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◯◯しないと出られない異世界  作者: ワナリ
第一章『怠惰:異世界攻略⁉︎』

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【02】『イレギュラー』


 あー、もー、またこの『お題』かよ。

 異世界転生して、またすぐミッション始めるとか、ここブラック企業ですか?


 まあ、生き残るためには、センチアと契約するしかなかったんだが、それにしても人使いが荒いぜ。ハア……。


 俺が諦めにも似た、ため息をついていると、


「この世界は――滅びるぞ」


 センチアはそれまでの表情をあらため、真剣な声でそう言った。


「ほろ……びる……?」


 いきなりの事に、俺はおうむ返しに問い返す。

 一つの世界が滅びるなんて、あまりにスケールの大きすぎる話だ。


「それは、あなたが食われたという――『暴食神』のせいですか?」


 ククルが、またしても冷静な指摘を入れる。

 そういえばセンチアの固有領域の中で、俺たちは『七つの大罪』を司る、七大神の内紛を聞いたんだった。


 今、話に出た『暴食神』は、センチアたち他の六神を食ってしまった、とんでもねえ奴だという事を思い出し、俺は緊張する。

 だが『暴食神』は最高神を六つも取り込んだでせいで、自壊してしまったとも聞いている。


 俺たちがセンチアの粛清対象となり、異世界に転移させられたのも、『暴食神』が吹っ飛んだせいで、他の六神が抑えていた『大罪のカルマ』が溢れ出し――俺は『強欲のカルマ』、ククルは『傲慢のカルマ』を被ってしまったのが原因だ。


 その『暴食神』が、今さらなんだってんだ――?


「おお傲慢女、話が早いの――。そうじゃ、『暴食神』がこの世界を侵食しとるんじゃ」


「はあ? おい、ちょっと待てよ。『暴食神』はお前らを食って、消化不良で弾け飛んだって言ってただろ⁉︎」


 俺は、思っていた事をそのまま口にする。


「ああ、言うたぞ。だが――死んだとは言うておらん」


「――――⁉︎ い、生きてんのか……?」


「ああ、そうじゃ。ワシら六神が食い残しの残滓でまだ生きておる様に、『暴食神』も身が弾け飛んだとはいえ、死んだ訳ではないのじゃ」


「…………」


 衝撃の事実に、俺は呆然としてしまう。


 そんな俺に代わって、


「で、『暴食神』はどの様な形で、この世界を侵食し、そして滅ぼそうとしているのですか?」


 ククルがまたも冷静に事態を飲み込み、状況を明らかにしようとしてくれる。

 だが嫌な予感しかしねえ。なんかロクでもない事になりそうな気がする。


「手短かに言うとな、『暴食神』は弾け飛んだ分、分裂したのじゃ」


「ぶ、分裂ーっ⁉︎」


 手短かにとんでもない事を言われて、俺は血相を変える。


「奴はワシら六神と違うて、その身を食われた訳ではないからの」


「だ、だからって、そんな簡単に分裂なんてできるのかよ⁉︎」


「ほお、ボンクラのお前も、たまには良い所に目をつけたの」


「チッ、どういう事か早く説明しろよ!」


 またボンクラ呼ばわりされた事に腹も立ったが、それよりも今はセンチアの話を聞く方が重要だ。


「『暴食神』は分裂したが、その分裂体にまだ自我はない――。そうじゃな、例えるなら、まるで底なしに腹をすかせた何人もの赤子が、世界すべてを食らおうとしてる様なものかの」


 サラッと物騒な事、言ってんじゃねーよ! って事はだぞ!


「おい待てよ……。世界を食らうって、お前ら神のスケールなら――異世界全部を食っちまおうって事じゃねえか!」


「そうじゃ」


「もし、そうなったらどうなる⁉︎」


「世界は……無になる」


 無――。死をも超えた漠然とした恐怖が俺を襲う。


 だから、


「そんな事……させるかよ!」


 俺は無意識に口走ってしまう。一秒後に、自分でも何言ってんだと思ってしまうほどの、不用意かつ大それた厨二病発言だった。


「よう言うた、レオよ! では――ワシの代わりに『暴食神』と戦え」


「…………はい?」


 あ、これダメなやつだ。一番、言質取られちゃいけない奴に、取られちゃったパターンじゃない⁉︎


「ちょ、ちょ、ちょっ、ちょっと待て! 戦うんなら、お前がやれよ! だって相手は神だろ? 俺、人間だぞ! そんな世界を食っちゃう様な、無自覚腹ペコ野郎の相手なんて無理だ! 無理無理!」


