【60】『カルマを燃やせ!』
「おい、センチア! なにやってんだ⁉︎」
動揺の収まらない俺は、顔の横にいるセンチアに叫ぶ。
「やかましい、少し落ち着け!」
センチアが怒鳴り返してくる。
いやいや、落ち着けと言われても、いきなり背中に最高神が合体してきたんだ――。
動揺しない方が、おかしいってもんだ。
だから俺は、訳も分からないまま立ち上がり、あたふたとしてしまう。
そこでハッと気付く――。
体が――動く⁉︎
俺はエウロラに鎌で横腹を貫かれ、声も出せない瀕死の状態だったはずだ。
それがセンチアに向かって叫び、立ち上がる事さえできている。
――これは⁉︎
と思った瞬間、
「レオ……! センチアも……。もー絶対、許さなーいっ!」
エウロラも動ける様になったらしく、崩れ出した体で俺たちに向き直る。
「一旦、下がるぞ!」
センチアは背中から、俺の頭に抱きつくと、一瞬で後方に飛び下がる。
「いいか、レオ。よく聞け――」
ひとまず安全圏に下がった位置で、センチアは話し始める。
「残ったワシの神気を、今から全部お前に注ぎ込む」
「――――!」
センチアの言葉で、状況が理解できた。
瀕死だった俺が生気を取り戻せたのは、センチアが合体して、神気を流し込んでくれたからなのだと。
エウロラはラナの体に寄生する事によって、幼体から成体へなろうとしているが、センチアは俺に逆の事をしてくれたのだ。
「神気を全部って――、そんな事をしてお前は大丈夫なのか⁉︎」
「まあ当分、現界は無理になるじゃろうな――。残念ながら、ワシは思念体に戻り、お前の背中からも消えてしまう。ん? お前、なんかホッとした顔しとるの?」
「いやいや、背中にロリババアいるまま戦闘とか勘弁してくれよ……」
「なんじゃ、無礼な奴じゃの。まあよい、時間もない。いくぞ――」
センチアはそう言って両手を広げると、砂の様に体が崩れ、それが俺の体内に吸い込まれていく――。
「おお⁉︎」
スキル『再生』をはるかに超える、肉体の復活に俺は声を上げる。
完全ではないが、横腹の傷も塞がり、砕けた右手も動かせる様になった。
「センチア……! そこまでして私の邪魔をするんだね――」
怒りに顔を歪めながら、エウロラが近付いてくる。
『レオ、あとはお前だけで戦うんじゃ!』
思念体となったセンチアが、念話で語りかけてくる。
『ああ、分かってる。だが、どうやればあいつを倒せる⁉︎』
惜しいところまでは、何度もいった。
だが、あと一歩が足りず、俺は追い詰められている。
さっきHPを確認したついでに見たが、これまで盛大にスキルを駆使したせいで、俺のMPも残りわずかになっている。
おそらくあと拳銃一挺、錬成したらMPは尽きるだろう。
攻略の糸口は掴めたが、『隠密』も『回避』も使えない状況で、銃一つでエウロラが倒せるのか――?
弱気になりかける俺に、
『言うたじゃろ⁉︎ お前の中の『強欲のカルマ』を燃やせと!』
センチアが叱る様に、怒鳴りつけてくる。
俺にもそれは分かっている。
なぜだか分からないが、俺の中にある『強欲のカルマ』が燃えるのを感じた瞬間、エウロラの『神核』が見え、銃撃どころか拳でさえダメージを与えられた。
『だけど、それでも奴はまだ倒れない――』
『足りんのじゃ! もっと、もっと、もっと! この世界のすべてを手に入れるほどの、お前の『強欲』を燃やすのじゃ!』
『――――!』
何かが理解できた気がする――。
それは『強欲神センチア』と、その眷属となった俺との親和がもたらす、以心伝心だった。
『レーーオーーー!』
いまいましげに、俺の名を呼ぶエウロラに対して銃を錬成する。
ベレッタM92F――。
この一挺と装填された十五発の9ミリ弾が、俺の残りすべてだ。
「それじゃ、エウロラには届かないよー」
またエウロラが、無作為にシールドを張りめぐらす。
今度はさっきの倍以上の量だ。隙間なんてものが一切見当たらない――。
俺はそれでも構わず銃を構える。
そして――、精神を集中させる。
俺は前世で、すべてを捨てた――。
何かを背負うのも、背負わされるのも、まっぴらになった。
家族、友人、恋人、仕事――。みんな人の善意を利用して、何かを押し付けてくるクズばっかりだったからだ。
だけど、今ここには救いたい――。背負いたい存在がいる。
俺に心から手を差し伸べてくれる、仲間たちがいる。
そのすべてを救いたい。
そのために――神に抗うとしても。
思い上がりでも、なんでもいい。俺は『強欲』なんだ!
俺の中にいる『大罪のカルマ』――『強欲のカルマ』よ。
今、俺の思いと共に、燃えて、燃えて、燃え上がれ――!
その瞬間、手にしたベレッタM92Fが炎の様な光を放つ。
そしてシールド越しに、エウロラに狙いをつけたまま、構わず引き金を引く。
――パンッ!
徹甲弾に比べ軽い、9ミリ弾の射撃音。
だがそれは、今までにない威力で大気を切り裂くと、エウロラのシールドを撃ち抜き、その体を貫いた。




