表彰式【05】『ルールの隙間』
――センチアと契約。
俺たちに課されたミッションに、ククルがそう言及した事で、事態は大きく動いた――!
いや……、動いたと思う……。いえ、個人的にそう思います……。だって俺、ボンクラで蚊帳の外ですからね……。
――なんて腐っちゃいられねえ! ここは俺も動かなければだ!
「俺からも聞きてえ――。センチア、お前と契約する以外に、俺たちがこの異世界から――、お前の固有領域から、出られる方法はあるのか?」
『お題』は『お題』として、他に選択肢がないとは限らない――。
他に救済措置があったのに、それに気付かず、悪徳業者とリスキーな契約とか、勘弁してほしいからな。
「うむ――、ないな!」
このロリババア、即答しやがったよ! ほんとよく考えて言ったのか? また適当かましてるんじゃねえだろうな⁉︎
「まず、お前らクズどもは、ワシの固有領域に召喚した時点で、各々の現世での存在を抹消しておる――。まあ全員殺す事を前提としとったから、当然の措置じゃな」
「つまり、もう戻る所はないと――」
センチアの返答に、ククルがまるで補足の様な指摘を挟む。
「そうじゃ。お前らはもう、そもそも『無かった』事になっておる。現在のお前らは、魂だけでワシの固有領域に現界しておる……それこそ残りカス状態なのじゃ」
「…………」
自分の存在が、すでに残りカスだと言われた事に、俺だけでなくさすがのククルも言葉を失う。
「それにこの固有領域も、間もなく消えるでな」
「消える⁉︎」
新たな事実に、俺は身を乗り出す。
「そうじゃ。言うた通りワシも残滓で身を保っているに過ぎん。つまり『現界』には『限界』があるという事じゃ!」
「……っ!」
上手い事言った的な顔してんじゃねーよ! 絶句だ! もう絶句ですよ!
「じゃからこの固有領域が消えれば、自動的にお前らの魂も押しつぶされて消える――。まあその前に、最後の一人をワシが始末して、早じまいする気じゃったがの」
期間限定ショップみたいに言いやがったよ、こいつ……。
だが万に一つ、このロリババアを倒せたとしても、それが生き残る道にはならない事が、これで分かった。
それだけでも収穫だ――。これで戦うという選択肢は外せる事になる。
とはいえ、逃げるという選択肢も無くなっている。
という事は――、
「ダーリン。生き残る道を選ぶのなら、ここは契約するしかありませんわね」
俺の心を読んだ様に、ククルが冷静な声で告げる。
それからククルは、
「もう一度、伺います。『強欲神センチア』――。あなたは、私たちと契約する意思はおありですか?」
と、センチアに再度、問いかける。
そもそも、センチアの方に、俺たちと契約する意思がなければ、話は成立しない――。
ヤツがどう出るか、俺は固唾を呑んで見守るが、
「ふむ、よかろう」
センチアから、拍子抜けするほど軽い返事が返ってくる。
「えっ、マジか⁉︎」
地獄に差した光を感じる様に、歓喜したのも束の間、
「契約するのは、レオ――。お前一人だけじゃがな」
センチアの言葉に、俺は再び奈落に突き落とされる――。
「おい、なんで俺一人なんだよ!」
すかさず俺は抗議の声を上げる。
俺はククルを救いたくて、神に刃さえ向けたんだ。
なのに、俺一人だけ助かってなんの意味がある。
ここで引き下がったら、これまで足掻いた事が全部無駄になる――!
その思いを込めて、センチアを睨みつける。
「まあ、お前の気持ちも分かる――。じゃが物理的に無理なんじゃ」
「ぶ、物理的?」
「そうじゃ。言うた通り、ワシは今、『暴食神』に体を食われた残滓の状態じゃ。故にかつてほどの神の権能を使う事はできんのじゃ」
「だから……一人だけ……」
「そうじゃ」
「だ、だけど、なんで俺なんだ? 別にククルだっていいじゃねえか?」
当然の疑問をぶつけたつもりだが、
「簡単な事じゃ――。お前がこの『出られない異世界』の勝者だからじゃ」
これもまた当然の回答が返ってくる。
「――――!」
返す言葉がない。
俺たちはここまで命をかけて戦ってきた――。生き残るために。
生きたい、死にたくない――。そんな幾人もの思いを踏みにじりながら、俺はここまで来た。
俺の勝利は、その屍の上に成り立ったもの――。それを忘れてはいけないはずだった。
だけど俺とククルは――、『同じ』だけのミッションをこなし、『同じ』だけ苦しんだはずだ!
自問自答の中、
――ん? 同じ⁉︎
突然、俺は閃いた。
同じ……同じ……? そうか! 確かに俺とククルは『同じ』だ! 同じなら――、これでいけるはずだ!
「ダーリン、いいんですのよ」
ククルが俺を慰める様に、声をかけてくる。
その目は、俺を恨むでもなく、かといって諦めた様な儚さもなかった。
そこにあるのは、ただ純粋に俺が気まずくならない様にとの配慮だけだった。
それに無性に……、無性に腹が立ってきた――。
なんでだよ! なんでこいつは、いつも最後にはこうなんだよ!
俺に、足掻け足掻けって言っておきながら、テメーはあっさり諦めちまうのかよ⁉︎
だから、
「ふざけんな――! 俺はお前を救うって約束しただろ!」
「だ、ダーリン?」
ククルが驚くほどの大声で叫んでいた――。だが、もう俺の怒りは臨界点マックスなんだよ!
「センチア、俺とククルと、二人と契約しろ!」
神に向かって命令するなんて、マジで神をも恐れぬ所業に違いない。
どうせまたセンチアに、クズ呼ばわりされるんだろうが、知ったこっちゃねえ!
「だーかーらー、むーりーじゃ」
センチアは怒るどころか、むしろ呆れかえっている。
「そこをなんとか! 頼む! きっとできるはずなんだ!」
「何を根拠に、そんな事を――」
「いいか、聞け!」
俺はセンチアを遮り、先を急ぐ。
「俺とククルは、同じ――同条件なんだ。なぜなら、お前の固有スキル『先読み』で出したお題を、俺たちは二人ともクリアしているからだ!」
「――――⁉︎」
自身の固有スキルに言及されたセンチアは、俺の言葉に初めてその顔色を変えた。




