決勝戦【08】『虚々実々』
ククルが考えているのは、もはや勝利ではない。
足掻いて、足掻いて、足掻きまくる――俺を見る事が目的なんだ。
それでククルは、快楽を感じている。
俺も特殊性癖には寛容な方だが、さすがにオーバーキルの無限コンボは勘弁してほしい。
いや、無限じゃない――。
HP:192/380 MP:244/500
ククルだって消耗している。
やはり攻、防、両方にスキルの同時展開をするのは、楽じゃないって事だ。
まあ、それでいてHP、MP共に、まだ俺の倍以上あるってとこがムカつくんだが……。
HP:75/110 MP:32/80
だからこそ俺は、この残り32のMPを温存しておかなければならない。
それでいて手数は増やすんだ。ククルのHPとMPを削るために――。
ククルだって無限機関じゃない。
俺の攻撃で受けた傷を治すのにだって、『再生』のスキルでMPを消費する。
そしていつか――MPも尽きる。
だが固有スキルはMPを消費しない。
それを使って、ククルは俺のHPを補充し続けている。
すなわち――ジリ貧なのはククルの方だ。
とはいえ、今はまだ圧倒的にククルの方が有利だ。
だからこそ、自分を見失って快楽に溺れている――。
だが、もしその根本が崩れたら?
自分の優位が消滅して、死を意識する様になったら?
だから、ククルに意識させるんだ。
完璧と――、天才と自負していた、己の策の破綻を。
奴は天才だ。きっとまだ挫折を知らない。
だが、俺はお前の心を崩す。
その時、お前はまだ、なお足掻けるか? ――八ツ崎ククル!
「うおおおーっ!」
雄叫びを上げながら、俺は前に出る。
叫んでいなければ、とてつもなく怖い。
あの鞭を、電撃を、もしかすると、それ以上の苦痛を味わうかもしれないのに、まともな神経じゃ、足が動く訳がない。
「あら、ダーリン、今度は何を考えてらっしゃいますの?」
スキルも使わずに、ただ特攻してくる俺にククルも違和感を感じた様だ。
だが顔はまだ半笑いだ――。見てろ、その余裕をぶち壊してギャフンと――。
「ギャフッ!」
言わされたのは俺の方だった。
さすがにスキルなしでは、ジグザグに走っても鞭の射程圏内だった様だ。
骨がきしむ痛み――は、すぐに消えていく。
また俺の脚に巻かれた縄を通じて、ククルからHPが供給された様だ。
もうすでにククルの脚の縄とは繋がっていないのに、いまだその効力が消えていない事に、あらためて驚く。
こんな仕掛けまでして……、そんなに俺を失いたくなかったのか――。
いやいやいや、それならもっと俺を可愛がれよ!
今やってる事って、『可愛いがり』と言う名の虐待ですからね!
「グヘッ!」
そう思ったそばから、またクリーンヒットを食らってしまった。
マジ痛い! 超痛い! またすぐに治るからいいとかいう問題じゃない!
それから、こんな展開がしばらく続き、もう俺の心も折れそうになる――。
ちなみにせっかく錬成した『背負い刀』も、ついにククルの攻撃で折れてしまった。
そして俺は思う――。
もし俺がドMだったら、これってすごいご褒美なんだろうな。
もし今、俺の中のドMが覚醒したら、なんかすごい技が出せる様になるのかな?
…………。いやいや、こんな事を思ってられるんなら、まだ大丈夫だな。俺の心は折れていない!
気を取り直し、俺とククルのステータスを確認する。
HP:35/110 MP:32/80
HP:98/390 MP:120/500
ついにククルのHPが100を割った!
同時に、俺のHPの回復量が少ない事にも気付く。
心なしか、ククルの攻撃を食らった後の、回復が鈍い気もしていた。
おそらくはククルの疲弊とリンクして、固有スキルによるHP供給にも支障が出ていたのだろう。
仕方がないとはいえ、これでククルを追い詰めたのと同時に、俺も追い詰められてしまった。
50以下のHPなんて、ククルの攻撃ならクリーンヒット一発で消し飛んでしまう。
それなら――ここが仕掛け時だ!
「おいククル、自分のステータスを見ろ!」
現状を認識させて――心をへし折る。
「お前のHPは100を切った。もしヘマをやらかせば、もうお前だって死んじまうぞ!」
ここまで、浮かれた女に金を貢がせ続ける様な、ひどい策を取っちまった――。
だが現実は非情なんだ。その現実を直視しろ! そして、もうこんなふざけた戦い方はやめるんだ!
「フフフッ」
えっ、笑う⁉︎
「フフフッ、フフフッ、クックックッ、アーッハッハッハッ!」
お、おいククルの奴、あまりのショックに気が触れちまったのか⁉︎
「あー、その事ですか――。分かってましたよ……、そんな事」
「――――⁉︎」
俺は自分の耳を疑う。
「ダーリンが、なけなしのMPを温存しながら、何か企んでいる事なんて……、お見通しでしたから」
……こ、こいつ! 分かってて、それで!
「だから、それに乗ってあげたんです。ダーリンが私のHPを必死に見ながら、何度もカエルみたいに無様にひしゃげながら、それでも足掻く姿……。ああ……、最高でしたぁ」
すべて……、見抜かれていたのか……!
目の前が暗くなる。
ちっく……しょう……。
もうそれしか考えられない。
そして気力だけで立っていた俺は、文字通り心が折れて、その場に崩れ落ちた。




