【58】『神核を撃て!』
エウロラの背中の、中心が光っている――。
それは、まるで宝石の様な個体だった。
――あれを撃て!
俺の中の何かが、そう呼びかける。
導かれる様に銃の引き金を引くと、放たれたM995徹甲弾が、エウロラの背中に向かって一直線に飛んでいく――。
それが光に命中すると、
「グギャーッ!」
エウロラが、断末魔にも似た激しい叫び声を上げた。
「痛い! 痛い、痛い、痛いーっ!」
続けて、エウロラが体をのけぞらせながら、今までになかった尋常ではない苦しみ方をする。
そんな光景に、俺は呆然としてしまう。
そして考える。
――あの光は、いったいなんなんだ⁉︎
突然、エウロラの背中に見えた光――。
それを攻撃した途端、エウロラが瀕死の状態になった。
『レオ――、見えたのか⁉︎』
突然のセンチアからの念話に俺は驚く。
『何がだよ?』
スキル『隠密』で姿を消している状態の俺も、念話でそう問い返す。
『エウロラの――、『神核』がじゃ!』
『神核……?』
いきなり何を言っているのか分からなかったが、
『――――⁉︎ あの光の事か⁉︎』
俺の中ですべてがリンクする。
『やはり見えたのか!』
『センチア、あれはエウロラの弱点なのか⁉︎』
『ああ、そうじゃ。不滅である神にも、その存在を構築する核がある――。それが『神核』じゃ』
センチアは、前のめりに話し続ける。
『じゃがエウロラはまだ幼体――。しかも不完全な分裂体のエウロラならば、『神核』を潰せばおそらく消滅させられるはずじゃ』
『マジか⁉︎』
これまで無敵状態だった、エウロラの攻略法が提示された事に俺は驚く。
だが、なぜだ? なぜ突然、俺にエウロラの神核が見える様になったんだ――?
『レオ、お前の中の『強欲のカルマ』を燃やせ!』
『――――!』
センチアの言葉にハッとなる。
そうだ――。俺は自分の中にある『強欲のカルマ』が燃えたぎるのを感じた瞬間、エウロラの背中に光が見えたんだ。
これは俺が神の――『強欲神センチア』の眷属である事が影響しているのか?
俺は自分に起こった変化を、整理しようとするが、
「レオー! どこー⁉︎ 出てきなよー!」
エウロラの狂った様な叫びに、一旦思考はストップする。
見るとエウロラは、ラナの体が手に持つ大鎌をブンブン振り回している。
どうやら相当に怒っている様子だ。
これはまずいなと思っていると、
「もー、エウロラも本気出すからねー!」
そう言いながら、エウロラが次々と巨大シールドを自分の周囲に張りまくる。
これは本格的に状況がまずくなってしまった――。
余裕が無くなってしまったのか、エウロラはノーガードを捨てた。
無作為に展開する十を超えるシールドのせいで、その姿がほとんど見えなくなった。
――これでは射撃ができない。
そう思い、塹壕を移動しようとするが、
「レオー、どこにいるー⁉︎」
叫びながら、エウロラが大鎌を風車の様に旋回させ始めた。
その状態でエウロラは移動すると、手当たり次第に、自分を囲む塹壕を打ち壊しにかかる――。
大鎌が当たる度に、地面が吹き飛ぶ光景に俺はゾッとする。
――反撃するべきか?
いや、大量のシールドのせいで、おそらく撃っても当たらない。
それにエウロラを撃てば、今度は射撃ポイントを割り出されて、俺の居場所がバレてしまう。
かといって、このまま塹壕に隠れていれば、やがて大鎌で叩き潰されるだろう――。
――やむなしか。
俺は塹壕戦術の放棄を決断する。
そもそも、これはエウロラがノーガードなのが前提だったし、デタラメなシールドを張られてしまっては、効果が相殺される――。
俺はそう判断すると、エウロラの動きを見ながら塹壕を飛び出し、安全な距離を取る。
「どこ⁉︎ どこ⁉︎ 出てこーい!」
シールドと同じく、エウロラはデタラメに塹壕を叩き潰し続けている。
その光景に俺は、エウロラはやはりまだ幼いと、あらためて感じる――。
エウロラも多少の学習はしているが、自身の力を過信して戦術が荒い。
――俺に勝機があるなら、そこにつけ込むしかない!
俺は計算を終えると、姿を消したままエウロラの周りを動き回る――。
射撃ポイントを探すためだ。
デタラメな動き、デタラメなシールドなら――、どこかにその隙間が見えるはずだ。
狙うはエウロラの『神核』――。
どうやらそれは胴体の中心にあるらしく、正面からでもその胸に輝いていた。
ラナの背中から上半身だけを生やしているので、正面だと『神核』はその顔の真上にある。
つまり射撃をしくじれば、弾丸はラナの顔面に当たる可能性があるのだ。
シールドの隙間から、チラチラと見えるエウロラの『神核』――。
精神を研ぎ澄まし、その一瞬を待つ。
「あー、もー! レオー、どこだー⁉︎」
エウロラは、いくら塹壕を叩き潰しても、俺が見つからない事に苛立っている。
そして単純作業の繰り返しに飽きたのか、その動きを一瞬止めた。
――見えた!
複数のシールドの隙間から見えた、エウロラの光輝く『神核』。
射撃位置が正面だが、ようやく来たチャンスを捨てる訳にはいかない。
――必ず当てる!
気合いと共に、ステアーAUGの引き金を引く。
シールドの間をすり抜ける様に、徹甲弾が大気を切り裂き飛んでいく。
軌道も問題ない。これは当たる――。
そう確信した俺の目に、信じられない光景が映る。
何かを察知したエウロラが、瞬間的に身をそらせたのだ。
恐るべきエウロラの戦闘センス――。
これまでもそうだが、同じ手が二度通用しない事に俺は戦慄する。
さらに俺を衝撃が襲う。
エウロラが体をのけぞらせたせいで――、なんと徹甲弾がラナの肩口をかすめてしまったのだ。
吹き上がる鮮血――。
「ラナ――⁉︎」
俺は不覚にも、それに声を上げてしまった。
同時に動揺のせいで、『隠密』のスキルも解除されてしまった。
それでも俺は、ラナが傷付いたショックに棒立ちになる。
「あー、そこにいたんだー」
エウロラが、獲物を見つけた獣の目で俺を見る。
目にも止まらぬスピードでエウロラが迫ってくる事に、俺は何も対処できない。
――ザクッ。
側面からの衝撃を感じた。
次の瞬間、生気を抜かれたラナの顔が正面にあった――。
その上には――、
「これでまたエウロラの勝ちだねー」
ニヤつくエウロラが、そう言いながら俺を見下ろしていた。
「――――⁉︎」
ようやく事態が理解できた俺は、自分の横腹を見る。
そこには横薙ぎで繰り出された、ラナの大鎌が深々と突き刺さっていた。
同時に意識が遠のいていく――。
――これは……、ダメだ。
受けた傷が一発アウトの致命傷だという事が、俺にもすぐに理解できた。