 とりあえず急いで抗議してみる。


「ワシは今、残滓で身を保っておると言うたじゃろ。人一人ぐらいを相手にするならともかく、世界を相手にはできん。なんせ――」


 あっ、このパターンは――、


「ワシの現界には、限界があるでの!」


 ドヤ顔キター! しかも、ここでさっきの仕返ししてくるか? いやマジこいつ、神のくせにこういうとこ、スケール小せえな……。


 なんて思っていると、


「のお、レオ。聞け」


 急にセンチアが表情をあらため、俺の目をまっすぐ見つめてくる。

 ロリババアとはいえ、よく見ると神ゆえの気高さなのか、センチアには神秘的な美しさがあり、俺は魅入られる様に立ちつくしてしまう。


「ワシは、お前に賭けてみようと思う」


「賭ける……?」


「そうじゃ、賭けじゃ。ワシは言うた通り残滓の身ゆえ、この身で世界を――暴食神に食われようとしておる世界を相手にはできん。じゃから、せめて世界に溢れ出た『大罪のカルマ』が、人々を不幸にせぬ様に危険因子を抹殺しておった」


「センチア……」


 俺が転移させられた『出られない異世界』――あのセンチアの固有領域が、ただの処刑場ではなかった事に複雑な心境になる。


「じゃが『暴食のカルマ』だけは、それ自身が実体のため召喚はできん。こちらから討伐しなくてはならんのじゃ」


 討伐――。小説や漫画の中でしか聞かない、非現実的な言葉に息を呑む。


「レオ、お前はイレギュラーじゃ」


「い、イレギュラー?」


「そうじゃ。ワシがこれまで固有領域に召喚してきたのは、『大罪のカルマ』を被った者どもの中でも、文字通りクズ中のクズどもじゃった。皆、我欲にまみれ、他者を害する事ばかりを願う――放っておけば大量殺人をしでかす様な世界の害悪じゃ。それに相応の報いを与える事に、ワシは躊躇せんし、非難も甘んじて受けようぞ」


「…………」


 すぐには頭の整理がつかず、俺は何も言えなかったが、センチアは構わず続ける。


「じゃがレオ、お前の『願い』は違った――」


「…………」


「お前の願いは『世界征服』。最初は召喚のシステムエラーかと思ったが、そんなお前が次々と勝ち上がっていった事……、そしてお前が『固有スキル』を持っておった事に、ワシは何かを感じたのじゃ」


「えっ、固有スキルって、そんなにすげえのか?」


「そうじゃな、別名『神の領域』とも言われとるからの。人間が持っとるのは、一億人に一人いるかどうかじゃな」


「なっ⁉︎」


 わざわざ『固有』なんて付いてるから、ちょっとはレアスキルなんだろうとは思っていたが、まさか一億人レベルのものだとは、マジで驚いた。


「それを二つ、いや最終的には三つもお前は手に入れた。もしやお前なら――と、ワシは途中から思った。お前がしでかす『とてつもない事』とは、他のクズどもとは違うのではないかとな」


「お、俺が……⁉︎」


 いきなりの話で、マジで頭の整理がつかない。

 『暴食神』の討伐。そして俺自身が『とてつもない事』をしでかすなんて、いったいどうすりゃいいんだよ。


 俺が呆然としていると、


「キャーーーッ!」


 遠くから女の叫び声が聞こえてくる。

 そうそう、ほんと俺も叫び出したい気分ですよ。


 ――って、違うだろ! なんだ⁉︎ 誰か襲われてんじゃねえのか⁉︎


 まるで俺は条件反射の様に飛び出すと、草をかき分けながら、声のした方角に向けて走り出していた。


 触らぬ神に祟りなし――。そう思って前世を生きていたはずなのに、俺は転生してどうかしちまったのか?

 まあそれ以前に、もうすでに神様に触れるどころか、契約しちゃってるんですけどね……。ガックシ。


 なんて事を考えているうちに、現場近くに到達する。


「――――マジか⁉︎」


 俺は声を上げる。

 なぜなら、そこにいたのはファンタジー大嫌いの俺が、ゲームの中以外で見たことのないモンスターのオンパレードだったからだ。正直、スライム以外名前知らん。


 その中央に、ポツンと女の子が立ちつくしていた。どうやらさっきの叫び声は、この女の子のもので間違いないだろう。

 見たところ十代後半。なんでこんな少女が、モンスターの溢れる草原に一人で――、って考えるのは後だ。まずは助けねえと!


 数は十体程度、皮膚は弱そうだから、9ミリ弾でいけるか――。


 敵勢力を分析していると、俺の存在に気付いた少女から、意外な言葉が投げかけられる。


「あ、あの……、あ、危ないですから逃げてください。な、なんとか一人で……が、頑張ってみます……から」


 その声は、全然大丈夫じゃない怯えたものだった。


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