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◯◯しないと出られない異世界  作者: ワナリ
第一章『怠惰:異世界攻略⁉︎』

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【63】『誰かのための力』


 完全にラナと化したエウロラが、『限界突破』の体勢に入る。

 もちろん狙いは俺だ。


 ラナが――、俺を殺しに来る。

 その正体はエウロラだ――。

 それが分かっていても、困惑する俺は迎撃どころか回避の姿勢も取れない。


「それじゃー、レオをスパーッと、やっちゃうからね」


 エウロラの口調で、ラナの声がそう告げてくる。

 横薙ぎに構えた大鎌が、ラナと同じ鈍い光を放っている。


 間もなく、『限界突破』による超高速の『斬撃』が来る――。

 もうMPが尽きた俺には、スキルでそれに対処する事もできない。


 唯一残された手は――、ラナごとエウロラを殺す事だ。

 ノーガードの『神核』は、ラナの心臓の位置で光り輝いている。

 それを俺の銃で撃ち抜けばいいだけの話だ。


 だが同時に、ラナも死ぬ――。

 だから俺は……、どうする事もできないんだ。


「じゃあ、いっくよー! よーい、ドーン!」


 明るい声と共に、ラナの体が迫ってくる。

 その瞬間――、俺の体も後方へと引っ張られた。


「――――⁉︎」


 尻もちをついたまま、俺は地面を後ろに向かって引きずられていく――。

 一瞬、何が起こったのか分からなかった。

 だが俺は自分の体が、鞭によって拘束されている事に気付く。


「ダーリン――、大丈夫ですか⁉︎」


 動きが止まると、俺のそばにククルがいた。

 いや逆だ――。俺がククルのそばまで、長鞭で引き寄せられたのだ。

 俺の無事を確認すると、すかさずククルは前方に『魔弾』を放つ。


「もー、なんだよー、ククル! 邪魔しないでよー!」


 その標的であるエウロラが、抗議の声を上げながら攻撃を中止する。

 ククルの機転のおかげで、俺は九死に一生を得た。


 状況が落ち着いたと判断すると、ククルが俺に目を向けてくる。

 俺は、自分の不甲斐なさを責められるのではと覚悟したが、


「ダーリン、私が時間を稼ぎます。なんとか態勢を立て直してください」


「ククル……」


 その優しげな声と表情に、驚くと同時に戸惑ってしまう。

 そして呆然となる俺は、声にならない叫びを上げる――。


 どうしてお前は、こんな極限状態でそんな優しい顔ができるんだよ?

 だってそうだろ? 俺はラナも世界も全部救うなんて、タンカ切っておきながらこのザマなんだぜ?


 それにお前は、俺がラナを殺せない事を最初から分かっていて、その傷を俺の代わりに背負うって――、恨むなら自分を恨んでくれって、そこまで言ってくれたよな……。


 それなら、今の俺を罵倒してくれよ!

 いつもみたいに女王様の顔で罵ってくれよ!

