番外編:お願い①
短めですが、オマケです。
婚約後から結婚式の間のちょっとしたストーリーです。
ティタンが人間の姿に戻れた後の事。
新しい生活にも慣れ、執務も段々と要領良くこなせるようになってきた。
領地の視察も繰り返し、時には直に領民と話したりと忙しい日々を送っていた
結婚式の準備もあるため暇な時間はないが、数ヶ月がんばって働いたお陰で少しだけ余裕が出て来た。
そんなある日、ティタンは日課のティータイムで異変を感じる。
ミューズと会話できる数少ない機会なのに、やたら彼女がもじもじとしているのだ。
何かを言おうとして、止めてしまう。
そんな様子だ。
(忙しくてなかなか会えないから?それとも怒らせるような事をしたか?)
婚約者としてデートにも連れて行けず、つまらない男だとされて愛想を尽かされてしまったか?
それとも、実は他に好きな人がいたとか…。
心の中を過るのは最悪な仮定。
ティタンは冷や汗を流し、どう挽回したらいいかを考えていく。
こちらから聞くべきか、ミューズが話すのを待つべきか。
考えすぎて味を感じない紅茶をちびちびと飲みながら、ミューズの言葉を待っていた。
「…あの!」
意を決した声。
ティタンの心臓が跳ね上がる。
その後に続く言葉が何なのか、それによって今後の身の振り方が決まる。
「ティタン様がお忙しいのに申し訳なくて、ずっとお話したかったのですが、なかなか相談が出来ず…でも、私、ずっとお願いしたい事があって…」
「何でも言ってくれ」
歯切れの悪いミューズの言葉。
自分で叶えられる願いなら何だって応えてあげたい。
「もしかしたら、ティタン様の気分を害してしまうかもしれないと、ずっと秘めてきましたが、もう、限界で…」
気分を害するとは、傷つける可能性があるってことか?
やっぱり一緒にいたくないとか?
他に想い人がいて一緒になりたいとか、そういうの?
「聞こう」
どんな事であれ、ミューズが幸せになるのならいいと思った。
いいんだ、獣から戻してもらっただけで充分お世話になったのだから。
たまにあの時のぬいぐるみを見て思い出してくれればそれでいい。
「私、ずっと…」
ミューズは、両手をギュッと握った。
「ネコちゃんを飼いたかったのです!」
「ネコ…?猫?」
耳と尻尾がついてて、ニャーって鳴くあの動物?
「ずっと飼いたかったのか?」
コクリとミューズは頷く。
「ティ様がティタン様に戻られて、あのモフモフに触ることが出来なくなりました。可愛らしいぬいぐるみがあるとはいえ、生き物の温かさはなく、何かが物足りないのです。触れたい、抱きつきたい…そう思ってたのですが、ティタン様が嫌がるかなと思うと言いだせませんでした」
「そうだなぁ…」
子どもの頃はもふもふの動物を可愛いと思ってたし、猫や犬も触ったことくらいはある。
しかし獣にされたあとは自分から触ることもなく、飼いたいとも思ってない事に気がついた。
嫌いじゃないけど、好きでもない位置だ。
そんな様子をミューズは察して、言い出せなかったのだろう。
「他の子を飼いたいだなんて、ティ様に対する浮気になるのではと思うと尚更言えず、でも気になる子もいて…どうしたらいいか悩んでいたのです」
そもそもティのあれは呪われた姿だし、中身はティタンだし、猫を飼っても浮気にはならない。
「別に飼うことには反対しないが、一つだけお願いが」
「何でしょう?」
ミューズが身を乗り出し、ティタンを真っ直ぐに見据える。
「飼うならば、メス猫にしてくれ」
ペットとはいえ、オスは何だか嫌だった。
にゃんこ大好きです。
わんこもことりも好きですが、最近トカゲも気になってます。
生き餌はハードルが高いですね。