決勝戦【05】『あと三歩』
予想もしていなかったククルの消耗に愕然とする。
まずHPだ。
バタバタと動き回っている俺に対して、ククルは無駄のない動きをしているはずなのに、この時点で100以上もHPが減っているのは、どう考えてもおかしい。
だが俺は気付く――。華奢な体で敵の腕をへし折ったりする、これまでの戦い方を見ていたせいで、誤解をしていた事に。
スキルで身体強化をしても、それは一時的な強化で――、八ツ崎ククルという少女自体は、見た目通りのか弱い女なのだと。
その証拠がMPだ――。
ここまで動きのほとんどが、受け身からのカウンターしかしていないのに、これもまた100以上のMPが減っている理由は、おそらく複数のスキルを同時発動しているからだ。
シールド、探知、受け身やカウンターを繰り出す時の身体強化――。これ以外にも、まだ知らないスキルも同時発動しているに違いない。
その処理能力は大したもんだが、言ってしまえば、これはコストがかかりすぎる最新鋭戦闘機と同じだ。
もっと俗な言い方をすれば、速いが燃費の悪い車みたいなもんだ。
驚異的な力には――、やはり代償があったのだ。
「ダーリン、何を考えてらっしゃいますの?」
ククルの奴、マジで読心術のスキルでも持ってんのか?
いやいや、それなら『探知』みたいなスキルを使う必要はねえ。
これは、揺さぶりだ。それに乗る訳にはいかねえ。
「いやな、お前のその鞭、似合いすぎだなって」
これは、はぐらかしでもあるが本心でもある。
だって真紅のゴスロリ衣装に鞭って、マジでそっち系の女王様でしょ。
対して俺は、黒のTシャツにチノパンで、コマンドナイフ構えてるんですよ……。いや、どこの厨二だって話よ。
ともかく、ククルの質問にはまともに答えちゃダメだ。
頭のいいククルなら気付いているはずだ。
――俺という存在が、今までの相手とは違う事に。
いきなり異世界転移させられて、驚異的なステータスとスキルを与えられ、ここまですべて一撃必殺で勝ってきたんだろうが、俺というイレギュラーに、あいつも戸惑っているはずだ。
「この鞭ですか……? ええ、淑女の嗜みですわ」
いや、戸惑ってる奴の発言とは思えねー。
だが、ここまでの俺の戦術は間違っていない――。
『回避』のスキルで、ククルの魔法攻撃をかわし続けるだけでは、ククルのMPは少ししか削れない。
逆にこれまでの様に、俺が攻めに出る展開なら、ククルはスキルを複数発動するためにMPを大量に消費する必要がある。
とはいえ、消耗戦で勝てる見込みもない――。
数字だけではククルの方がステータスの消費が激しいが、消費率では俺の方が随分削られているからだ。
だって、元の分母が三倍以上違うからね……。
まったく、どこの『赤い◯星』だよ! プンスカ!
冗談はさておき――、マジで困っているのは、ククルいわく淑女の嗜みの、あの長い鞭なんだよな……。
あの蛇の様に変幻自在に伸びる鞭のせいで、まず突入経路が制限される。
『索敵』のスキルで鞭の軌道は分かるんだが、分かってもよけなきゃいけないのは変わらない。
そのせいで、やはりあと三歩届かない。
クソッ、あの鞭のリーチのせいで! って、リーチ⁉︎ ――そうか!
残りMPは……48。よし、これならまだ大丈夫だ!
勝利への策を見出した俺は、自分に言い聞かせる――。
心を平静に保て――。ククルに気取られるな、と。
下手に話しかければ、何か策を隠そうとしていると見抜かれる。
人間ってのは、やましい気持ちの時ほど饒舌になるからな――。
奇襲だからこそ無の境地だ。いくぞ!
俺はククルとの会話を打ち切り、即座に打って出る。
ククルもすぐにそれに対応して、防御のために鞭を放ってこようとする。
そこで俺は『索敵』のスキルを発動する――。
鞭の軌道が見える――。そこを避けて『隠密』のスキルで、俺はククルのシールドのない面から回り込む。
だがククルの『探知』のスキルで、姿を消した俺の存在がバレる。
その結果、また三歩、俺のコマンドナイフの刃は、ククルまで届かない――。
――って、事にはなんねえんだよ!
「――――⁉︎」
ククルが顔を歪ませる。
さすがだな、異変に気付いたな。
俺の姿が視認できた瞬間、今までと違う点――。俺がコマンドナイフを、『左手』に持っている事にな。
このコマンドナイフじゃ、お前には届かなかった――。
お前の鞭のおかげで気付いたぜ。
俺もリーチを稼げばいいんだってな。
――『隠密』で移動しながら新たに錬成した武器。
刃渡りが長く、それでいて確実に一撃必殺で相手の首を飛ばせる剣。
偃月刀も考えたが、あれは刀身がデカすぎて、おそらく俺では振り抜けない。
それなら偃月刀よりも細身で、かつ強靭な剣は――。
「獲ったーーーっ!」
雄叫びを上げながら、振り抜く俺の右手に握られていたものは――日本刀。
それも室町時代に使用された、刃渡り約百五十センチの『背負い太刀』だ。
これなら、あと三歩を埋められる!
『探知』によって危機を察知したククルも、シールドを構築しようとしている。
だが、もう間に合わない。
俺の刃の方が速い!
――ゾクッ!
勝利を確信した瞬間――、悪寒に襲われる。
ま、まさかこれは、スキル『裏読み』の警告!
なぜ、これが今⁉︎ なんで今なんだ⁉︎




