決勝戦【06】『ヤンデレヒロイン覚醒』
振り抜いた剣先が鈍る――。
スキル『裏読み』の発動は、崩壊への始まりを意味する。
目の前に見えた勝利を否定された俺は、一瞬が何時間にも感じる中で、激しく動揺し続ける。
この背負い刀を振り抜けば――勝てるはずなのに。
どうして……、どうしてそれがダメなんだ⁉︎
理由を教えろよ! いつもいつも、それは危険だって――。理由を言ってくれなきゃ、俺だって納得できねえよ!
駄々っ子の様に心で叫びながら――、腕は刀を振り抜く事をやめていた。
そして長刀の切っ先が、ククルの白い首の皮を薄く斬る。
あのまま振り抜いていれば、間違いなくククルの首は宙に飛んだだろう。
そう思った次の瞬間、全身を駆け巡る激痛に身をのけぞらせる。
当然、カウンター攻撃は来る――。
それは右手に持った太く長い鞭ではなく、左手から繰り出させる、短いバラ鞭によるものだった。
クソッ、ククルの奴、ちゃんと近接戦用の鞭も用意していやがったのか!
しかも今の衝撃は、鞭だけのものじゃない。
おそらく鞭に、『電撃』のスキルも乗せていたに違いない。
かろうじて離脱できたが、ヤバすぎる――。
即死こそしなかったものの、相当HPは削られたはずだぞ。
HP:32/110
一撃で50近く減らされた!
まあ中途半端な攻撃で体勢崩したとこに、クリーンヒット食らったから無理もねえか……。
てか、次、食らったらマジで終わる――!
『回避』と『索敵』を、常に念頭においとかなきゃだな。
だが、なんで『裏読み』が発動したんだ?
あのままククルの首を取りに行ってたら、もっと手ひどいレベルの即死級のカウンターを食らってたって言いたかったのか?
普通に考えればそうだが、何か違う気がする。
固有スキルの持ち主として分かってきたんだが、『裏読み』っていうスキルは、場合によっては、なんというか、今じゃなくて『十手先』に対する警告を発している。
言いかえれば、戦術ではなく戦略レベルでの警告だ。
だとすると、何が間違ってたんだ。
「――――!」
とある結論にたどり着く――。
おいおいおい、冗談だろ?
まさか――、ククルを殺す事自体が間違いだって言いたいのか?
「ダーリン、なんで手加減しちゃったんですか……? いや、なんでためらっちゃったんですか?」
そのククルが体勢を立て直して、笑顔でそう言ってくる。
右手に長鞭、左手にバラ鞭を持った姿は、もう恐怖以外の何ものでもない。
長期戦になったせいか、あの冷静だった面影は消え失せ、半笑いの顔はまるで悪鬼の様だ――。
「俺にも分からねえよ……」
分からないから、素直にそう答えた。
だが、ククルはそれを自分に都合よく解釈する。
「ダーリン、それはですね……、きっと恋ですよ」
はあ? 急になに言ってやがんだこいつ。
「ダーリンはぁ、私の事が好きだから、私の事が殺せないんです。だから、さっきもためらっちゃったんですねー」
弾んだ声でククルは喋り続ける。
「でも私を殺さないと、ミッションをクリアできないのに、それでも私を殺せない――。ああ、恋って、なんて残酷なの! もう――生き地獄ですね!」
こいつ、ついに頭いっちまったか⁉︎
いや、なんとなく分かる――。俺になら分かる。
おそらく極限状態でククルは、自分の中にある創作家としての本能が目覚めちまったんだ。
つまりクルルは――自分という作品に酔っちまったんだ。
ヤンデレヒロインの覚醒とか勘弁してくれよ……。
全部読んでるから知ってるが、マジこいつの陵辱リョナはキツいんだからよ。
「ダーリン、ごめんなさい。さっきのは、ちょっと痛かったですよね」
ちょっとじゃねえよ。バラムチのフルスイングに、電撃のトッピングとか、そんなの昨今のワガママJKでもオーダーしねえよ!
「あらあらあら、HPもそんなに減っちゃって……。これあと一発でダーリン、昇天しちゃいますね」
言い方……。だがククルも、俺にリーチがかかっている事に気付いている。
これ以上、HPを削られるのはマジでまずいぞ……。
と思っていると、
「じゃあHP、お返ししますね」
耳を疑う言葉が飛び込んできた。
はあ? HPを返すって……。
「――――⁉︎」
あれだけ重かった体が、突然軽くなる感覚に驚愕する。
――まさか⁉︎
HP:80/110
バラ鞭を食らう前に、ほぼ戻っている――。
マジでこいつ、俺にHPを返したのか!
でもどうやって?
動揺から下げた視線の先に、答えはあった。
電撃のせいで露出した俺の右足首に――、赤い縄が巻かれていた。
これは――『仲良くしないと出られないエレベーター』で、二人三脚のために俺とククルの足首を繋いでいたものだ。
あの時、俺はこの縄のおかげで、ククルの固有スキル『女王様のご褒美』によるHP補給を受けられていたのだが――。
こいつが、まだ俺の足首に残っていた事には、気付かなかった。
そして見上げた俺の視線の先には――、ツイとスカートをつまみ上げ、左足首に巻かれた赤い縄を見せる、ククルの姿があった。




