一限目 歴史の転換点(2)
――――12月2日 12:30世界標準時、ニューヨーク国連本部 非公開会議室
「兼ねてよりの懸案事項。異世界エーレンゼルの侵攻が現実の物となった。
秘密裡に国連主導で組織した魔法少女部隊の各国への派遣が決定したわけだが、どこからにするかというのが問題だ。」
国連事務総長コフィー・H・サナンは神妙の面持ちで議題を口にした。
今ここには国連安保理の常任理事国の全権大使が集められている。
その面々は以前より秘密裡に国連幹部会直下で年端もいかない少女だけが集められた部隊があるというのは聞いていたが、それが異世界からの侵略に即応するためなど到底信じてはいなかった面々であった。
だがことここにおいては自国の戦力で対応できないと分かった各国はその眉唾な話に縋る以外の選択肢が存在していなかった。
安保理という組織は国連の傘下組織だが、国連幹部会とはまた違った権力構造を持っていた。
国連とは違い常任理事という議会の中心たる国々が変わらない5つの席があるのだ。
安全保障理事会(通称安保理)は、平和と安全を維持することに主要な責任を負う国連の機関である。
国連憲章のもとに、加盟国は理事会の決定を受諾し、履行する義務を有する。
つまり平和と安全の維持は本来彼らの領分だったのだ。
だが今回は安保理側には何の現実的な施工手段が存在していない。
そのため、完全に国連幹部会に議会の主導権が握られてしまっている。
彼らとしても国のメンツがあるが、現在、自国の防衛すらままならず、せいぜいが遅滞戦争が限界との報告を受けており、彼らは祖国から喫緊の問題に対し国の威信を損なわずに対処の要請を早急に引き出すことを厳命されている。
そのため、始まって5分もすれば議会は白熱の様相を呈していた。
「我らの国へ早く救援を! 早急に立て直せば各国への援助が可能です!」
「我が国は世界で一番国民が多いのだ。 ならば助けるのはわが国が最初のがいいだろう!」
など、好き勝手なことを言っている。
そんな紛糾した議会の中、コニーは全員を制止し話始めた。
「私がなぜみなさん達だけを呼んだかわかりますか? それは弾劾するためですよ。あなたたち常任理事国をね。 通常であれば今回の対策はあなたたち安保理の領分だ。 だが、あなたたちには事態解決の手段がない! 再三私は忠告差し上げたはずですよ? 魔法的軍事組織の編成をするように、っと。 それが、今になって対策などしていないから自分たちを助けろというのは少し図々しくはありませんか?」
強い怒気の孕んだ口調でコニーは面々へ追及する。
それに対して、皆なにか反論をしようとするが、何も言えず押し黙ってしまうのだ。
全権大使の気持ちも推し測れる。いきなり魔法や異世界からの侵略など言われてもそんなもの本国に報告などできるはずもない。
下手すれば脳の病気を疑われて、病院送りになるレベルだ。
そんな状況で大国Aの全権代理人トーマスが口を開いた。
「そもそもあなた方国連幹部会はどうしてこの情報を知ったというのだ? 我が国には一切あなたたちからの情報以外今回の件は報告がなかったのだぞ?」
大国ということもあり、A国はそれなりの諜報機関を擁する。
だが一切の情報が遮断されていたのだ。
秘密部隊を国連幹部会が所持していることを内密に告白されるまで全く知りえぬ情報だったのだ。
そして告白後も全容や所在がしれぬという異常事態。 そのため、なんらかの国連の示威のための狂言と本国は断じていたのだ。今の今までは。
コニーはその言葉ににやれやれといった言いたげにかぶりを振ると答えた。
「大国はいつもそうだ。 自分たちだけで世界のすべてを知った気になるのだ。 我々は弱小国家を含めた連合体なのですよ? もう少し足並みをそろえることを覚えていただきたいのだ。 今回は貸し一つとさせていただけますから、どうか今後は経済的な援助には期待させてください。 我が魔法少女部隊はそれぞれ移動基地を南極以外の各大陸近くの洋上に待機させています。それぞれいつでも緊急発進可能ですよ。 あとはあなた方の援助の金額次第です。 そちらを弱小国家への補填として国連が管理しましょう。 それでいいですね?」
会話の主導権は完全に幹部会にあった。
これより、世界のパワーバランスが少しずつ変わっていった。
これが歴史的にみても重大な転換点となる。秘密会談の内容であった。
「以上が魔法少女が初めて歴史に登場するまでの話だ。
この時から大国主導の世界情勢はな急速に衰退し国連が主導した世界の防衛体制が作られはじめることになったわけだ。 当時の国連事務総長は以前から幹部会の力の弱さに業を煮やしていたようだな。
そこでうまく主導権を握るためにこの状況を画策したと歴史的には見ている。 このことの評価は私はしないが君たちはしっかりと世界のパワーバランスの変化起こったことを認識してくれ給え。 初日から退屈な講義であったがここは大事なところなので復習も忘れずに」
そういうと、ちょうど講義終了の合図のチャイムがなった。
「本日の講義はここまでとする。それでは次回は最初の戦闘についての戦果や第一次エーレンゼル侵攻の重要な魔法少女の紹介をする。 ではまた会おう」
そういうと講義室は解散となった。
荷物をまとめ教授は講義室をあとにするのだった。