決勝戦【10】『全力VS全力』
勝利の方程式が構築されていく――。
物事がうまくいく時というものは、大体こういうものだ。
――逆風に抗うより、追い風に乗れ。
だが、追い風はいつ吹くか分からない。
だからこそ――人は努力しながらその時を待つんだ。
たとえ追い風が吹いても、乗る力がなければ、悔し涙でそれを見送る事になる。
だから報われなくても、いやいつか報われる時のために――、人は足掻き続けるべきなんだ。
俺は間違ってはいなかった! ついに、その時がきた。さあ……勝ちにいくぞ!
己の信念を再確認しながら、その身を奮い立たせる。
そうでもしなければ、体がついてこなかった。
心は燃え上がっていても、体は風前の灯なのだ。
なんせHPは1しかない。
エレベーターのミッションで経験しているが、ちょっとコケただけでも、即死する状態なのは正直キツい。
それでも頭は冴え渡っている。
『探索』のスキルを発動した事で、この白一色の無限フィールドの『謎』が分かった。
ついでに折れた刀が、なぜ俺のそばにあったのかも、これで合点がいった。
スキルレベルが上がった事で、『錬成』のコストも下がっている。
足掻きながら打ち込み続けた、点と点が次々と交わり、勝利へと繋がる線になっていく――。
次はククルのスキルを確認する。
『探知:LV9』
こいつだ。こいつが俺の攻撃を、すべてあと一歩で阻んできた。
――その理由はレベルの差。
レベル8で横並びだった俺のスキル。その1の差が、どうやっても越えられない壁を作っていたんだ。
だが俺もレベル9に上がった。
レベル差がないなら、あとは発想の勝負。条件が揃えば奇策だって通じるはずだ。
その条件が揃った。
不安だったMPの問題も解消できた。
そして最後の不安を解消するために、今度はククルの全スキルを盗み見る。
キラ星の様に並ぶ、魔法系スキルの数々――。
だがその中に――『探索』はない。
おそらくククルは、このフィールドの『謎』に気付いていない!
だが、勝負は一回だ――。失敗すればククルも気付く。
どの道、俺の体も限界だ。
それにスキルの複数展開で、MPもスッカラカンになるだろう。
果たしてMPが持つか……?
だが、賭けてみる価値はある!
立ち上がろうとして、意識が途切れる。
――ヤベッ、今、俺死んだのか⁉︎
覚醒の瞬間、刹那の死を思い返す。
どうにも胸糞悪い感触だ。
何度やっても、これは慣れないし、慣れたくもない。
それよりも、これがスキル発動の瞬間に訪れたら最悪だ。
俺のすべてを賭けた一撃は、スキル発動の手順がある。
一つでも崩れたら成立しない――。もちろんMPが足りなくなっても、それで終わる。
なんとか立ち上がった俺は、呼吸を整える。
気休めに過ぎないが、やれる事はすべてやる。
――文字通り、俺のすべてをぶつけるんだ!
ふらつくフリをして、立ち位置を調整する。
そして右手にコマンドナイフを構え、宣言する。
「ククル、次で最後だ!」
なぜ俺は、こんな事を言ってるんだ――。
だけどさ……小説のヒーローって、だいたい最後にこんな風に、決めゼリフを言うもんでしょ。
ハハッ。どこまで厨二なんだよって感じだが、別に悔いはねえさ。
俺は全力を出す――。だからククルにも、全力の俺を全力で受け止めてもらいたい。
なぜか俺は――、そう思ったんだ。
「ええ、ええ……。ダーリン。嬉しい……、すごく嬉しいです」
ククルも不敵な表情は変わらないが、満面の笑みでそう言い返してくる。
「そうか……。じゃあ、いくぜ」
「あなたが何を考えていても、私がそれをまた、全力で打ち砕いてみせますわ」
全力対全力か――。それなら悔いはない。
だから、もてよ! 俺の意思!
気合いと共に、前方のククルに向けダッシュする――。
気力を途切らせるな! 一瞬でも集中が切れれば、きっと俺は死ぬ!
まずは、スキル『索敵』を発動させ、ククルの攻撃を先読みする。
鞭の軌道が見えない⁉︎ そうか、ククルの奴、カウンター狙いか。
それなら次は、スキル『隠密』だ――。この瞬間、俺の姿はククルからは見えなくなる。
ククルの『探知』に気取られるまでが、勝負だ。
同時に俺は姿を隠したまま、スキルでリボルバー拳銃のM36を『錬成』する。
MPの残りを見ている暇はない。
これまで何度も『錬成』してきたM36なら、MPの消費量も少ない事を信じて、次の動きに出る。
狙ったポイントまで来た――。俺の三歩先には、ククルに折られた『背負い刀』の刃が転がっている。
それを――渾身の力で蹴り上げる。
刃がククルに向けて飛んでいく。
目視できる攻撃なので、防がれる事は承知の上だが、これで一瞬でもククルの気が逸れる事が狙いだ。
その間に、俺はスキルの重ねがけをする――。
そんな事ができるかは未知数だった。
だが成功した! それにMP切れも起こらなかった。
俺は後ろ手にしたM36を握る手に――、指に力を込める。
そして最後の仕上げに、姿を消したままククルに向かって飛びかかる。
すでにククルは、蹴り上げた刃をシールドで弾き返していたが、俺への対応はワンテンポ遅れるはずだ。
俺の『隠密』とククルの『探知』は、共にレベル9。
レベル差がないなら、先手を打った方が勝つはずだ。
『探知』の波動を感じる――。これで俺の姿が、ククルに見える様になったはずだ。
俺が選んだ位置はククルの正面――。つまり蹴り放った刃のすぐ後ろから、二段攻撃を仕掛けた事になる。
おそらくククルは、俺がシールドを避けた側面から来ると読んだだろう――。だからもう正面のシールドは消えている。
ククルの得物は両手の長短の鞭。
どちらを使うにしても、正面の俺への対応は遅れるはず――。
――ガンッ!
脳に響く衝撃。そして意識がプツッと途切れる。
絶命し、そして覚醒した俺は、後ろに倒れながら、額から血を吹き出すククルの姿を見る――。
その出血は、俺の攻撃によるものではない。
――こいつ……、マジか……。
ククルの奴、まさかの展開に、まさかの『頭突き』という離れ業で、俺の奇襲を撃退しやがったのだ。
――これが私の全力です!
ククルの勇姿は、まるでそう言っているかの様だった。
俺の執念の攻撃に、執念の頭突きで反撃してきた、美しき女王の根性に心の底から感嘆する――。
これで、俺の奇策に奇策を重ねた二段構えの奇襲は、見事に破られた…………が!
まだ終わりじゃねえ! 俺の最後の策は――三段構えだ!
消えそうな命の炎を燃やし、ククルの姿を真正面から凝視する。
次の瞬間、ククルの体が後ろからの衝撃に、ガクンと揺れる。
そして、続けざまにガラ空きの背中に、二発、三発、四発、五発――。
M36の38口径弾が、全弾着弾した。




