表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◯◯しないと出られない異世界  作者: ワナリ
序章『予選:異世界脱出⁉︎』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/114

決勝戦【12】『カルマ』


 異世界――。

 そうだ、こここは異世界だ!

 ククルが来て、俺が来た――現世とは違う世界。


 そもそも、どうして俺たちは、ここに来たんだ?

 そして最後の一人になるまで、殺し合わされたんだ⁉︎


 ククルは絶望が、その原因だと示唆した。

 それなら俺たちは絶望によって、なんの宿業を――なんの『カルマ』を背負ってしまったんだ⁉︎


「ゲフッ、ゲフッ!」


 ククルが血を吐きながら、咳込んだ。


「おい、ククル、大丈夫か⁉︎」


 大丈夫な訳がない。38口径弾とはいえ、こいつはそれを五発も食らっているんだ。

 食らわせたのは、誰でもない俺だ――。もう二度と反撃できない、致命傷レベルを想定した攻撃を。


 だからククルが、どれだけ苦しいかは手に取る様に分かる。


「お、おい、早く『再生』のスキルを使え! まだそれくらいのMPは残っているはずだろ⁉︎」


 さっき見た時、ククルのMPはまだ20ぐらいはあった。

 全回復は無理でも、今の苦痛を和らげる事はできるだろう。

 なのに、なぜそれを使わない⁉︎


「もう……いいんですの」


「何がいいんだよ⁉︎」


 小さく呟くククルに、俺は大声で怒鳴り返す。

 瀕死の人間を相手に、しまったと思ったが、今はそれを弁解している場合じゃない。


「ねえ、ダーリン。私はね……、現世で人間はみんなバカだと思っていたの」


「お、おい……」


 ククルが吐血にも構わず、話し続ける事に動揺する。


「特に男が大嫌いだった。ただ男に生まれたってだけで、まるで特権を得たみたいに振る舞うから――。ほんと、どうしようもなくグズな生き物だって」


 述懐は続いていく。


「そのくせ、何かあるとすぐに挫けて、足掻きもせずに逃げたり、謝ったり――。政治家も芸能人も、みんなみーんな……。だからね、私、頭もいいし、絵を描くのも得意だったから、そんなグズをメッタメタにするマンガを描いたの――。そしたら、みんなそれを褒めてくれるの! まったく笑ったわ。お前ら、どんだけグズでマヌケな、マゾブタ野郎なんだって」


 口汚く罵りの言葉を綴るククルから、目が離せなかった――。

 なぜなら、その表情には悪意がなく、むしろ一点の曇りさえない誠実さを感じたからだ。


「でもね……レオさんを見つけた時、私の中で何かが弾けたの。もしかして――この人だけは、私が今まで見た事のない『足掻き続ける人』なんじゃないかって」


「ククル……」


 俺はそれ以上の言葉を失う。


「それからもレオさんは、何度も何度も足掻き続けてた。もう諦めてもいいド底辺のくせに、なんにも諦めていなかった。興奮しましたわ。ああ、私はレオさんを思って、何度絶頂した事でしょう……。だから、もう我慢できなくなったの。ネットの世界だけでレオさんを感じる事に。この人は、私に今まで見えなかった世界を見せてくれるかもって――。だから私の持つ、すべての知識を使って、レオさんの居場所を突き止めて、会いに行ったの……」


 ククルが俺を探し求めた背景に、そんな事情があった事を初めて知った。


 ククルはククルで、人生の活路を求めていたんだ――。その方法の善悪はともかく、痛いほどの思いだけは伝わってくる。


 ――つまりククルも、足掻こうとしていたんだ。


 だが、そのタイミングは折悪しく、俺自身も人生を足掻くために、それまでのすべてを捨てた時に重なった――。

 だからククルは、もぬけの殻の俺の家で――絶望したんだ。


「ククル、俺はな――」


「フフッ、いいんですのよ」


 弁解しようとする俺を、ククルはそっと遮る。


「いくら私が超天才で、超売れっ子の同人マンガ家でも、一人の人間をそれこそマンガみたいに、自分の思うままに手に入れようだなんて――『傲慢』だったんですわ。しょせん、私もその程度の力しか持っていなかったんだって……」


「ククル……」


「だから願ってしまったんでしょうね。もうこんな世界は嫌だ。すべての男を奴隷にできる女王様になりたい――って。だってそうすれば……、レオさんがどこに逃げても、私のものになるでしょ。アハハッ、ほんと私ってバカみたい、ゲフッ、ゲフッ!」


「もういい、ククル! もう喋るな! 早く『再生』のスキルを使え!」


 動揺する俺に構わず、それでもククルは喋り続ける。


「結局、こんな終わり方でしたけど、異世界に来れて良かったですわ。だってまさか、ここでレオさんに会えるとは思っていませんでしたから」


 横たわるククルの目から、一筋の涙が流れ落ちる。


「命のやり取りばかりでしたけど、レオさんは本当に私が思った通りの人でしたわ。足掻いて、足掻いて、足掻いて……、死んでも足掻き続けて……。そして今、私にもすべてをぶつけてくれた――。それこそ、一切の手加減なしに」


 ククルが血まみれの手を伸ばしてくる。


「だからレオさんは――ダーリンは、もう私のもの。私を――女王様を満足させるために、全力で足掻く奴隷なんです。だから思い残す事はありませんわ」


 細い、本当に細い腕の先にある小さな手が、コマンドナイフを持ったままの俺の手を握った。


「それに勝者は一人ですわ。私はこのまま待っています……。だからダーリンのHPが私のスキルなしでも大丈夫になったら、そのナイフで私の首を落としてくださいませ」


 そう言ってククルは――美しき女王様は、汚れのない瞳で優しく微笑みかけてきた。


「――――! ――――! ――――!」


 俺の心が暴れ出す。

 現世での忘れたい記憶がプレイバックされてくる――。


 親兄弟さえ信じられなくなった、ただ耐えるしかなかった日々。

 ワナビを意識しながら、それでもミリタリー小説を書き続けた、報われなかった日々。


 そして異世界に転移してからも――。


 訳の分からない部屋での、いきなりの殺し合い。

 いつ終わるか分からない回廊での命を賭けた謎解き。

 何もかにも、みんなクソな出来事だ。


 でも、でも、でも、ククルだけは――。


 お互いを罵り合うエレベーターで、本心をぶつけ合った末に分かり合えた事。

 疲れ果て過去の記憶にうなされていた俺を、膝枕の中でそっと泣かせてくれた事。

 一対二の勝負を強制しておきながら、最後は俺を助けてくれた事。

 そして最後の戦いで、全力の俺に全力でぶつかり、倒されてもなお俺を必要だと言ってくれた事。


 ド底辺小説家をやってた頃も、結局、同じだった……。


 ククルだけは――俺を認めてくれていたんだ。


 なんだよ……! ふざけんな、ふざけんな、ふざけんなよ!


 もう満足したから、自分を殺してくれって⁉︎

 勝者は一人だから、俺に勝ちを譲るって⁉︎

 こんなに血まみれで可哀想なのに……、思い残す事はないだって⁉︎


 そんな……、そんな悲しい事を言うなよ!

 お前は天下の八ツ崎ククル様だろ⁉︎

 お前はもっと――『傲慢』でいいんだ!


 気付かないうちに、俺も泣いていた。

 そして、なぜ『背負い刀』を用いた最初の奇襲で、ククルの首を飛ばせた瞬間――、固有スキル『裏読み』が俺に警告を与えてきたのかも、ハッキリと分かった。


 ――俺もククルに執着していたんだ。だからククルを殺せば後悔するって。


 これも俺が『強欲』だからなのか……。


 己の宿業――カルマを意識した瞬間、俺はそれを、俺自身に意識付けた存在に向かって叫ぶ。


「おい『運営』、見てんだろ! ――出てこい!」


 白一色の虚空に、俺の声がやまびこの様にこだまする。


「俺はお前が課した理不尽なミッションに勝ち残ったぞ! どうだ、これで満足か⁉︎」


 湧き上がる怒りが抑えきれない。同時に心で叫ぶ。


 ――このままじゃ、終われねえ!


 HP1ながら、俺は拳を握り再び闘志を燃やす。


 ――勝者として、まだ俺には、俺なりの『ケリのつけ方』があるんだよ……。


 だから出てこい『運営』――。俺はお前に直接、話がある!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