 この口先だけのヘタレ野郎! ってさ……。

 なのに全部分かった上で、そんな顔するなんて反則だろ……。


 うちひしがれる俺の心に、


『ククル、エウロラの『限界突破』じゃが――』


『ええ、何かキレがありませんわね』


 思念体となったセンチアと、ククルの念話が聞こえてくる。


『お前もそう思ったか?』


『ええ、もし本来の『限界突破』でしたら、さっきのダーリンの救出も、私の鞭のスピードでは絶対に間に合いませんでしたわ』


 ククルの言葉に、俺もハッとなる。

 確かにラナの『限界突破』による『斬撃』は、いつも目にも留まらぬスピードだった。

 それが、さっきは迫り来るラナの姿が、俺の目にもハッキリと確認できていた。


 つまり――、エウロラが使う『限界突破』は不完全という事だ。

 それが分かった俺は、顔を上げる。


 ククルだけじゃなく、こんな俺をセンチアも非難してこない。

 最高神として、誰よりも決着を望んでいるはずなのに――。


 俺さえ覚悟を決めれば、すべては終わる。

 みんなそれが分かっているのに、踏み切れない俺を非難してこない。


 それはククルもセンチアも、きっとまだ俺を信じてくれているからだ――。

 俺はそう思いたかった。自惚れだろうが、なんだっていい。

 俺はまだ立ち上がれる――。その力をククルとセンチアがくれた。


 そして教わった――。

 ――力は、人を思う気持ちにしか宿らないと。


 だから『限界突破』を、エウロラが使いこなせない理由が俺には理解できた。

 それなら――、まだ俺にも戦える!


「エウロラー!」


「ダーリン⁉︎」


 突然、叫びながら駆け出す俺の背中越しに、ククルの驚く声が聞こえる。

 だけどククル――、心配すんな。

 お前の王様、そしてお前の下僕は、まだやれるってところを見せてやるよ!


「フン。せっかく助かったのに、レオは自分から殺されにくるんだねー」


 エウロラは、勝ち誇った顔を崩さない。

 それをラナの顔で、そして声で言ってくる事に、あらためて心底腹が立った。


「じゃあ今度こそレオを、『限界突破』でスパーッ! ってやっちゃうからね」


 再び『限界突破』の鈍い光が、ラナの体から放たれる。


「ダーリン⁉︎」


 動揺するククルに、


「ククル! 『魔弾』で『斬撃』の進路を限定させてくれ!」


 俺は支援射撃を要請する。


「いっくよー!」


 エウロラも同時に動き出した。

 次の瞬間、ククルはエウロラの左右に『魔弾』を乱射する。

 何も理由を聞かずに、阿吽の呼吸で即行動に出てくれるククルを、心から頼もしいと思う。


 ――さて、次は俺の番だ!


 ククルの支援射撃のおかげで、エウロラの『限界突破』の軌道は、俺に向かって直線に進む事しかできなくなった。


 来ると分かっているなら――、なんとか対応ができるはずだ。

 根拠のない自信だが、今の俺には確信があった。

 ラナの『限界突破』でなければ、きっと勝てると。


 ――さあ、俺の中の『強欲のカルマ』よ、燃え上がれ!


 気合いを入れる俺の目に、エウロラがグングン迫ってくる。

 だがやはり目視で確認できる。

 速いが、ラナほどじゃない。

 そして俺の数メートル手前で、横薙ぎを狙う大鎌が振りかぶられる。


「うおりゃあーーーっ!」


 間合いに入った事を確認した俺は、叫びと共に前に出る。


 ――ガシッ!


「えーーーっ⁉︎」


 エウロラが驚いている。

 なぜなら俺が選択したのは――、攻撃ではなく拘束だったからだ。

 俺は真正面から、ラナの体を羽交い締めにしている――。

 この状況では、大鎌での攻撃はできない。


「な、なんで……?」


「教えてやるよ――。なんでお前の『限界突破』が通用しなかったのか」


 捕られられた事に動揺するエウロラに、俺は言い放つ。


「ラナの『限界突破』はな――、誰かのために戦うという『覚悟』が必要なんだ!」


「かく……ご?」


 エウロラは俺の言っている事が理解できない。

 そうだろう。それが分かっていないから、今こいつは俺に捕まっているのだ。


「ラナはいつも家族のため、そして俺のために戦ってくれた――。それをククルとセンチアが思い出させてくれた」


「ダーリン……」


 独り言の様に呟く俺に、ククルも唖然とした声を上げている。


「俺もククルのため、センチアのため、そしてラナのために戦いたい――」


「…………⁉︎」


 俺の静かなる闘志に、もはやエウロラも声を出す事ができない。


「だから――、俺は負ける訳にはいかない!」


 気合一閃――、俺は足払いを仕掛け、ラナの体を地面に押し倒すと、その上に馬乗りになった。


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