【62】『最悪の盾』
「アハハハハッ! そうかー、そうだよねー!」
エウロラが俺を見ながら、突然大笑いを始める。
「レオには、最初からこうしてればよかったんだよねー」
そう言いながら、エウロラはラナの背中から生やした上半身を、その本体に潜り込ませる。
「なっ⁉︎」
俺は愕然とする。
そこに残ったのは、ラナの体だけだった。
「ねー、レオ。これでもエウロラの事が倒せるかなー?」
だが、その顔と声はエウロラのものだった。
――やられた!
エウロラは、この最終局面で最上の戦術に気付いてしまった。
ラナを誤射した事による、俺の激しい動揺――。
その二度目を、さすがにエウロラは見逃さなかった。
俺はラナを殺したくない――。
そのラナの体に、エウロラは潜り込んでしまった。
すなわちエウロラは――俺に対して、最強の『盾』を手に入れてしまったのだ。
「ほーら、レオー。エウロラの事、撃ってごらんよー」
「――っ!」
あからさまな挑発にも、俺は何もできない。
エウロラは今、ノーガードだ。
撃てば必ず当たる。
だが、攻撃対象はラナの体だ。
エウロラを傷付けるという事は、ラナの体を傷付ける事に百パーセント直結する――。
それでも気合いで、銃をエウロラに向ける。
「ハア――、ハア――」
呼吸が乱れていく。
それに構える銃が、カタカタと震えているのが分かる。
ダメだ――。撃てる訳がない。
「どうしたのー、レオー?」
そんな俺にエウロラが、いたずらっぽく微笑みかけてくる。
「じゃあ、いい事教えてあげるねー。今ねー、エウロラの『神核』はラナの……心臓のところに、あるんだよー」
エウロラがラナの左胸を指差すと、そこに光輝く『神核』が浮かび上がってくる。
「お、お前――⁉︎」
俺は言葉を失う。
エウロラの奴、なんて事をしてくれたんだ。
これでエウロラを倒すには、ラナの心臓を撃ち抜くしか方法がなくなってしまった。
「さー、ほらー。撃ちたいなら、撃ってごらんよー」
勝ち誇った様に、エウロラがニヤニヤと笑う。
その瞬間、
――バシュッ!
空を切り裂く音と共に、鈍い光がエウロラの左胸に当たる。
「ンンッ――⁉︎」
エウロラは小さくうめきながら、左胸を押さえている。
何が起こったのかと、俺は光の来た方向を振り返る。
「油断しましたわね、エウロラ――。まだ私も健在でしてよ」
そこには片膝をつきながら、腕を前に突き出すククルの姿があった。
ククルがエウロラの『神核』を射ち抜いた――。
これで――決着がついたのか?
そう思いかけた俺の耳に、
「あー、そっかー。ククルは『魔弾』も射てたんだねー。でもそれを『神殺し』に使ってくるなんて、やっぱりククルは鬼畜なんだねー」
エウロラの楽しそうな声が聞こえてくる。
そしてエウロラはまるでホコリでも払う様に、左胸をパタパタとはたくと、
「――――⁉︎」
そこに傷一つ負っていない『神核』が、いまだ光り輝いている事に俺は声を失う。
「そうだよねー、ククルならラナを殺せるもんねー。でも残念だったね――」
エウロラはそう言ってニヤリと笑うと、
「エウロラは、もうほとんど成体になっちゃった――。だからレオ以外じゃ、もうエウロラを殺せないんだよー」
衝撃の事実を、嬉しそうに突きつけてくる。
まだ幼体の時、ククルはエウロラと互角以上の戦いを展開し、かなりのダメージも与えていた。
だが今、魔の力を帯びた『魔弾』を用いても、ククルの攻撃はエウロラに通用しなくなってしまった。
それはエウロラが、ほぼ成体に近付いたという事を、本当に裏付けていた。
体はラナのものでも、その中身は成体のエウロラになろうとしている。
このままでは、ラナはエウロラに取り込まれ命を失ってしまう――。
――どうすればいい?
呆然と立ちつくす俺に、
「あっ、そーだー!」
と、エウロラが何かを思いついた様に笑いかける。
「レオには、もーっと面白い事をしてあげるね」
そう言ってエウロラが、両手で顔を隠した。
「ウフフ――。じゃーん!」
そしてエウロラが両手を開くと――、その顔がラナのものに変わっていた。
「――――⁉︎ お、お前……!」
「どう? これで頭の先からつま先まで、エウロラはぜーんぶラナとおんなじになったよー」
ガクガクと体を震わせる俺に、エウロラはラナの声でそう言ってくる。
ラナを殺せない俺に、さらにエウロラは最上の戦術を取ってきた――。
これは――、完全に詰んだ。
「んー? どーしたのー、レオー? もしかして戦意喪失ってやつー?」
動けなくなる俺に、エウロラはラナの顔で不満そうに頬をふくらませる。
だがそれにも俺は何も言い返せない。
「ハア、つまんなーい。もー、いいよー。エウロラ、一人で遊ぶから」
エウロラの――、ラナの体から鈍い光が放たれていく。
「エウロラ、ラナの『限界突破』気に入っちゃったんだよねー。だからレオは『限界突破』で殺してあげるねー」
ラナの手に、大鎌が錬成される。
そしてラナの顔が不敵に笑う――。
それがエウロラに乗っ取られたものだと分かっていても――、俺にはただ呆然と立ち尽くす事しかできなかった。




