【56】『決着への一歩』
この異世界も、ラナの事も、全部まとめて救う――。
俺は、そう大見得を切った。
できるかどうかなんて分からない。
それでも俺は、そう言わずにはいられなかった。
おそらくククルには怒られるだろう。
――そんな事ができる訳がない! と。
だから俺は少しだけ身構える。
だが――、
「プッ」
案に相違して、返ってきたのはククルの吹き出し笑いだった。
「お、おいククル――?」
「アハハハハッ!」
慌てる俺に、ククルは大笑いを始める。
気でも触れたのかと心配になったが、ククルはひとしきり笑うと、今度は俺の顔を見ながら呆れた様に、はにかんでくる。
「あーあー、そうなると思っていましたよ――」
ククルの言葉に、俺はキョトンとしてしまう。
「やはりダーリンは――、ダーリンですわね」
「ククル……」
それ以上、何も言えなくなる俺に、ククルは遠い目をしながら語り出す。
「ダーリン。あなたはセンチアの固有領域で、敗者として死ぬ運命だった私を救ってくれましたよね――」
『大罪のカルマ』を背負った者たちが、死ぬ事を運命づけられ、転移させられたセンチアの固有領域――。
その殺し合いの決勝戦で、勝者となった俺は『強欲神センチア』に抗う事で、自分の命だけでなくククルの命をも勝ち取った。
「もう、あなたの『強欲』は止まらないのですね――。ええ、ええ、分かっていましたわ。きっとこうなるんだろうって」
ククルはまた呆れ顔になると、そう言って微笑んでくる。
「私はあなたの臣下ですわ。ですからダーリンの意思には逆らいません」
生き残る条件として、俺とククルは、固有スキル『征服特権』によって主従契約を結んだ――。
その事をククルは、しおらしく口にしてくれたのだが、
「で、す、が――! ダーリンは私の奴隷でもあるんですからね! 主人に恥をかかす様な戦いぶりでしたら、承知しません事よ!」
今度はいきなりの女王様ムーブで、そう言ってくる。
これには思わず苦笑してしまうが、
「いいのか、ククル?」
ククルの顔を真っすぐ見つめ直すと、俺も微笑みながらそう問いかける。
「ダーリン、あなたは『強欲神』の眷属! それならすべてを……、その手で掴み取りなさいな!」
力強くククルが答えてくれる。
「ああ、分かった」
それに頷くと、
「――センチア」
続けて俺は、その契約主である『強欲神』に向き直る。
「……ハア。目の前で、勝手にイチャコラされては、もう何も言えんわ……」
そう答える事で、センチアも俺の意向を認めてくれる。
「すまねえ――」
俺はセンチアに頭を下げる。
これで俺も腹が括れる――。
――やれるとこまでやってやる!
そう決意する俺を、センチアがまじまじと見つめてくる。
「センチア……、どうかしたか?」
「お前の中の――『強欲のカルマ』が燃えておるな」
「――――⁉︎」
センチアの指摘に俺は驚く。
確かに俺も、自分の中の『強欲のカルマ』が燃えたぎるのを感じていた。
だがそれは、あくまでエウロラへの怒りによる、心理的感覚だと思っていた。
センチアは俺を見つめたまま、何か考え込んでいる――。
そこに、
「たとえ燃え尽きても、ご安心あそばせ――。私の命が尽きるまで、ダーリンの命は保証しましてよ」
ククルが妖しげに笑いながら、そう言ってくる。
――ゲッ、またあれか。
俺はククルの固有スキル『女王様のご褒美』による、死ぬに死ねないHP1の感覚を思い出し、ゾッとする。
――だが上等だ!
最高神と女王様のご加護なんて、俺はとんでもなく果報者だ。
振り返る俺に、
「ふーん、今度はレオが来るんだー」
エウロラは、新しい遊び相手が来たかの様にはしゃぎ出す。
「ククルも変な固有スキルを持ってたけど、レオも持ってるんだねー」
俺たちが話し合っている間に、エウロラは俺のステータスを解析していた様だ。
「三つも持ってる人間なんて初めて見たよ。でも『器用貧乏』に『裏読み』に『征服特権』って変なのばっかしー」
そう言ってエウロラはケラケラと笑う。
確かに俺の固有スキルは、みんな補助系スキル――。実際、直接的な戦闘にはなんの役にも立っていない。
「でーもー、『裏読み』って、なんかセンチアの『先読み』に似てるねー」
「――――?」
エウロラは、センチアと俺の固有スキルの類似性を指摘するが、俺にはピンとこない。
首をかしげる俺の背後で、
「やはり、そうなのかもしれん――」
センチアが重々しい口調でそう呟いた。
――いったいエウロラも、センチアも何を言っているんだ?
俺にはまったく理解できなかったが、
「行け、レオ! お前なら『暴食神』を倒せるかもしれん!」
いきなりセンチアは背中越しに、力強いエールを送ってくれる。
「……ああ!」
なんだか分からないが、力がみなぎる気がしてくる。
今はそれだけでいい――。
決着から逃げていた俺が――、自分の足で踏み出す勇気をくれたのだから。
――さあ行くぞ!
そして俺は自分の意思で――、決着への一歩を踏み出した。




