決勝戦【01】『執着』
「なあ、ククル。さっきの戦いで、どうして俺を助けてくれたんだ?」
「ルールだからですわ」
俺の問いに、ククルは簡潔に答える。
「ルールって……、なんだよ?」
「分かりませんか? さっきのミッションは『タッグしないと出られないコロシアム』でしたわよね。それなら私も、少しは戦闘に参加しておかないと――。そう思っただけですわ」
ククルの言い分は、理路整然としていた。
ちなみに今、俺は――、いや俺たちは『最後の晩餐』の席についている。
どデカいテーブル。その上に並ぶ豪華な料理。
すべて『運営』が用意したものだ。
これまでと百八十度違う、その好意的なはからいの意図は、なんとなく分かっている。
これから始まる最後の戦い――。どちらか一人が必ず死ぬ『決勝戦』に臨む俺たちが、どう向かい合うのか、どこかから眺めて楽しんでいるのだろう。
まったく悪趣味極まりないぜ……。
まあログインボーナスという名の、カ◯リーメイトばっか食わされていた俺には、ようやく与えられたごちそうなんだが、正直、なんも喉を通らねえ。
だから間を繋ぐために、またククルに話しかける。
「あの『仲良くしないと出られないエレベーター』だけど……、お前のスキルなら、俺と一緒じゃなくてもクリアできたんじゃないのか? ほら、さっきの二人だって『浮遊』のスキル持ちだっただろ。お前だってそのスキルを使えば――」
「ルールだからですわ」
俺の言葉を遮り、またククルは同じ返答をした。
「仲良くしないと……、か……」
思わず独り言の様に呟いてしまう。
それに、
「何が仰りたいんですの、ダーリン?」
ナイフとフォークを動かす手を止め、ククルが俺を睨みつけてきた。
「いや別に俺は……」
「私とここまで来た事が不満ですの?」
いきなり核心を突いてきた。
いやいや、その逆だよ――。
ククルがいなければ、俺はここまで来られる訳がなかった。
しかも強いだけじゃなくて、美しい――。
まあ、顔面踏みつけられたり、腕吹っ飛ばされそうになったりとか、紆余曲折はあったが、それでもククルの妖艶な美しさは、そのすべてを許してしまいそうな、まさに『女王様』の風格があった。
――それでも、俺の小説をつまらないって言った事だけは許さんがな……!
ともかく、今の俺にククルへの不満はない。
だから、
「俺たちは……おそらく、この後、殺し合うんだぞ」
俺も、俺が抱えてる思いの核心を、直球で述べる事にした。
最後の一人を決めるための、デスゲーム形式のトーナメント。
俺たちが異世界転移させられた、『運営』の目的――。
「お前は、俺が殺せるのか?」
「ダーリンは、私が殺せますの?」
質問返しかよ……。まあいい。
「分からねえ。そもそも俺が、お前を殺せる可能性は低いからな」
これは現実だ。そもそも俺とククルのステータスには、天と地の差がある。
第一、第二ミッションは自力だったが、第三、第四ミッションは、ククルのおかげで勝てた事は、疑いようのない事実だ。
「私がこの首を差し出せば、どうしますか?」
「ありがたく頂く……、とは言えねえな」
さっきのミッションで、無抵抗な女に45口径弾を、二発撃ち込んだ野郎の言葉とは思えねえな――、と内心、自嘲する。
すると、
「あーら、無抵抗に怯える女を、撃ち殺した方の言葉とは思えませんわね――」
ククルからも、俺の心を読んだかの様な言葉が飛んでくる。
しかも、
「まあ、そういうところが……、ダーリンの素敵なところですけどね」
「――――!」
これだ。どうしても俺が引っかかっていたところは、ここだ。
ククルは俺を――肯定し過ぎる。
言い方を変えれば――もはや『執着』している。
そんな相手を、こいつは殺せるのか?
俺は絶対に足掻き続ける――。
『運営』の野郎が、俺を『強欲』って言いやがったが上等だ。
だから、万に一つのチャンスがあれば、俺は勝者となるためにククルを殺すだろう――。
ククルに至っては、百万のチャンスがあるはずだ。
だからククルにも、躊躇なく俺を殺してほしい。
殺し合いに、スポーツマンシップを持ち込むのはアレだと思うが、少なくとも俺は悔いのない様に殺し合いたい――。
――クソッ、何考えてんだ俺は……。だが胸がモヤモヤする。
「あら、ダーリン。時間の様ですわよ」
ククルの声に顔を上げると、頭上に例のミッションの『お題』が表示されていた。
こんなタイミングで――。まだ話は終わっちゃいねえぞ! 空気読め、『運営』!
『◯◯◯◯しないと出られない異世界』
クソッ。ムカつくが、さっさと伏せ字を見て、心を落ち着けるか――。
そう思っていると、
「――――! お、おいククル⁉︎」
「……どういう事ですの?」
『◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯しないと出られない異世界』
さらに表示された『二つ目のお題』に、俺とククルは呆然とした。




