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番外編:猛獣になった第二王子(11)

「これ、どうかしら」

ミューズがティタンと話すためにと布で出来た文字盤を持ってきた。



「昔兄さんがこれをどこかから持ってきて勉強したです。こんな立派ではないですが、懐かしいですね」


マオが思い出したとばかりに話している。

その目は懐かしそうにしていたが、ティタンにとっては見たことのないものだった。


(これは?)

このような物を使って勉強などしたことがない。


曲がりなりにも王族として家庭教師がついていたから知らなかったが、庶民の間ではよくあるもののようだ。



「だいぶティ様の感情はわかってきたのだけれど、やはり細かい事は伝わりにくくて。これがあればわかりやすいかなと思ったの」

ミューズがティタンの為に考えてくれた気持ちが、嬉しい。


物珍しそうにティタンは眺め、試しに前足を置いてみる。


その前足を置いた部分のもじをミューズが読み上げてくれた。


成る程と、ティタンは要領を得て、トントンと示すとミューズが追って声を出す。


一生懸命に代読する姿がまた可愛い。


『あ、り、が、と、う』

「ティ様は文字も読めるのですね!すごいです!」


人間だったのだから当たり前の事だが、キラキラした目でミューズに褒められると得意気になってしまう。


長い文章では伝わりにくいだろうと、ティタンはゆっくり言葉を選んでいった。

『いつも感謝している』

「こちらこそ、私達を助けてくださり感謝しています。ティ様と会話が出来て嬉しいです」


ティタンはマオをちらりと見ると、マオは

「ゆっくりとティ様とお話してほしいのです」

と、言って嬉しそうな顔をしていた。


一生懸命ティタンと話すためにはどうしたらいいのかを考え、探してきてくれたのだろう。


ミューズがいかにティタンを想っているのか伺える。

マオは温かな気持ちを胸に、二人きりにさせてあげようと退室していった。




新たな伝達法を得て、ティタンとミューズは会話を重ねていった。


話は弾むが、ティタンはこのままでは元に戻る為の進展がないと悟っている。

これを機に、勇気を出して告白をする事を決めた。


ルドとライカが来た時も内心焦ったのだが、ミューズがいつまで自分の側にいてくれるのか自信がなかった。


いずれ結婚したいとか子どもが欲しいとかなった時に、この姿ではパートナーになりたいなど名乗り出ることも出来ないし、もしかしたらここを出ていくかもしれない。

契約があるからって、それを理由に留まってもらうなんてはミューズの幸せを思えば出来なかった。



ミューズ自らに選んで貰うためにも、しっかりとしたミューズの気持ちが聞きたかった。




『俺の事は好き?』

「もちろん好きですよ…ずっと一緒にいたいくらい」


笑顔と共に言われた言葉に、ティタンの心は舞い上がった。


もはや即結婚の勢いで呼吸が早くなり、鼓動が落ち着かなくなる。




「私はずっと堅苦しい勉強ばかりでした。今のようにのんびりとティ様と過ごせるのはとても幸せで嬉しいことです。しかし、残して来た領民達の事は気になります」


(あの無礼者たちはともかく領民は気になるよな…)

ミューズを追い出し、領地経営へと乗り出した妹とその婚約者。

ティタンの兄が何とかすると言ってたから問題はないだろうが、どうなっているのかはティタンもわからない。


そう言えば領地にはその妹の夫となってミューズを裏切った男もいたな。

なよなよした元婚約者候補の優男。

ティタンの一撃であっさりと倒せそうな程の脆そうな奴。


自分とは全く違うタイプの男だった。




『ユミルに未練はある?』


まさかあの男と別れたことを後悔していないかと不安になり、聞いてみる。



(心配なのは領民だけだよな?)

もしも会いたいとか言われたら、落ち込んでしまう。


「まさか!あるはずがありません。確かに婚約者候補として何回か話しましたが、彼は妹を選びました。好きという気持ちはこれっぽっちもありません」

その言葉には嫌悪感が混じっている。


自分が思った以上にミューズはユミルを嫌っているようで、安心した。


ミューズには自分だけでいいのだから、次会ったら絶対に追い返すぞと意気込む。



「それに、ユミルはこの目も厭うておりましたので、結ばれるなど絶対にあり得なかったと思います」


なんと酷いことを!

ミューズのオッドアイは吸い込まれそうな程がキレイなのに。


厭うなど絶対にあり得ない。


ますますユミルへの憎悪が膨れ上がる。



『俺はきれいだと思うよ』

「ありがとうございます。ティ様くらいですよ、そのように言って頂けるの」

余程傷つけられて過ごしたのだろうか、話しているミューズの目が若干潤んでいる。


見た目で決めつけるなんて本当に酷いことだと、身を持って経験しているティタンは、ミューズの力になることを固く誓った。




ふわりと哀しげに笑うミューズを励ましたい。


(ずっとそばにいるから…)

本当は抱き締めて、キスをしたい。


だが、万が一この爪が牙が、ミューズの体を傷つけたらと思うと手が出せない。



愛情表現の仕方に迷うが、ミューズの手を少しだけ舐めてあげる。




「慰めてくださるのですね、ティ様は本当に優しい。私も自分の目が少し好きになりました」


ザラリとした温かな感触だ。

遠慮がちなティの目には心配の色が濃く感じられる。


優しい気遣いにミューズは感謝する。


『これからは俺がミューズを守るから安心して』

キリッとした目で見つめられ、ミューズはほっこりする。



ミューズにとって、ティは恐い猛獣どころか、頼りになる騎士だ。

ミューズはその身をティタンに預ける。

「嬉しいですわ、ティ様…」 

おずおずとティタンはミューズの鼻に自分の鼻先をちょんとつけた。

ひんやりと湿った感触がした。

『愛してる』

「まぁ!」


ミューズは驚きに両手で口元を覆ってしまった。

まさかティから愛の告白があるとは。


恥ずかしさでティタンは顔を両手で覆い、伏せてしまう。


耳を見ると照れているのか赤くなっている。


「私も愛しております。ずっとお側に置いてください」


二人はどちらともなく寄り添い、チェルシーが呼びに来るまでそのままであった。





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