二限目 December, Day2, 1999(1)
「さて今日は前回言った通り、最初の戦闘についての戦果、それとこの戦いで特に戦功を挙げた魔法少女の紹介をする」
ティーバー教授は教壇にたつと、さっそくといった風に話し始めた。
教壇を見下ろす生徒たちは、やっと本命の話が聞けると期待に満ちた目で彼の一挙手一投足を見つめていた。
前回の話は正直多感な少女たちにはあまり受けが良くなかったようだ。
寝息を立てている者も少なくはなかったのを教授も把握していた。
それに関しては特に咎めることもない。この講義を受け持って三年。毎回の恒例行事だった。
「それでは早速始めようか」
—————1999年12月2日12:25世界標準時 南太平洋オーストラリア大陸沖 40Km地点
「本部より魔法少女のスクランブル要請入りました! 近場の円柱型の未確認飛行物体の排除がミッションです。 ミッション完了後は即時ほかの大陸へと移動し世界中の空から円柱の排除をするようにとのこと」
通信オペレータの受電内容が艦内に通達された。
件の魔法少女は円柱発生の第一報からすでに発信準備を整えていた。
魔法少女輸送用小型空母オケアノス。その甲板には魔法少女第一部隊の面々が集結していた。
チームメンバーは5名。皆12歳前後の少女たちであった。
そこだけ見ると職業体験の一幕にしか見えなかった。
艦内放送を受けメンバーの一人がしゃべりだす。
「クロエたいちょー。 まさか太平洋横断してアメリカ大陸まで無補給でとべってんじゃないよねー?」
イタリア出身のアジルダータだ。赤褐色の肌に心底いやそうな表情を浮かべている。
彼女に隊長と呼ばれた白髪の少女は目尻を上げアジルダータを叱責する。
「何回いえばはわかる。 作戦中はコールサインで呼べとあれほど言っているだろう。ローゼピカンティ! 命令は絶対だ……我々に拒」
その怒声に甘ったるい声が割り込んできた。
「命令って言ったってねぇ……。私らの魔力じゃ太平洋のサメのえさになるのが落ちだよん☆ そういう無茶は隊長が止めてくんないとさぁ? ねぇ? オーキデブランシュた・い・ちょ? それにこの面倒なコールサインもやめませーん? 咄嗟に呼びにくいですし」
その声に憎々し気な目線を、クロエ――オーキデブランシュは向けた。
目線の先には同じフランス出身のフラン――フルール・ド・リスがにやついた目で見ている。
同じ国出身ということもあり、何かと彼女はクロエに敵対心を向けてくるのだ。
「フルール、コールサインの件は上伸しておく。 まずは目の前のことに集中してくれ」
下手に絡めば長引くのを知っているクロエは強引に話を打ち切った。
その態度に不満をフランは我関せずとのいったチームの二人に話を振る。
「ねぇ? あなたたちもあんな堅物が隊長じゃ肩が凝るわよね? なんとかしない?」
「私もクリスも別に不満はない。 お前のわがままに私たちを巻き込むな」
その言葉にドイツ出身のペトラ――コルーンブランメははっきりとした否定で答える。
彼女は規律には絶対順守の姿勢だ。
それに対し、彼女の隣にいる少女は本当にこのいざこざに興味がないらしく水平線をぼーっとみていた。
彼女の名前はクリス―――チューダーローズ。
この五名が魔法少女第一部隊のメンバーだった。
チームワークにはいささか問題があるチームだが、ほか四つの部隊に比べ単独戦闘においては高い適性を誇るメンバーで構成されていた。
そんな中、甲板に初老の軍服を着た男性が登ってきた。
その男性を見ると、少女たち五人は一列に整列した。
それを確認すると男性は話始める。
「総員傾注! 作戦は聞いたな? 細かい現場判断は任せる。 現在オーストラリア大陸には5体の敵性飛行物体がそれぞれ大都市を蹂躙している。 それを速やかに確固排除せよ! 排除完了次第北米方面へ出立しほかの部隊の掩護を依頼する。 移動ルートに関してはおって指示する。 貴様たちが頼りだ。 奮戦に期待する。 では最初の目標はシドニーだ! 速やかに発信せよ」
「「イエッサー」」
5人は返事をすると不満があるメンバーもいるが、言われた命令をもとにマジックスーツに変身し空へ飛びあがるのだった。