【53】『矛盾点』
「くあああーーーっ!」
エウロラが意味不明な奇声を上げる。
その瞬間、エウロラの前に、複数の魔法陣状のシールドが展開される。
だが、その形はどれも歪で、かつ鮮明ではない。
どうやらククルの鞭に拘束された状態で、エウロラは完全なシールドが構築できない様だ。
そこにククルが放った電撃、火炎、氷結の弾丸が次々と炸裂する。
スパークする火花、飛び散る火の塊、砕けた氷のせいで視界が阻まれ、様子がよく分からない。
そして轟音と共に続いた、激しい連射が終わると――、
「う、うう……」
エウロラはうめき声を上げながらも、まだ健在だった。
だがシールドを破られて、相当の攻撃を食らったらしく、衣服は破れ全身傷だらけになっている。
「チッ!」
仕留め切れなかった事に、ククルが舌打ちする。
「…………」
俺は、顔はエウロラでも、ラナの体が傷付いた事に心を痛める。
それでもエウロラを倒さなくては、この世界が滅ぶ。
俺の代わりに戦ってくれているククルも、きっと同じ様に心を痛めているはずだ。
あの舌打ちも、一息でラナを殺してやれなかった事に対してだと、俺には分かる。
だからこそ俺は、
「ククル、攻撃の手を緩めるな!」
と、歯を食いしばりエールを送る。
「ええ、当然ですわ!」
ククルもそう答えながら、前に出る。
おそらくククルは、一撃必殺で勝負を決める気だったのだろう。
果たして、二の手は用意してあるのか――?
「もう怒ったからね!」
五体を拘束する鞭を引きちぎったエウロラが、ククルを迎え討つ。
そのまま近接戦になると、ククルは足を跳ね上げ、上段蹴りを放つ。
「くうっ!」
よけきれず、腕でディフェンスしたエウロラが苦悶の声を上げる。
そのままククルは、スカートをひらめかせながら連続蹴りを叩き込むと、エウロラは防戦一方となる。
「もー、なんでエウロラがお前なんかにー⁉︎」
押され続ける事が理解できないエウロラが、子供の様に金切り声を上げる。
正直、俺にも理解できない。
なぜ分裂した幼体とはいえ、最高神を相手にククルが圧倒できているのか――?
「これだからメスガキは低脳ですわね」
「あー、またエウロラの事、バカにするー!」
呆れ顔のククルに、エウロラはますます逆上する。
「考えてもみなさいな。あなたが宿主としたラナのステータスは――、そこいらの少女程度の力しかないんですわよ」
「ほえっ⁉︎」
ククルの指摘に、エウロラが素っ頓狂な声を上げる。
「それをまだ成体になっていない、あなたが乗っ取ったところで、ステータスはラナのままですのよ」
「うーっ! ククル、ずるーい!」
「何もずるくはありませんわ――。もう少し黙ってラナの中に隠れていればいいものを、王弟が死んで『混沌』を目にした途端、空腹に耐え切れずノコノコと幼体のまま正体を現して……。だから低脳と言って差し上げたのですわ」
そう言った瞬間、ククルの回し蹴りがエウロラの顔面をクリーンヒットした。
「ぐえっ!」
激しい衝撃に、エウロラが吹っ飛ぶ。
「いったいなー、もー!」
転げ回った先で、起き上がるエウロラを、今度はセンチアの光弾が襲う。
「はわわわわ!」
シールドを張る間もなく、再び転げ回りながらエウロラが無様に逃げる。
「もー、エウロラが元に戻ったら、お前らなんてコテンパンなのにー!」
エウロラが悔しそうに地団駄を踏む。
センチアが言っていた様に、やはりその精神構造は幼児そのものだ。
だが幼いゆえに、計算もできずに姿を現したのは、こちらにとっては行幸だった。
今なら――ククルでもエウロラを殺れる。
俺はエウロラが現れた時点で、ただ動揺してしまったが、状況を冷静に判断して、勝算を見出したククルには本当に頭が下がる。
時間が経てば、エウロラは完全復活する。
ここで一気に勝負を決めなければ、やがてこちらが詰むだろう。
それをククルも分かっているから、追撃の手をゆるめない。
長鞭、バラ鞭、魔法系攻撃の連続技で、次第にエウロラを追い詰めていく。
「もーっ、ラナほんとに弱いーっ!」
エウロラが、ラナのステータスを開きながら叫ぶ。
口ぶりからして、おそらくエウロラは、ラナのステータスをよく確認していなかったのだろう。
いくら幼いとはいえ、無邪気を通り越して、無計画にもほどがあると呆れてしまう。
だが――、そんなエウロラも、ついにラナの抱える『ある矛盾点』に気付いてしまう。
「ラナ、人殺しする時、あんなに強かったのになんでー⁉︎」
単純な発想だが、それが核心だった。
そこに考えが至った事に、俺はまずいと顔を歪める。
「あれー? ラナ、固有スキル持ってたんだー。なになに――『限界突破』?」
空中に表示されたスキルのページをめくりながら、エウロラは首をかしげている。
「チッ!」
ククルもまずい展開を察知したらしく、勝負を決めるために、ハイジャンプからの長鞭による一撃を加えにいく。
「うわっ、なにこれ⁉︎」
自身の体から発せられる鈍い光に、エウロラが驚いている。
それからニタリと笑うと、
「なるほど、そういう事だったんだー」
と、その目の色が変わった。
それでもククルは、もう打撃体勢に入っている。
「もらいましたわ!」
高さ、スピード、位置取り――すべてが完璧だ。
この一撃が決まれば――、勝負がつく!
そう確信した瞬間、
「がはあっ!」
一瞬でククルの体が、宙に浮いたまま蹴り上げられていた。
その傍らで、足を上げた姿勢のエウロラが笑っていた。
「アハハハハー。エウロラ、分かっちゃったよ――。『限界突破』ってすごいんだねー」
ついに謎を解いたエウロラ――。
その無邪気な笑顔に、俺は背筋が凍るほどに恐怖した。




