【55】『全部まとめて救ってやる!』
信じられない光景だった――。
「ねえ、驚いたー?」
悪夢の様なエウロラの声――。
シールドの重ねがけという奇策で、エウロラを拘束した――ククルの背中が貫かれていた。
「な……?」
ククルも背後を振り返りながら、事態が理解できずに呆然としている。
エウロラは正面にいたはず――。
なのに今、まさにとどめを刺そうとした、エウロラ本人がククルの後ろにいる。
「フフン。ククルのズルを、エウロラも真似したんだよー」
エウロラが無邪気に笑う。
その体が、ククルの背後の地面から伸びていた事に、俺は驚愕する。
それはまるで大地から、エウロラという生物が生えてきたかの様だった。
「うーん、やっぱり『傲慢』の味はイマイチだなー」
ククルの背中を貫いた手刀を引き抜き、その手についた血を舐めながら、エウロラが顔をしかめる。
その瞬間、ククルが膝から崩れ落ちる。
同時にククルが張ったシールドも、砂の様に消失していった。
「ウフフッ。これでエウロラの勝ちだねー」
そう言いながら、エウロラの体が地面に潜っていく。
「――――⁉︎」
俺は自分の目を疑った。
シールドが無くなったせいで、明らかになった全貌――。
エウロラが乗っ取ったはずの体が、ラナの姿に戻っている。
そのラナのスカートの中から――、エウロラの上半身が逆さまに、ぶら下がっている⁉︎
「ククルは鞭を地面に潜らせたけど、エウロラは自分で潜っちゃったもんねー」
まるで遊具で遊ぶ子供の様に、体を左右に揺らしながらエウロラははしゃいでいる。
その体が――、ラナのどこから生えているのかと考えると、俺はおぞましくなる。
エウロラは、ククルの拘束から逃れられないと判断すると、瞬時にラナの体から本体を、地面に向けて飛び出させたのだろう。
だが、ククルが鞭を地面に潜らせたのを真似して、自分の体を同じ様に地面を潜らせるなど、やはり発想がブッ飛んでいる。
それはククルにやられたのと同じ手で仕返ししたいという、無邪気な思いつきだったのだろうが、間違いなくエウロラにも天性の戦闘センスがある。
でなければ、目の前まで見えた勝ちを、ククルが奪われたりはしない――。
即死はしなかったものの、手刀で背中を貫かれた事で、ククルは膝立ちのままもう動けない。
「あーっ、ちょーどいいやー」
ラナのスカートの裾を掴んで、逆さまの顔を半分隠すエウロラの目が妖しく光る。
「この姿勢は……、首を刎ねやすそうだねー」
そう言い終えると、エウロラの体がシュッとスカートの中に吸い込まれる。
次の瞬間、今度はラナの背中から、ニョキッとエウロラが生えてきた。
それはまるで人間トーテムポールを見る様だった。
もう所有権が完全に移ったのか、ラナの顔はずっと無表情で目に光がない。
そのラナの手が、大鎌を振り上げる。
ククルはまるで、罪人が斬首される様な格好になっている。
そしてラナの体の上の、エウロラがニタリと笑う。
「フフッ。今度こそ、その首刎ねてあげるからねー」
その瞬間、俺は無意識に立ち上がっていた――。
俺を拘束していたククルの縄は、シールドと一緒に消えていたのだろうが、そんな事はどうでもいい。
――急げ!
俺は無我夢中で銃を錬成する。
ベレッタM92Fの、9ミリ弾が通用するかどうかの計算もしていない。
とにかく必死だった。
ククルを救わなければならない――。
その一念だけで、銃の引き金を引く。
「ククルー!」
叫びながら、撃って撃って撃ちまくると、9ミリ弾が次々とエウロラの顔面を直撃する。
そしてすぐに弾倉は空になり、スライドストップがかかった。
「いったーい!」
エウロラが顔を抑える。
だが頭が吹っ飛んだ訳ではない。
俺が撃った9ミリ弾は、エウロラの顔面を捉えたが全弾弾かれていた。
おそらくエウロラにとっては、BB弾か銀玉鉄砲が当たったレベルのダメージなのだろう――。
それでも――意味はあった!
「ククル!」
エウロラが顔を抑えた隙を突いて、まるで鷹の様に、センチアが上空からククルの体をさらっていく。
「あーっ⁉︎」
目の前を飛び去るセンチアに、エウロラは驚くがもう遅い。
センチアはククルを抱えたまま、俺のそばまで飛行してくると、ゆっくりとその体を地面に横たえる。
「ダーリン……、不覚でしたわ」
開口一番、敗戦を謝罪するククルに、
「もういい。あまり喋るな」
HPが50を切っていない事を確認して、少し安心した俺はそう言いながら頭を撫でてやる。
ククルには俺の不甲斐なさを、すべて背負わせてしまった。
こんなにボロボロにしてしまって――、謝らなけばならないのは俺の方だ。
「どうするおつもりですか?」
そんな俺に、ククルは心配そうに問いかけてくる。
正直、俺も困惑している。
そもそも俺には、ラナを殺す覚悟がなかった。
それを肩代わりする存在がもういない――。
ククルはその事を指摘しているのだ。
側にいるセンチアも、苦々しげに肩を落としている。
口には出さないが、もうセンチアも限界なのだろう。
元々が思念体なのに、王弟戦で予定外の現界をさせてからの、まさかのエウロラ戦では無理もない。
みんな懸命に戦ったんだ――。
だが、俺はどうだ?
自分が傷付くのを恐れて、決着を他人に委ねた俺はどうなんだよ?
傷付き疲れ果てた、ククルとセンチアを目の前にして、何も思わねえのかよ⁉︎
顔を上げ、エウロラと同化したラナの方を見る――。
望まなかった運命のために、まるでラナは化け物の様になってしまった……。
なのに俺のために、ラナは決着をつけると、自害まで試みてくれた。
ラナも懸命に戦ってくれたんだ……。
そんなラナを――、見捨てられるかよ!
俺は立ち上がり、ククルとセンチアを交互に見る。
「ククル、センチア、すまなかった――。後は俺に任せろ」
「ですが、ダーリン。あなたはラナを――」
「ああ、殺せねえ。それに――、殺したくもねえ」
「…………?」
俺の言葉に、ククルもセンチアも呆然としている。
だが俺はもう決めたんだ――。
俺は固く拳を握りしめると、その決意を力強く宣言する。
「俺はこの異世界も、ラナの事も――、全部まとめて救ってやる!」
そう言い終えると、俺は自分の中にある『強欲のカルマ』が、激しく燃え上がるのを感じていた。




