【63】『誰かのための力』
完全にラナと化したエウロラが、『限界突破』の体勢に入る。
もちろん狙いは俺だ。
ラナが――、俺を殺しに来る。
その正体はエウロラだ――。
それが分かっていても、困惑する俺は迎撃どころか回避の姿勢も取れない。
「それじゃー、レオをスパーッと、やっちゃうからね」
エウロラの口調で、ラナの声がそう告げてくる。
横薙ぎに構えた大鎌が、ラナと同じ鈍い光を放っている。
間もなく、『限界突破』による超高速の『斬撃』が来る――。
もうMPが尽きた俺には、スキルでそれに対処する事もできない。
唯一残された手は――、ラナごとエウロラを殺す事だ。
ノーガードの『神核』は、ラナの心臓の位置で光り輝いている。
それを俺の銃で撃ち抜けばいいだけの話だ。
だが同時に、ラナも死ぬ――。
だから俺は……、どうする事もできないんだ。
「じゃあ、いっくよー! よーい、ドーン!」
明るい声と共に、ラナの体が迫ってくる。
その瞬間――、俺の体も後方へと引っ張られた。
「――――⁉︎」
尻もちをついたまま、俺は地面を後ろに向かって引きずられていく――。
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
だが俺は自分の体が、鞭によって拘束されている事に気付く。
「ダーリン――、大丈夫ですか⁉︎」
動きが止まると、俺のそばにククルがいた。
いや逆だ――。俺がククルのそばまで、長鞭で引き寄せられたのだ。
俺の無事を確認すると、すかさずククルは前方に『魔弾』を放つ。
「もー、なんだよー、ククル! 邪魔しないでよー!」
その標的であるエウロラが、抗議の声を上げながら攻撃を中止する。
ククルの機転のおかげで、俺は九死に一生を得た。
状況が落ち着いたと判断すると、ククルが俺に目を向けてくる。
俺は、自分の不甲斐なさを責められるのではと覚悟したが、
「ダーリン、私が時間を稼ぎます。なんとか態勢を立て直してください」
「ククル……」
その優しげな声と表情に、驚くと同時に戸惑ってしまう。
そして呆然となる俺は、声にならない叫びを上げる――。
どうしてお前は、こんな極限状態でそんな優しい顔ができるんだよ?
だってそうだろ? 俺はラナも世界も全部救うなんて、タンカ切っておきながらこのザマなんだぜ?
それにお前は、俺がラナを殺せない事を最初から分かっていて、その傷を俺の代わりに背負うって――、恨むなら自分を恨んでくれって、そこまで言ってくれたよな……。
それなら、今の俺を罵倒してくれよ!
いつもみたいに女王様の顔で罵ってくれよ!
この口先だけのヘタレ野郎! ってさ……。
なのに全部分かった上で、そんな顔するなんて反則だろ……。
うちひしがれる俺の心に、
『ククル、エウロラの『限界突破』じゃが――』
『ええ、何かキレがありませんわね』
思念体となったセンチアと、ククルの念話が聞こえてくる。
『お前もそう思ったか?』
『ええ、もし本来の『限界突破』でしたら、さっきのダーリンの救出も、私の鞭のスピードでは絶対に間に合いませんでしたわ』
ククルの言葉に、俺もハッとなる。
確かにラナの『限界突破』による『斬撃』は、いつも目にも留まらぬスピードだった。
それが、さっきは迫り来るラナの姿が、俺の目にもハッキリと確認できていた。
つまり――、エウロラが使う『限界突破』は不完全という事だ。
それが分かった俺は、顔を上げる。
ククルだけじゃなく、こんな俺をセンチアも非難してこない。
最高神として、誰よりも決着を望んでいるはずなのに――。
俺さえ覚悟を決めれば、すべては終わる。
みんなそれが分かっているのに、踏み切れない俺を非難してこない。
それはククルもセンチアも、きっとまだ俺を信じてくれているからだ――。
俺はそう思いたかった。自惚れだろうが、なんだっていい。
俺はまだ立ち上がれる――。その力をククルとセンチアがくれた。
そして教わった――。
――力は、人を思う気持ちにしか宿らないと。
だから『限界突破』を、エウロラが使いこなせない理由が俺には理解できた。
それなら――、まだ俺にも戦える!
「エウロラー!」
「ダーリン⁉︎」
突然、叫びながら駆け出す俺の背中越しに、ククルの驚く声が聞こえる。
だけどククル――、心配すんな。
お前の王様、そしてお前の下僕は、まだやれるってところを見せてやるよ!
「フン。せっかく助かったのに、レオは自分から殺されにくるんだねー」
エウロラは、勝ち誇った顔を崩さない。
それをラナの顔で、そして声で言ってくる事に、あらためて心底腹が立った。
「じゃあ今度こそレオを、『限界突破』でスパーッ! ってやっちゃうからね」
再び『限界突破』の鈍い光が、ラナの体から放たれる。
「ダーリン⁉︎」
動揺するククルに、
「ククル! 『魔弾』で『斬撃』の進路を限定させてくれ!」
俺は支援射撃を要請する。
「いっくよー!」
エウロラも同時に動き出した。
次の瞬間、ククルはエウロラの左右に『魔弾』を乱射する。
何も理由を聞かずに、阿吽の呼吸で即行動に出てくれるククルを、心から頼もしいと思う。
――さて、次は俺の番だ!
ククルの支援射撃のおかげで、エウロラの『限界突破』の軌道は、俺に向かって直線に進む事しかできなくなった。
来ると分かっているなら――、なんとか対応ができるはずだ。
根拠のない自信だが、今の俺には確信があった。
ラナの『限界突破』でなければ、きっと勝てると。
――さあ、俺の中の『強欲のカルマ』よ、燃え上がれ!
気合いを入れる俺の目に、エウロラがグングン迫ってくる。
だがやはり目視で確認できる。
速いが、ラナほどじゃない。
そして俺の数メートル手前で、横薙ぎを狙う大鎌が振りかぶられる。
「うおりゃあーーーっ!」
間合いに入った事を確認した俺は、叫びと共に前に出る。
――ガシッ!
「えーーーっ⁉︎」
エウロラが驚いている。
なぜなら俺が選択したのは――、攻撃ではなく拘束だったからだ。
俺は真正面から、ラナの体を羽交い締めにしている――。
この状況では、大鎌での攻撃はできない。
「な、なんで……?」
「教えてやるよ――。なんでお前の『限界突破』が通用しなかったのか」
捕られられた事に動揺するエウロラに、俺は言い放つ。
「ラナの『限界突破』はな――、誰かのために戦うという『覚悟』が必要なんだ!」
「かく……ご?」
エウロラは俺の言っている事が理解できない。
そうだろう。それが分かっていないから、今こいつは俺に捕まっているのだ。
「ラナはいつも家族のため、そして俺のために戦ってくれた――。それをククルとセンチアが思い出させてくれた」
「ダーリン……」
独り言の様に呟く俺に、ククルも唖然とした声を上げている。
「俺もククルのため、センチアのため、そしてラナのために戦いたい――」
「…………⁉︎」
俺の静かなる闘志に、もはやエウロラも声を出す事ができない。
「だから――、俺は負ける訳にはいかない!」
気合一閃――、俺は足払いを仕掛け、ラナの体を地面に押し倒すと、その上に馬乗りになった。




