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猛獣のお世話係。  作者: しろねこ。


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番外編:猛獣になった第二王子(19)

「う~ん……」

ミューズの微かな声がした。


起きるまで待っていたのだが、いつの間にかティタンも寝てしまったようだ。


色々あったため、体は重く、怠い。


まだ思うように動かせなかった。


獣から人間の体になったのもあったから仕方ないが。


気づけば近くで気配を感じる。


薄く目を開け確認すると、どうやらミューズが自分を観察しているようだ。


眠っていると思われたようで声も掛けず、近くにいるのを感じた。


あらゆる角度から見つめられ、手を伸ばせば触れられる距離にミューズがいる。


数分経っても起こしてもらえず見つめられたままなので、さすがに恥ずかしくなってきた。






「……そろそろいいかな。恥ずかしい」

目を閉じたままそう話しかけると、さすがに驚いて距離を取ってくれた。


「起きていたのですか?」

驚かせてしまったのは申し訳ない。


「あぁ、君が起きたときからずっと。まじまじと見るものだから、どうしようかと思って」

お互い照れてしまい、部屋には沈黙が流れる。


このままでいるわけにはいかないと、ティタンは沈黙を破った。


「本当にありがとう。ミューズのおかげで俺は元に戻れたよ」

まずは感謝の気持ちを伝えた。


「呪いを解くには真実の愛って言われたけど、そもそも俺は女性に縁遠かった。婚約者候補はいたけれど、会ってみてもピンと来なくて。猛獣になってからは尚更誰も寄り付かなった。君がいなければ一生獣のままだったと思う」


獣姿の数か月、特に最初の頃は酷かった。


姿を見るなり、悲鳴を上げ、命乞いをされた。


婚約者候補という者達なども、少なからずティタンに好意を持っているとされていた令嬢達ばかりだったのに、全く話を聞いてもらえなかった。


獣姿を見ただけで強い拒絶を示されてしまったのだから、ミューズがいなければ本当に獣のままだったはずだ。


「力になれて良かったです。ティ様の時の姿も凄く素敵でした」

そう言ってくれたのはミューズだけだ。


呪いを解くだけではなく、拒絶され続けた心も救われた。


猛獣の姿故に仕方ないとは言え傷つかずにはいられなかったから、尚更ミューズの言葉が心に沁みたのだ。


「そちらを気に入る者なんて尚更いなかったなぁ。実は昔、君に釣書を送ったのは知ってるか?」

ミューズに会って思い出したことを、これを機に伝えようと思っていた。


「すみません、全く知りませんでした」


「嫡子である事で断られたんだけど、それなら俺が入婿になると言ったんだが、それも断られてしまった。妹のカレンならばと来たが、それは俺が嫌だった。ミューズでしか受け入れる気はなかったからな」

まさか獣姿で会えるとは本当に予想もしていなかった。


「王族からの釣書ではあったが、結局ミューズがどうしても首を縦に振らないので、と君のせいになっていたな。俺は振られたショックで気づかなかったが」

見込みがまるでないという事に落ち込み、しばらく何も手がつかなくなった。


「申し訳ございません、父のそのような行いに全く気づけず、ティタン様を傷つけてしまうなんて」

ミューズはかけらも知らなかったのだろう。


驚きで、目を見開き申し訳なさそうにしている。


「いや、君の父親が勝手な事をしたのだというのは、その後の調査でわかってたんだ。でも、本当に君が嫌がっている可能性も捨てきれずと怖気づいてしまい、その間にユミルが君の婚約者候補になってしまった。その頃の俺は正直荒れていた」

抱いた気持ちは辛くても、それでも捨てきることが出来ず、心の奥底に恋心を封印して過ごすしかなかった。


ミューズの婚姻の話を聞けばいつかは諦められるだろうと、表面上は取り繕うことは出来たので、誤魔化しながら生きていたのもある。


しかし、いざ愛しい人が別な男と結婚するかもしれないという話を聞いた時は、気が気でなかった。


正直、あの頃の自分はどうやって生きてきたか、覚えていない。


「この姿になってから、まさか君に会えると思っていなかった。これはチャンスだと思った。でもためらわずよく触れる事が出来たな」

触れてみたいと言われたあの時に、一気にティタンは救われた。


「だって、可愛かったのですよ」

恥ずかしがり、咎めるようにいうミューズ。


少し膨れた頬が可愛い。


「今の姿は嫌いか?」

肉球も尻尾もたてがみもない。


兄のような美貌もなく、女心もわからない。


それでもミューズを大切に思う気持ちは誰にも負けないと自信をもって言える。


「今の姿も好きです、かっこいいです」

言いながらミューズの頬が真っ赤になった。


愛おしい存在に、ただただ熱いものがこみ上げる。


ティタンは優しくミューズを抱きしめた。


獣の時とは違い、人の温もりも直に感じられる。


華奢で小柄な体躯を壊さぬようにそっと腕の中にしまい込んだ。


自分の胸に頬を寄せ、小さな手が応えるように背に回される。


「ありがとう。俺を、ティを愛してくれて。まさかこの腕で抱きしめられるなんて、死んでしまいそうなくらい嬉しい」

ようやく叶った事だ。


獣のティでは出来なかったことをようやく成就させることが出来た。


至福過ぎて、この時が止まってくれることを切に願う。


「私もティタン様と婚約出来るなんて、嬉しい」

お互いの鼓動と温かさを感じながら、二人は優しく抱きしめあっていた。






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