番外編:お願い②
にゃんこと暮らし始めました。
「ミルク、今日も可愛いわよ」
名を呼ばれたのはミューズの膝の上でブラッシングされている、長毛の白猫だ。
ぐるぐると甘え、目は細められている。
時折ミューズを覗き込む目は、ミューズとお揃いのオッドアイだ。
ティタンは仕事の合間を見計らってミューズの様子を見るために部屋まで来たが、お陰様で猫と戯れる可愛い姿が見られた。
相当猫が好きなのだろう。
「ここ数日前から庭先に迷いこんでたのです」
マオからティタンに説明がなされた。
「飼い主がいるのかと近隣に聞いたのですが該当はおらず、街の警備団にも複数の獣医師の所にも確認したのですが、迷い猫の相談はないそうです。どこかに行く様子もなく、庭先でじっとしてたのでこっそり皆で世話してたのです」
「皆で?」
「ティタン様以外は皆知ってるです。体もだいぶ汚れてたのですぐにでも洗いたかったのですが、屋敷に入れるには流石にティタン様の許可が必要かと思って保留してたのです。可哀想過ぎてついにはミューズ様からお願いしてもらいましたが」
「思い詰めたようなお願いの仕方をされたから離縁されるかと思ったぞ。しかし皆が知ってたのか…」
自分だけ知らされなかったのはショックだ。
「あの時以来ティタン様は馬以外の動物に触れなくなったので、心的外傷になってるかと不安だったですよ。駄目だと言われたらどうするか、離れでも建てさせてもらうかとか、色々思案したです」
「なら受け入れて良かった、離れだと気軽にミューズに会えなくなるじゃないか」
笑顔を向ける相手が猫なのが悔しいが。
「ティタン様ありがとうございます。ミルクをお家に入れてくれて」
ミルクもティタンを見てニャアと鳴く。
「ミューズが嬉しいなら俺も嬉しい。きちんと相談してくれてありがとう」
頬にキスをし仕事に戻るよ、と話した。
「それでこれはどういう事だろう」
執務中のティタンの膝の上。
ミルクが堂々とそこで寝ているのだ。
「ドアのカリカリ音が気になって開けたらこういう事だ。マオ、連れてってもらえるか?」
一緒に仕事をしていたマオに頼む。
「動かしたら可哀想です、暫くそのままで」
「どれくらいだ?」
「2時間です」
「そんなに?!」
「猫は寝る動物です、軽くそれくらいなるですよ。ミューズ様も気にされてたので、こちらに呼んでもいいですか?」
「それは喜んで」
ミルクを理由にミューズを執務中に呼んでもいいのならミルクがいるなど全然構わなかった。
ミューズが側にいるのはいつでも嬉しい。
たとえ目的がミルクだとしても。
時折執務の手伝いをしてくれたり、すぐ隣で刺繍をしたりして過ごしている。
ティタンの膝の上のミルクに手を伸ばしふわふわの毛を触っているが、笑顔を間近で見られる幸せに、顔がニヤけてしまう。
隣に好きな人がいるというだけで何と幸せなんだろう。
あれだけミューズを側に置くと執務の効率が落ちるから駄目と言われていたのに、ミルクが来ただけでOKとはどういう事なのか。
俺の言葉より猫のほうが存在が大きいのかと部下たちへの若干の怒りが湧いてきた。
もっふもふは正義!