表彰式【03】『新たなるミッション』
「望みが叶わぬとあらば、神にも刃を向けるか? やはりお前も、クズ中のクズじゃの」
センチアが不敵に微笑みながら、俺を非難する。
まあ、奴の言い分にも一理ある――。
だが、俺が何をした?
人生の再起を賭けたネット小説が鳴かず飛ばずで、ヤケクソで『世界征服』を口走っただけじゃねえか。
それを大量殺人鬼予備群みたいに、十把一絡げにされたんじゃ、たまったもんじゃねえよ!
ああ結構だ。そっちがその気なら、抗うぞ俺は! 足掻いてやるぞ俺は!
たとえ――神が相手であろうとな!
「ケンカ売ってきたのは、テメーの方じゃねえか! 俺は、売られたケンカは買う主義なんでな!」
俺はまず、その決意をセンチアにぶつける。
「ほーれ、お前は見かけでは常識人を装っとるが、本性はこの通りケンカっ早い。少しは歳を食っとるおかげで、多少の計算と抑えは効いておるが――、その分、それが臨界点を超えるとタチが悪いタイプじゃ」
「クッ!」
的確な指摘に、言い返せないでいると、さらにセンチアは畳みかけてくる。
「でなければ『普通』の人間が、親兄弟に絶縁を宣言して、職場にも辞表を叩きつけて、すべてを捨てたりするか? お前は自分でも気付いておらんが、『とてつもない事』をしでかす人間なんじゃよ」
まずい。これ絶対、口では勝てないやつだ。
こうなれば――取る道は一つしかない。
「うっせー、アラフィフ底辺なめんなよ!」
俺は自分に唯一残った武器――コマンドナイフをセンチアに向け、一直線に突き立てる。
だがその瞬間、プツリと意識が途切れる。
そして覚醒と同時に思い出す――。自分が、HP1しかなかったのだという事実を。
「ウヒャヒャヒャヒャ! お前、今、死によったの! 自分のHPも理解しよらんと、イキがった瞬間、コロリと死によったの! ウヒャヒャ、ウヒャヒャヒャヒャ!」
センチアから、容赦のない嘲笑が浴びせられる。
こ、これは素で恥ずかしい。神に挑むと決意して、イキがった瞬間、自爆で死ぬなんて赤っ恥もいいとこだ。
うわー、この後、どうしよう……。
なんて考えていると、
――バシッ、バシッ、バシッ!
俺の肩越しに、電撃がセンチアに向けて飛んでいく。
それをセンチアは、ホコリでも払う様に、片手で退けると、
「ほう」
と、感慨深げにニヤケた笑顔を作る。
その視線は、俺の遥か後方に向けられていた――。
「私の奴隷を笑っていいのは……、私だけなんですよ。ご理解いただいてますぅ? 神様ぁ」
同時に突き刺す様な声が、背中から飛んでくる。
この神に対しても、不遜極まりない口ぶりは――、
「ククル⁉︎」
俺は慌てて背後を振り返る。
そこには、立ち上がり、鬼の形相でセンチアを睨みつけているククルがいた。
「バカ、お前は寝ていろ!」
急ぎHPを確認するが、別に回復した訳でもなく依然、瀕死の状態だ。
しかも、なけなしのMPを『再生』に使わずに、あろう事か攻撃に使うなんて、相変わらずトチ狂っている。
「ええ。ちょっと、そこの『おばさん』に、ご注意申し上げようと思っただけですわ」
相変わらずのトゲがある口調で余裕ぶっているが、ククルは明らかに肩をダラリと下げて衰弱している。
そんなククルが電撃を放ったのは、HP1しかないくせに、神に挑むという暴挙に及んだ俺をサポートするためだ……。うう、ほんと面目ない。
そんな自分の不甲斐なさに、こっそりヘコんでいると、
「お前がまだ生きとるのは、そこな娘の固有スキルのおかげか……。うむ、まこと面白い力を持っておるの」
センチアはそう言って、俺とククルを交互に見る。
それから、
「そういえばお前も、面白い固有スキルを持っておったな。『器用貧乏』はともかく――『裏読み』とはな……」
感慨深げに頷いてから、視線を俺に集中させると、
「お前のそのスキルは、今、なんと言っておる? ――お前に、何か警告を与えておるかの?」
いきなり、固有スキル『裏読み』の発動状況について問いかけてきた。
――こいつには、俺の『裏読み』が見えているのか⁉︎
まずは隠しスキルである『裏読み』の存在を、センチアが看破した事に驚く。
同時に、俺は状況の変化を感じていた――。
ここまで、クズ呼ばわりして歯牙にもかけなかった俺に、センチアが興味を抱いている。
それは、神に立ち向かった俺に対してなのか、瀕死のククルに助けられている俺に対してなのか、センチアが言及した様に『裏読み』のスキルを持つ俺に対してなのか――。
おそらく、その全部だ――。今、この瞬間、何かがかみ合ったんだ!
そう感じた俺は、
「なんも言ってこねえ――。『裏読み』はオールグリーンだって言ってるぜ!」
ことさら大げさに、センチアに向かって宣言する。
それは『裏読み』の警告が、ここまで起こっていない事に気付いた自信も、背中を押してくれていた。
――俺が神に挑んだ事は、間違いじゃない。
そう確信した俺だが、依然HPが1なのは変わらない。
さすがに俺も学習するので、ここでまたセンチアに挑んで即死するのだけは避けたい。
ここは――相手の出方を待つ。
そう決めた瞬間、
「ふむ。そうくるか」
突然、センチアがキョトンとした表情で、虚空を見つめる。
――ポン!
次の瞬間、白一色の空間に、これまで俺たちを苦しめてきた、例のお題が表示される。
『◯◯◯◯◯しないと出られない異世界』
「なっ⁉︎」
ここに来て、新たなミッションが提示された事に俺は声を上げる。
だが、もうMPのない俺には伏せ字を開く事ができない。
「ダーリン、私にまかせて」
そんな俺の気持ちを見抜いた様に、MPを残したククルが、すぐにスキル『洞察』で伏せ字を開きにかかる。
見守る俺は鼓動が速くなっていく。内容によっては、俺たちの命運がこれで決まるだろう。
果たしてそれは、天国、地獄、どちら行きの切符となるのか――。
開かれる文字一つ一つに息を呑み注目する。
そして明かされた新たなミッションとは――。
『大家と契約しないと出られない異世界』
「「ハアぁ?」」
あまりの内容に、俺とククルが同時に素っ頓狂な声を上げた。




