【65】『怠け者の願い』
「ラナ……」
俺はラナの体を抱きしめる――。
もう全身ボロボロで、感覚さえも失いそうだが、それでもラナの温かさが肌から伝わってくる。
「レオさん……」
ラナも俺に抱きついてくる。
その目には、涙が溢れかえっていた。
「ラナ、お前の体からエウロラの『神核』を取り除くぞ」
再会に浸りたいところだが、俺は決着に向かって進まなければならない。
だからラナの体を離し、心臓と同化した光輝く『神核』に目をやる。
だがラナが――、それに首を振る。
「どうした、ラナ?」
「もう無理です。エウロラは完全に私の体と同化しました」
「――――⁉︎」
ラナの言葉に俺は絶句する。
「そんなの――、やってみなけりゃ分からねえだろ⁉︎」
俺がそう言っても、ラナはまた悲しそうに首を振る。
薄々は、そうじゃないかとは思っていた――。
俺があれだけ『強欲のカルマ』を燃やしても、エウロラの『神核』はビクともしなかったのだから。
「レオさん、もうすぐエウロラは成体になってしまいます」
「そ、そんな……」
分かっていた事でも、認めたくない。
「そうなれば宿主としての私の役割は終わります――」
「そ、それって……」
分かっている。エウロラの復活はラナの完全なる死を意味している。
「でもレオさんが、必死に私を呼んでくれたから――、最期に私は帰ってこれました」
そう言って、ラナはまぶしいくらいの笑顔を作る。
それが輝かしければ輝かしいほど、俺の心は絶望に染められていく。
「レオさん――、私を殺してください。今ならまだエウロラを倒せます」
そしてラナは、俺がもっとも聞きたくない言葉を口にする。
「ダメだ――」
「今もエウロラは、体を取り戻そうとして、私の体で暴れています!」
俺の言葉を遮り、ラナが絶叫する。
そして今度は静かに言ってくる。
「今ならまだ私が、エウロラを閉じ込めていられます――。『怠け者』だった私に……、最後の仕事をさせてください」
「そんな事言うな! お前は誰よりも頑張ってきた! 家族を支えるために一人で働いて、モンスターの臓器を売って……、人殺しまでして――。なんでそんなお前が幸せになれないんだよ!」
俺は駄々っ子の様にわめき散らす。
そんな俺にも、ラナは微笑みながら言ってくる。
「私のためにレオさんにも迷惑かけちゃいましたね。本当にごめんなさい」
「バカ言うな! 俺が選んだんだ!」
俺は叫びながら、思わず涙ぐんでしまう。
「俺はな、前世で家族を、友だちを、すべてを――、全部全部捨てたんだ! もう何も背負いたくねえってな……」
「レオさん……」
「だけど今の俺は違う! 俺がお前を背負いたいって心から思ってるんだ! だから俺に……お前の事を背負わせてくれよ!」
「レオ……さん!」
ラナも涙を流している。
「レオさん、愛しています――。心から」
「ああ、ラナ。俺も心からお前を愛している」
俺たちは気持ちを確かめ合う。
だが、そんな幸せも束の間――、
「ううっ!」
胸を押さえてラナが苦しみだす。
「ラナ⁉︎」
慌てる俺に、
「もう時間がありません。もうすぐ私はエウロラを抑え切れなくなります」
ラナは非情の宣告を突きつけてくる。
「レオさん――。私はエウロラになってしまうなんて嫌!」
「ラナ……」
「最後まで――、レオさんが愛してくれた、レオさんを愛している……ラナでいさせてください」
「――うっ、うううっ!」
俺は子供の様な嗚咽を抑えられない。
そんな俺の頬を両手で掴むと、
「それと――」
ラナは優しい笑顔を向けながら、こう言った――。
「私が……、お母さんが、エルが、アーシャが、カムリが生きた……、『この世界』を救ってください」
その瞬間、俺の体に力が蘇る。
それは神の眷属となった、俺に課せられた宿命だったのか――。
俺の足元には、錬成したベレッタM92Fが消えずに残っていた。
――どうして……。
運命はいつも残酷だ。
――だが惚れた女の願いを、叶えてやらなけりゃならねえ。
そう決意した俺の『強欲のカルマ』が燃え上がっていく。
そして思う――。
――世界を取るか、ラナを取るか。
ごめんな、ラナ――。やっぱり『二者択一』しなければいけなかった様だ。
『二者択一しなければ出られない異世界』
俺の『強欲』をもってしても、その運命を覆す事はできなかった――。
両手を広げるラナの背中に、エウロラの気配が漂い始めた。
本当に間もなく、エウロラの分裂体はラナの体を奪い、完全復活する様だ。
俺は銃を構え、照準をラナの左胸に合わせる。
ラナの心臓と完全に同化した――、エウロラの『神核』を砕くためだ。
光輝く『神核』――。
その光に照らされたラナの顔は、本当に綺麗だった。
「ラナ――、愛している」
俺はラナに微笑みかける。
「レオさん――、愛しています」
ラナも俺に微笑み返してくれる。
お互いの気持ちを確かめ合った瞬間――、俺は銃の引き金を引く。
――パンッ!
銃声と共に、俺の『強欲のカルマ』の力を乗せた弾丸が、光の帯となって放たれる。
『やめろーっ!』
エウロラの声が聞こえた気がした。
次の瞬間、ラナの左胸から光輝く『神核』が粉々に砕け散り、宙を舞った。




