決勝戦【11】『種明かし』
『無限』なんてものは、ないのかもしれない――。
時間だって、命だって――すべてが有限だ。
有限だからこそ価値があるなんて、聖者みたいな事は言うつもりはない。
だが有限だからこそ、俺は『強欲』であろうとした。
足掻いても、足掻いても、足掻いても――、すべてを諦めなかった。
無敵だと思われたククルだって、HPもMPも有限だった。
異世界といっても、それだけは同じだったんだ。
最終局面で、スキル『探索』を使ってみたのは偶然だった――。
だが、それも俺が最後まで足掻き続けたからだ。
そのおかげで、俺はこの白一色の無限フィールドの謎を知った。
そうさ……。このフィールドもまた――『無限』ではなかったんだ。
まばゆい白一色にごまかされていたが、実はこの空間は一定の距離で、『ループ』する様になっている。
平面なので実質は違うが、例えるなら地球を一周すれば、また元の所に戻ってくる感覚だ。
『探索』で突き止めたところ、その距離はおおおよそ百メートル。
前に進む事しかしなかった俺の折られた刀が、気が付けば俺の後ろにあったのは、そういう事だ。
つまり俺もククルも、気付かないうちにフィールドを一周していたのだ。
そして俺は気付いた。
――もし飛距離百メートルの攻撃を放てば、それは元いた位置まで戻って来るのだと。
だがククルの『探知』に気付かれれば、シールドで防御されてしまう。
だから俺は考えた――。『隠密』で姿を消した俺が撃った銃の弾丸に、さらに『隠密』のスキルを重ねがけできないかと。
これなら、
――ククルの『探知』の網にかからない『隠密』性のある攻撃を、シールドのない方向から加える。
という、俺が思い描いた必勝の策が実行できると。
またイチかバチかだった――。
まずは『隠密』で身を隠しながら錬成したM36を、前に走りながら弾丸にも『隠密』をかけた上で、後ろに向けて撃たなければならなかった事――。
曲芸射撃もいいところだったし、心眼なんて言えばおこがましいが、そこは俺の『射撃』スキルに賭けた。
次にM36の38口径弾の飛距離が、百メートル届くかという事――。
俺の知識では、カタログスペックで有効射程距離は五十メートル。
それさえ超えた百メートルで当たるかどうか以前に、最大射程距離がそれを満たしていなければ、ループ先のククルの背中には届かない。
最後に俺の『隠密』と、ククルの『探知』が、同じスキルレベルだった事だ。
戦闘中に同じにはなったが、上回った訳じゃない。
だから少しでも、状況を有利にする必要があった。
密かに背中に向けて放った、ループ射撃に気付かせないためには、俺自身という囮も必要だったため、まずは注意を逸らすために、折られた『背負い刀』の刃を蹴り上げ、ククルに放った。
次に、後ろから来る弾丸に気付かせない様に、真正面からの特攻を試みた。
これは意表を突く意味でも、有効だと思ったが、まさかククルが頭突きで即応してくるとは思わなかった。
いやマジ、これでいっぺん死んだし、俺の策が『二段構え』の特攻戦術だったら、まさにデットエンドというところだった。
だがそれにループ射撃を加えた『三段構え』の――俺の足掻いて、足掻いて、足掻きまくった策は成功した。
さすがのククルも、正面と後方からの同時『隠密』には対処し切れなかった様だ。
そしてついに、ククルが地面に倒れた――。
HP:8/380 MP:21:500
化け物じみたククルのステータスも、もうボロボロになっている。
いくらチート設定でも、本人はか弱い普通の少女なんだ――。
38口径弾でも、五発も食らったら瀕死になるだろう。
ついでに俺自身のステータスも確認する。
HP:1/110 MP:0/80
MPゼロって……、マジかこれ。HPも当然1だし、まさにラノベだぜ……。
「ダーリン……、お見事でしたわ。HP1で私を倒すなんて、ほんとマンガですわね」
ククルも同じ感想を漏らす――。だが例えが違う事で、俺たちが小説書きと漫画描きだった事を思い出し、苦笑してしまう。
そして思う。どうして、そんな俺たちは殺し合わなければならなかったのかと。
「まさか空間がループしているなんて、予想していませんでしたわ」
「もうタネが分かったのかよ。やっぱりお前はすごいな」
本心からそう思う。後方から狙撃された事だけで、空間の謎を理解するなんて、天才でなければできない事だ。
そうだ。こいつは本当に天才だったんだ。
それに最後の最後まで、こいつの心を崩す事はできなかった――。
だから、
「挫折を知らないお前に、挫折を教えてやろうと思ったんだがな……。でもお前は、やっぱり大したもんだよ。ド底辺の俺とは違って、最後まで心が折れなかったな」
と、本心を伝える。
それにククルは薄く微笑むと、
「挫折なら、もうとっくにしていますわ……」
突然、意外な事を口にし始めた。
思ってもみなかった返答に、俺は呆然としてしまう。
するとククルはそっと目を閉じて、また喋り始める。
「あの日――。ダーリンを私のものにできなかった日……。あの時、私は絶望という挫折を知ったのですわ」
俺を自分のものに――?
ああ、現世で俺の住所を調べ上げて、勝手に押しかけて来た時の事か。
いやー、思い返しても、恐ろしい。
あの時は、俺がそれまでのしがらみ全部を捨てて、トンズラかました後で難を免れたが――。
冷静に考えれば、あれストーキングの末に、拉致監禁される寸前だったんですよね⁉︎
それが――、ククルにとって絶望という名の挫折だったなんて……。
「そうでもなければ……きっと、こんな『異世界』になんて来ていませんわ」
「――――!」
その瞬間、俺は自分たち転移者が背負った『宿業』を思い、息を詰まらせた。




