決勝戦【07】『見捨てたくない』
マジか! こいつマジでか⁉︎
ククルの奴、殺し合いの相手にHP供給するとか、なに考えてやがんだ⁉︎
しかも俺の脚にHP供給用の縄を付けておくなんて、手が込みすぎてんだろ!
「ダーリン、やっと気付いてくれましたぁ?」
気付いたよ。てかお前、自分で見せてんじゃん……。
俺と同じ、赤い縄の巻かれた左脚を見せつけるククルにドン引きする――。
気付かなかった俺も俺だが、これ彼氏の知らないうちにGPSを仕込んどく、ヤンデレ彼女のやり口じゃんか……。
しかもこれよく見ると、SMの時とかに使う拘束用の縄に、すごく似てるんですけど……。
「フフッ、これでまだ足掻けますよ。ダーリン」
「――――!」
なるほど、そういう事か。
こいつは俺を、自分の手の中で踊らせたいんだ。
もちろん最後は自分が勝てると踏んで――、いやそうなのか?
だって、さっき俺はククルの首を、あと一歩で飛ばしかけたんだぞ。
それはククルだって分かっているはず――。
「ダーリン、もっと戦いましょ。HPは私が供給し続けますから、MPが尽きるまで――、いいえ、ダーリンならMPが尽きても、その体だけで足掻き続けてくれますよね⁉︎」
そう言ったククルの顔は狂っていた。だがその目に――濁りはなかった。
だからこそ恐ろしい。
きっとククルは本当に俺がMPを使い切っても、繰り返しHPを供給し続けて、足掻く俺を見たいのだろう。
やはりこれは――『執着』だ。
ククルは俺に執着している――。
勝ち負けじゃない。
たとえ自分の命が危険に晒されても、俺という存在と触れ合っていたいんだ。
俺が降参すれば、ククルは止まるのか?
いや、止まりはしない。
なぜなら、あいつはまだ俺の心が折れていない事を知っている――。
俺は絶対に折れない。諦めはしない。
こんな俺だからこそ――、ククルは俺に執着しているんだ。
もし俺が勝てなければ、俺はこの身が壊れるまで戦い続けるしかない。
まるで電池が切れて、腕が取れて、ガラクタになったおもちゃの様に――。
そして俺が消えた時、ククルは無垢で残酷な子供の様に、俺を忘れ去るのか――。
――いや忘れない。
もう俺とククルの間には、生死を共にした、いや生死も超えた歪な絆がある。
そうでなければ、勝利を目の前にして、俺にHPを供給したりはしない。
しかも脚に巻かれた縄は、『仲良くしないと出られないエレベーター』の後も、きっと『保険』として、密かに俺に付け続けられていたものに違いない。
なぜだ? 俺を失わないためだ。
そんな俺が消え去れば――、きっとククルの自我は崩壊する。
なぜなら、ククルは俺という存在に執着しているからだ。
執着ってもんは知らないうちに、自分の心に足枷を作る。
いや足枷どころか、下手をすればタチの悪い時限爆弾にもなる。
だから執着は嫌なんだ……。するのも、されるのも、もうゴメンだ。
俺は俺一人で生きる。自分の足枷になる背負うものを、もう作らない――。
それは親兄弟、その他のしがらみを全部捨てた時に、自分自身に立てた誓いだ。
なのに、なのに、なのに――!
チクショー、なんでククルの奴を見捨てられねんだ!
見捨てたくねえって思うんだ!
なんで……救ってやりてえって思うんだ……。
「さあ、ダーリン! 踊りましょう!」
再戦のお膳立てはしたとばかりに、ククルが鞭を放ってくる。
――バカ野郎、少しは空気を読め!
即座に対応できなかった俺は、それをまともに食らってしまう。
「グハッ!」
また電撃のトッピング付きかよ! 耐性ができたのか即死はしてねえが、また相当HPを削られたはずだぞ――。
「もー、ダーリンは踊りは苦手ですかぁ? それとも私の鞭の味が、癖になっちゃったんですかぁ?」
黙れ、この野郎。俺は真性のドSだぞ。あれ、痛みが……。
「ウフフッ」
ステータスを確認する暇もないうちに、ククルの奴、もうHPを補充したみたいだ――。
笑顔で敵にHP渡すとか、もうマジ狂ってるな。
だが、もうこれ以上ククルを狂わせたくねえ。
それなら――俺が勝てばいい! それですべて終わらせてやる!
敵にHP恵んでもらって言うセリフじゃねえが、理論は合っている。
合っているなら――足掻くんだ!
だが――、俺は無駄は嫌いだ。
この期に及んで、俺はまた戦術を組み直す――。
『索敵』と『隠密』を組み合わせた突入策は、もう通じないだろう。
それなら有限なMPを、無駄にするのは愚策以外のなにものでもない。
加えて、『回避』もできるだけ使いたくない――。
痛いのは嫌だが、補充されると分かっているHPを守るために、MPを使うのも馬鹿げているからだ。
だから今は懸命によけるんだ――。そしてまだ試していない策を考えるんだ!
「さあ、ダーリン、ステップを踏んでーっ!」
うわっ、足元に鞭が飛んできた⁉︎
ククルの奴、完全に状況を楽しみだしたぞ――。
無様なステップを踏みながら、俺は考える。
――ククルの心に慢心が芽生えた。
相手の心を崩すのに長けたククルが、慢心から冷静さを失っている。
ようやくこの時がきた――。
ここから今度は、俺がククルの心を崩すんだ。
さあ、どうすればいい――⁉︎ 考えろ、考えるんだ!




