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追記・猛獣辺境伯

猛獣であった過去。


紛れもなくあの姿は自分の一部だったのだという事を再認識する。


獣姿の時に感じていた激情、大事なものに仇為そうとする者への殺意がふと湧き出ることがある。


「許す必要などあったか?」

転がる死体を見ながらティタンは嘆息した。


命乞いも懇願も全て無視した。


そんな言い訳を今更鵜呑みにするには信用が足りない。


自分の家族に手を出そうとする者を許せるわけがない。


こちらが幸せになっていると知り、擦り寄ろうとしたミューズの元家族。


そんな屑どもを放置する気はなかった。


「許すことはないでしょう。手を出してきたのはこのもの達ですから」

死体を火炎魔法で燃やしながら、ルドはいつもと変わらぬ丁寧口調だ。


「あえて言うならば俺達に任せてくれても良かったのですよ。その姿を見たらミューズ様も驚きます」

ライカ返り血を浴びて真っ赤になったティタンにタオルを渡す。


「どうしても許せなくてな」

拭いてもさすがに全ての血は落ちない。


「この姿を見らなれないように帰らないとな」

諦めて乱暴に汚れを拭い、吐き捨てる。


「これでミューズにちょっかいをかけようとしたのは三回目だ。それなのに許せなどと良く言えたものだ」

あまつさえ言う事をきかせようとセレーネ達の誘拐を企てた。


救いようのない屑たちだ。


血縁というだけで思い通りになるとでもまだ思っていたのか。


「そろそろ帰りましょうか」

証拠となるものは何もない。


元より平民に落ちたこのもの達を気にするものなどいないだろう。


ミューズを除いて。


「優しすぎるからな。何だかんだと気にかけていた」

表立って手を貸したりすることはなかったが、チェルシーとの会話の端々で気にかけていることも分かったし、それとなく行く末を案じていたのは知っていた。


それなのにこのような凶悪な事を考えていて、本当にどうしようもない。


「これでもう考える必要はないし、心を砕くことはない」

ティタンが殺した事は言わないが、遠くで幸せにしているようだと言えばいいだろう。


顔を合わせることもなくなれば穏やかに過ごせるはずだ。


家族皆を同じところに送ってやったのだから文句もあるまい。


「マオが裏口にて帰りを待っているはずです、行きましょう」

仮にミューズに気づかれたとしても領地に現れた魔獣を倒しに出たのだと言えばいい。


「家族を守る剣や盾になろう」

ティタンは自分の役割をそう思っていた。


家族を守るためなら自ら汚れ役に身を投じていく。


これまでもこれからも。


猛獣の姿はティタンの心を映していたのかもしれない。


爪も牙も常に磨いている。


敵を切り裂く覚悟も出来ている。


躊躇うことなどしていたら、大切な家族に傷がついてしまうかもしれない。


このような処分を勝手に行なっても、それが許される立場も地位も戻ってきたのだから、使わない手はない。


獰猛な獣が如く、鼻筋に皺を寄せ、歯をむき出しにして唸る。



「俺は猛獣で結構だ。俺と家族の幸せを守るためなら、何にだって噛み付いてやる」

血に染まる剣を鞘に戻し、湧き上がる激情に拳を握りしめた。


次なる外敵が来たとしても、安寧のためにまた剣を振るう。


愛する人達の笑顔のために。



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