決勝戦【03】『スキル発動』
我ながら、すごい選択をしたものだと思う。
超絶ステータスのククルを相手に、ナイフ一本で挑もうというのだから。
しかもナイフにしたのは――、ククルが開戦の合図のために、それまで持っていた食事用のナイフを宙に放ったのを、フッと思い出したからだ。
特に深い考えもなく、直感で選んだ――。
だが、それでいいと思う。
常識で挑めば、必ず叩き潰される。
それなら――、非常識こそが俺の選ぶ道だ。
ククルも平静な顔をしているが、発言から俺のこの選択が意外だった事は間違いない――。
それなら、まずは成功だ!
「それで私に勝てるとお思いですの、ダーリン?」
「ああ、こいつでお前を裸にひん剥いて、イキ死にさせてやるよ」
受け答えも、まともにはしない様にする――。
それにククルなら、この程度の挑発で、怒り狂ったりはしない事も分かっている。
むしろこれで時間が稼げている――。
その時間を使って、俺はステータスを確認する。
MP:68/80
俺が錬成したナイフは、マーク3ナイフという米海軍やネイビーシールズも使っていた、刃渡り約十五センチの片刃のものだ。
軍用という事は実用性もさる事ながら、対人戦闘も想定されている。
これの『創造』と『錬成』に、MPを6しか消費しなかった事は、驚きと同時に希望にもなった。
これで――余ったMPを、スキルの使用に回せるからだ。
そのスキルを確認する――。
『創造:LV8』『錬成:LV8』『洞察:LV8』『探索:LV8』『索敵:LV8』『隠密LV8』『射撃:LV8』『回避:LV8』
俺の固有スキル『器用貧乏』のおかげで、すべて等しくレベルが上がっている。
しかもレベル8なんて、ククルのレベル10に迫っているじゃないか――。
『創造』と『錬成』と『洞察』は、ここまで何度も使用してきた。『射撃』も銃主体の俺にとって、欠かせない基礎スキルとなっている。
試していないのは、『探索』『索敵』『隠密』『回避』の四つだ。
果たしてこれが『射撃』の様に、MPを消費しない基礎スキルなのか、『錬成』の様なMP消費型スキルなのかは分からないが、とにかく使ってみない事には内容がつかめない。
『探索』――。これは、おそらく戦場の地形や、未知の領域を調べるためのスキルだろう。
なら、まずこれはない――。戦闘フィールドは白一色の無限空間だ。それを今さら、調べる必要なんてないからだ。
「考えはまとまりましたか、ダーリン?」
まとまってねーよ。もうちょい待ってくれよ。――なんて言ってられねえな。
挑発の時間稼ぎなんざ、ここいらが潮時だろう。
――ヒュン!
ナイフを構えて動かない俺に向かって、ククルが漆黒の鞭を繰り出してきた。
これを食らったら、相当なダメージのはず! ここは――やってみるしかない!
――スキル、『回避』!
俺が念じた瞬間、体が自分の意思とは関係なく動く。
その結果――、俺は紙一重のタイミングで、ククルの鞭の一撃をかわす事に成功した。
「あーら……。ダーリン、いつの間にスキルの使い方を覚えたんですう?」
今だよ。とは答えない。
「俺ってド底辺と思いきや……、案外天才肌だったのかもな」
代わりに、思ってもいない事を口にする。
どういうやり方でもいい。とにかく、これまでの常識を覆すんだ。
それにしても、いきなりだったが『回避』のスキルが、こんなに有用だったなんて驚いた。
これは基礎スキルでもあるんだろうが、今みたいに発動する事で、緊急回避も可能な事がこれで分かった。
MPの消費も2で済んでいる事に加え、今まで攻撃しか考えていなかった俺に、防御系の選択肢が増えた事も大きい。
「ダーリンが天才? クスクスクス、それはあり得ませんわね」
俺の挑発に、ククルが挑発で返してきた。
やはりククルはブレない。
どうすれば、こいつを――こいつの心を崩せるんだ?
同時にスキルの事も考えなければならない。
残るスキルは『索敵』と『隠密』だ。
とにかく使ってみなければ効果が分からない。
なら――!
スキル『索敵』を発動させる――。
その瞬間、俺は驚いた。
ククルが鞭を繰り出す軌道が、まるでスローモーションの様に見えたからだ。
索敵とは本来、まだ姿の見えない敵の位置を探る行為だ。
だがこれは、敵の攻撃を先読みした形になっている。
さすが剣と魔法のファンタジーの異世界。
索敵の効果が敵だけでなく、敵意の象徴の『攻撃』を探るなんて、イカしてるじゃねえか!
映像では、ククルは俺の左側から、鞭で絡め取ろうとしている。
それなら俺は右に飛び出し、ククルの左側から間合いに入り込むべきだ。
だが、まともに突っ込んでも、きっとカウンターを食らう――。
だから、まともじゃダメなんだよ!
数秒後、スキル『索敵』の予告通り、鞭が飛んでくる。
来る事が分かっていたので、すぐに体勢を整えられる。
いくぞ! ぶっつけ本番だが、やるしかねえ!
スキル『隠密』だ!
「――――! なんですの⁉︎」
駆け出す俺の耳に、ククルが動揺する声が飛び込んでくる。
予想した通り――、ククルには、俺の姿が見えなくなっている様だ。
だが、こんな奇襲が何度も通じる訳がない。
だから――、この一瞬に賭けるんだ!
そして俺はククルの間合いまで入ると、逆手に構えたコンバットナイフを、艶やかに輝く首元に向けて振り下ろした。




