【61】『アクシデント』
「ギィヤァーーーッ!」
肩口を粉砕されたエウロラが、苦悶の叫びを上げる。
同時に複数張ったシールドも解除され、その姿があらわになる。
俺の『強欲のカルマ』を燃やして放った一撃――。
それは9ミリ弾であろうと、エウロラを打ち砕く『力』を得た。
エウロラも事態を理解したらしく、俺を恐怖の目で見ている。
「レオ……。お前は……『強欲神』になったのか?」
「――――?」
エウロラの言葉の意味が分からない。
「それは――、センチアの力だよね?」
無言の俺に、エウロラは構わず喋り続ける。
「なんで、なんで、なんで⁉︎ ずるいよ⁉︎ エウロラだって、こんな分裂体じゃなくて、全部元に戻れば、センチアよりも――、『強欲神』よりも強いのにー!」
エウロラは子供の様に喚き散らす。
どうやらピンチに陥った事で、エウロラは幼い本性が隠せなくなってしまった様だ。
相変わらず言っている事は理解できないが、これはチャンスだ――。
エウロラが錯乱しているうちに――、その『神核』を今度こそ粉砕してやる!
俺は手にした銃を構え直す。
「――っ⁉︎」
エウロラも俺の動きに機敏に対応して、間合いを取り直す。
しかも今度は、まったくシールドを張っていない。
やっても無駄な事をしないあたり、さすがの戦闘センスだと認めざるを得ない。
だが今の俺の弾丸なら、当たりさえすればダメージを与えられる。
――とにかく当てる事だ!
照準を合わせようとするが、エウロラは今後は素早く動き回り、俺に狙いを定めさせない。
「チッ!」
俺は思わず舌打ちする。
ガキの思考回路のくせに、こういう所は本当によく頭が回りやがる。
エウロラは、一定の距離を保ったまま動き回っている――。
もう近接戦をする気はないらしい。
防御無視で攻撃が通ってしまうなら、距離を取った方が得策なのも、肌で感じ取っているのに違いない。
そして、このままイタチごっこを続けていれば、時間切れでこちらが負ける事も――。
なぜならエウロラが成体になってしまえば――、そこで俺たちは『詰み』だからだ。
――仕掛けなくては!
そう思った瞬間、
「ハーッ!」
動き回るエウロラが、突然複数の魔法陣を空中に張る。
一瞬、シールドかと思ったが、これは違う。
エウロラの奴、先に仕掛けてきやがった――!
魔法陣から放たれる光弾が、俺に襲いかかってくる。
エウロラも勝負をかけてきたのか、まさに乱射だった。
もうスキルに頼れない俺は、地面を転がりながら、それを必死によけてまわる。
だが視線はエウロラから外さない。
たとえ格闘技でも、攻撃と防御を同時にはできない。
つまり攻撃に出た瞬間、そこには必ず隙が生じる。
カウンター攻撃――。
ようやくめぐってきたチャンスに、俺は地面に転がったまま銃の引き金を引く。
――パンッ!
放たれた弾丸はエウロラの頬をかすめた。
「ヒッ!」
エウロラは怯えながら、後退してしまう。
やはり不完全な体勢からの射撃では、『神核』を狙ったはずが、大きく的を外してしまった。
中途半端に当たってしまったのは、かえってまずかったかもしれない。
カウンター攻撃は、相手に警戒されてしまえば次はないからだ。
今ので、エウロラが消極策に転じてしまえば、倒すチャンスがますます減ってしまう――。
懸念した通り、エウロラは距離を取ったまま動き回るだけで、もう仕掛けてこなくなった。
『レオ、エウロラが成体に近くなっておるぞ!』
思念体となったエウロラが、念話で警告してくる。
『クソッ! エウロラの奴、このまま成体になるまで時間稼ぎをするつもりか⁉︎』
状況が分かっている俺も、焦りが募っていく。
やはり俺から仕掛けるしかない――。
俺のベレッタにはまだ十発以上、弾丸が残っている。
だが、もう時間がない。
ここはエウロラが俺にやった様に、乱射戦術でいくしかない。
エウロラは俺の攻撃力に怯えて、腰が引けている。
おそらく俺が仕掛けても回避するだけで、攻撃後のカウンターを繰り出す度胸はないだろう。
それなら、もう防御は考えなくていい。
乱射が『神核』に当たればよし、当たらなくても本命は乱射後に動揺したエウロラに、一発必中の一撃を加える事だ。
俺は少しでも距離を詰めるために前に出る――。
何かを感じたエウロラも、俺からさらに距離を取ろうと激しく動きながら、後方へ下がる。
――やはり腰が引けている!
エウロラが守勢にまわった事を確信した俺は、銃を乱射する――。
しかも左右の動きに合わせて、弾丸の軌道はバラバラにずらした。
「クッ⁉︎」
自分と同じ手を使われて、少なからずエウロラも動揺している。
だが、それでもエウロラは迫り来る弾丸に機敏に対応する。
成体に近付いたせいなのか、その動きは尋常ではなかった。
ラナの体と合わせて、二メートル近い体なのに、その身をそらし、よじらせ、十発近い弾丸を次々とかわしていく。
「マジか⁉︎」
驚きはしたが、想定の範囲内でもある――。
こうなれば勝負は、この後の一発必中の精密射撃だ。
そう思い銃を構え続ける俺の目に、想定外の光景が映る。
乱射した弾丸の最後の一発を――、エウロラがよけきれず、なんとラナの体に当ててしまったのだ。
「――ラナ⁉︎」
俺は声を上げてしまう。
もちろん狙いはエウロラだった。
だから弾丸はその胴体側面を砕いたが――、同時に直近にあるラナの頬もかすめてしまったのだ。
――しまった!
俺は起こってしまった事態に、激しく動揺する。
冷静に考えれば分かる事だった。
俺は決着を焦るあまり、ラナを巻きぞえにするリスクを忘れてしまっていたのだ。
「グアーーーッ!」
エウロラは苦しみのあまり、前屈みになる。
ここでエウロラの『神核』を撃ち抜くのが真の狙いだったのに、ちょうどラナの顔が重なっているために引き金を引く事ができない。
想定外のアクシデント――。
俺にとって、まさに最悪のシチュエーションとなってしまった。
そんな俺を、苦しみながらエウロラが見ていた。
そしてエウロラが――、何かに気付いた様にニヤリと笑った。




