怠け者だと言う少女。
だが、全然そんな子には見えない。
だから俺は、少女の言葉に戸惑ったが、このまま黙っている訳にもいかないので、
「そ、そんな事はねえよ。それよりケガとかしてねえか?」
と、必要以上に明るく声をかけてやる。
「は、はい。おかげ様で。えっと……」
俺の名前か――。そう察した俺は、
「俺はレオっていうんだ。お前の名前は?」
自己紹介と、少女の名前を聞く事で、話の糸口をつかもうとする。
「わ、私は……ラナです。れ、レオさんは、お強いんですね」
「い、いや、それほどでもねえよ」
女の子に強さを褒められて悪い気はしない。
少し上機嫌になる俺を、ラナはさらに褒めてくる。
「モンスターの動きが、まるで事前に見えていたみたいですし……。きっとレオさんはすごいスキルをお持ちなんですね」
「――――⁉︎」
着眼点の鋭さに違和感を覚えるが、俺はそれを表情に出さない。
なんというか……、実戦慣れしていないと出てこない発想な気がするが――。
いや、俺の考えすぎか。
そう思い、気を取り直すが、ラナはさらに被せてくる。
「見た事もない、すごい武器も使っていましたし――。まるで別の世界から来た人みたいですね」
うわー、ほんとに異世界から来たとは言えねー。
ほんと、こういう一見、屈託のない子って、ナチュラルに鋭いから油断できねえわ……。
このままじゃまずい気がした俺は、会話の流れを変えるために、
「なあ、ラナ。お前はどうして、こんな危ない草原に一人で来ていたんだ?」
と、まず最初に聞くべき、至極真っ当な質問をする。
「それは……」
ラナは一瞬、口ごもるが、
「この草原には、高く買い取ってもらえる薬草が、たくさん生えているんです。でも、深く入り込みすぎて、モンスターに遭遇してしまいました」
これもまた至極真っ当な返答をしてくる。
ここまでなら、まだ普通の会話だったのだが、
「私が――怠け者だから、きっと神様が罰を与えたんでしょうね」
「――――!」
またラナが、自分を『怠け者』と言った事で、俺の胸はさざ波立つ。
そこに、
『おい、レオよ』
という、センチアの念話が飛び込んでくる。
このタイミングで、ほんとに神様来るか?
とツッコんでやりたかったが、
『話の途中で、ワシをほっぽり出すとは……、いい度胸をしておるの』
センチアの言葉で、俺はラナの悲鳴を聞いて、ここまで一目散に駆けつけてきた事を思い出し、これはまずいと我に返る。
とりあえず謝っとくかと思ったが、言い訳しようにも当のセンチアの姿が見えない。
『現界がほんとに限界にきてしもうた。じゃからワシはしばらく姿の見えぬ思念体でおるぞ。ワシとは念話で話せるから、心配はするな。とにかく――、お前はこの娘にワシの事を気付かれるな、よ!』
センチアは手短かに説明を終えると、見えない姿のまま、ポカッと俺の頭を殴りやがった。
「痛てっ!」
「――――? レオさん、どこかおケガでもしたんですか⁉︎」
突然、奇声を上げる俺を、当然ラナは不審がる。
「い、いや大丈夫、大丈夫だ」
とりあえずその場を取り繕ってから、
『センチア、てめー、気付かれるなとか言って、何してくれてんだよ!』
念話でもって、センチアに苦情を訴える。
『フン、この甲斐性なしが。そんなんじゃから、ククルの奴がいなくなるんじゃぞ』
『――――⁉︎ ど、どういう事だ⁉︎』
センチアの言葉に危なく声を出しそうになったが、なんとか自分を抑えて念話で問いかける。
『スキルレベル上げのために、モンスター狩りに行くと言って消えていったぞ。まあ、今のレベルでは『お題』の伏せ字を、一文字も開く事ができんかったからの――。やれやれ、あの傲慢女も奴なりに、お前を助けようとしとるのに、ボンクラ王のお前がそんなんでは苦労するの』
『ククルが……』
少々トチ狂ってはいるが、理知的で計算高いククルの献身に胸が切なくなる。
あいつはあいつなりに、配下として俺の事を思ってくれているのか――。
と、一瞬涙ぐみそうになるが、
『あと、傲慢女からの伝言じゃ。――『私は一人で、伝説の邪竜とか征伐して、ドッカーンとレベルを上げてきますので、足手まといのダーリンは、その辺のスライムでもチマチマ狩って、チビチビとレベルを上げておいてください』――との事じゃ』
『あ、あのクソ女ーっ!』
分かっていても、ククルのヤンデレっぷりに怒りが込み上げる。
『あと追伸じゃ。――『もしダーリンが、ザコスライムとの戦闘で死んでも、ちゃんと『女王様のご褒美』が発動しますので、ご安心ください。もちろん――HP1縛りで』――じゃと。プププッ』
そう言ってセンチアが吹き出すが、それにツッコむ気も起きなくなった。
『仲良くしないと出られないエレベーター』以来、俺の右足とククルの左足に、それぞれ巻かれた赤い縄――。
それを経由して、ククルの固有スキルで俺にHPが無限供給されるのだが、設定がHP1なのはもうやめてくれ! あれマジで生き地獄なんですけど……!
こりゃマジで死ぬ訳にはいかねえな……。
と、俺が異世界生活への決意を新たにしていると、
「じゃあ、レオさん。助けていただいたお礼がしたいので、私の村に来てください」
ラナが俺から離れながらそう言った。
「別に礼なんて、いらねえよ」
「そうはいきません。少し待っていてください」
振り向きながら俺に微笑むと、ラナはスキルで出刃包丁の様なナイフを錬成する。
「――――?」
何をする気なんだ? と俺が訝しんでいると、スタスタと歩くラナは、俺が倒したモンスターの死骸の前でしゃがみ込みと、
――グシュッ!
手にしたナイフを逆手に持つなり、一気にその腹を一文字に切り裂いた。
「…………! お、おいラナ……。な、何やってんだ……」
あまりの光景に、俺は激しく動揺してしまう。
その間もラナはナイフを器用に使って、モンスターの内臓をズルズルと引きずり出す。
俺の所まで、臓腑の異臭が漂い吐き気を催す。
それでもラナは平然と、まるで屠殺の様な作業を淡々と続けていく。
「見てください――」
ラナがモンスターの体液にまみれながら、笑顔でこちらに顔を向ける。
「このキメラの心臓は、難病の薬になるので高く売れるんですよ。これを売って、レオさんにもお礼をしますからね」
ラナは緑色の不気味な臓器を、宝物の様に俺に見せてくる。
なんで、そんな笑顔でいられるんだ……⁉︎
俺は平静を装いながら、内心恐怖に震えていると、センチアが念話でその答えを教えてくれた。
『やれやれ……。あやつも――『大罪のカルマ』を背負っておる様じゃの』




