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◯◯しないと出られない異世界  作者: ワナリ
第一章『怠惰:異世界攻略⁉︎』

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【54】『女王の戦術』


 エウロラが、ラナの固有スキル『限界突破』を使った――。

 その結果、あと一歩までエウロラを追い詰めていた形勢が逆転する。


 渾身の一撃を繰り出す前に、ククルはエウロラに空中で蹴り上げられてしまった。

 そして地に落ちると、ククルはダメージが深刻なのか、すぐには起き上がれない。


「ククル!」


 縛られたまま地面に転がる俺は、ククルを助けに行けない。


「ククル、下がれ! ここはワシがなんとかする!」


 代わりにセンチアが光弾を放って威嚇するが、エウロラの素早い動きにまったく当たる気配がない。


「すっごーい! 『限界突破』を使うと、一桁だったスキルレベルがドーンって上がったー!」


 エウロラは想定外の『限界突破』の力にはしゃいでいる。


 ――これはまずい。


 急ぎ俺は、スキル『洞察』でエウロラのステータスを確認する。

 

 HP:32/70 MP:48/80

 

 ステータス自体は、ラナの体を使っているだけに、上がっている訳ではない。

 だがスキルレベルは、軒並み50前後に到達している。


「クッ、メスガキのくせに生意気ですわ」


 悪態をつきながら、ようやくククルが立ち上がる。


「おいククル、無理をするな!」

 

 HP:236/550 MP:370/700

 

 ククルのステータスも、相当やばい事になっている。

 MPはともかくとして、HPが激減している。

 王弟戦からの連戦の疲労もあるのだろうが、HPの減り方が異常だ――。


 ここまでククルは、相手からの攻撃を一切食らってはいなかった。

 という事は、さっきのエウロラの蹴り一発で、300近いHPを削られた事になる。

 次にまた同じダメージを受ければ――、きっとククルは即死してしまう。


「フン。当たらなければ、どうという事はありませんわ」


 俺の心配を理解しているからこその虚勢をククルは張る。


「エウロラは『限界突破』を使っているんだぞ⁉︎」


「ええ、分かっていますわ」


 俺の指摘にククルは、何を今さらという顔する。


「それなら――」


「ダーリンもエウロラのスキルレベルを見たのでしょう? 確かに『限界突破』で爆上がりしていますが――、それでもまだまだ私と互角でしてよ」


「――――!」


 言われて俺もハッとなる。

 確かにエウロラのスキルレベルは脅威になったが、ククルも化け物ステータスの持ち主だった。


「さっきは私も油断しましたわ。ですが相手が強敵と分かれば、それなりの対処ができましてよ」


 ククルはそう言って再び両手に鞭を構える。

 センチアが時間稼ぎしてくれた間に、『再生』のスキルもかけたのだろう。

 負傷が完全に癒えた訳ではないが、気力は十分に取り戻した様に見える。


「そういえばラナって、『斬撃』が得意だったよねー」


 エウロラが上機嫌に、俺たちに語りかける。

 しかも最悪のタイミングで、余計な事を思い出してくれたもんだと、舌打ちしたくなる。


 そしてエウロラの手に、ラナの大鎌が錬成される。


「すっごーい、カッコいいー!」


 エウロラは、おもちゃの様にブンブンと大鎌を振り回す。


「フフフッ、これでククルの首を刎ねてあげるからねー」


 子供の無垢な残酷性――。

 エウロラの言葉に、そんな危うさを感じ、俺はまた戦慄する。


「やれるものなら、やってみなさいな――。受けて立ちますわよ」


 ククルもそう言って譲らない。


 ――今度は虚勢ではない。ククルには勝算があるんだ。


 俺にはククルの心が手に取る様に分かった。


 だが、どうやって?

 こればかりは、見守るしかなかった。


 ククルが指摘した通り、スキルレベルはほぼ互角――。

 それなら相手を戦術で制した方が勝つ!


 ククルは宣言通り、受け身に回る様だ。

 おそらくククルの狙いは――カウンター攻撃だ。


「じゃあ、いっくよー! 『傲慢』の味はそんなに好きじゃないけど、まずお前の首を食べてやるからなー!」


 大鎌を横手に構えたエウロラが、ククルに向かって突進を始める。

 策も何もない――。

 エウロラは『限界突破』による驚異的な威力の『斬撃』で、一刀のもとにククルの首を刎ねる気なのだ。


 対するククルは、その場から動かない。

 さっきの様に鞭を地面に潜らせて、エウロラを拘束しようとする様子もない。


 いったいククルはどうする気なんだ――⁉︎

 焦る俺をよそに、ククルは平静を保っている。

 それでも次第に、両者の間合いは詰まっていく。

 このままではエウロラに首を刎ねられてしまう――。


「ククル!」


 俺が叫んだ瞬間、ククルは巨大な魔法陣によるシールドを張った。


 ――いや、これじゃダメだ!


 『限界突破』の『斬撃』はシールドなんかじゃ防げない。

 ラナのシールド斬りを見ていた俺は、ククルが選んだ戦術のまずさに顔を歪める。


 だが――、ククルは俺の想像を超えていた。


「そんなシールド、斬ってあげちゃうからねー!」


 エウロラもシールド斬りを予告しながら、大鎌を振りかぶる。


「フフフッ、果たして斬れますかね?」


 ククルが両手を突き出しながら、後方に飛び退く。


 ――ザクッ!


 聞いた事もない音に、俺は目を見張る。

 見ると――、シールドはまだ健在だった。

 それどころか、半分まで斬れたシールドに挟まって、大鎌が動かせなくなっている。


「なんで⁉︎ なんでー⁉︎」


 エウロラが大鎌を必死に引きながら叫ぶ。


「シールドが一枚なんて、誰が言いましたかぁ?」


 ククルが不敵に微笑む。


「あーっ⁉︎」


 タネ明かしをされたエウロラが目を丸くしている。

 俺も目をこらすと――、なんとシールドが五枚以上重ねられているではないか。

 ククルはシールドが一枚と見せかけ、斬撃の瞬間に飛び退きながら、シールドの重ねがけをしていたに違いない――。


 まさに――ククルの戦術勝ちだった。


「うー、またククルはズルするー!」


 それでもまだエウロラは、大鎌に力を込めてシールドを斬り裂こうとしていた。


 それに冷笑を浴びせると――、


「さあメスガキ――。お仕置きの時間ですわよ」


 真紅の女王はそう宣告しながら鞭を振るい、大鎌とシールドごと、エウロラの体をグルグル巻きに拘束した。


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