助かって…。
手の痛みでしばらくうずくまっている滝本君がまたいつ動き出すかわからない。
「レオ、彩夏音と出来るだけここから離れるんだ。」
と言うハロに、乾君は頷いた。
乾君が私の手を握ってくれて、本当なら赤面するような場面なのに…。
でも、望優が…。
戸惑う私に、乾君は、
「大丈夫だよ。警察官なんだから。」
と安心させようとしてくれたその時、もう一度
ーパンッー
と銃声がした。
そして、乾君が倒れた。
うそ、うそ、うそ。
「乾君。」
乾君の背中からドクドクと血が流れている。
「キャーーー。」
と私が大声で叫んだ。
ハロがもう一度、滝本君の反対側の手を撃った。
「彩夏音、落ち着いて、まずこれを飲ませるんだ。
これはビットといって、回復を促す薬だ。驚異の回復力なんだ。
なかなか手に入らないものだけど、持っていてよかった。」
私は慌てて乾君に飲ませた。
でも傷が深いのか、顔色は少し良くなったけど、意識はまだ戻らない。
私のせいで…。
滝本君はものすごく怖い顔をして、こっちを見ている。
両手を負傷していても、次は何をしてくるか、わからない勢いだ。
とにかく乾君をここから…。
「彩夏音、行くんだ。
あの子は任せて。」
私は決心して乾君の手を握り、うまくいくかわからないけど練習していた、
『瞬間移動』
の魔法を試みた。
一度目はダメだった。
二度目も…。
挫けそう。
その時「彩夏音。」
と呼ぶ声が…。
お父さんだ。
「事情はわかっている。
早く レオ君の治療を…。」
お父さんは隠し持っていた、見たこともない薬を出した。
これはお父さんがアルーノから出ていく時に持ち出した、万能薬だ。15年以上前のものだけど、大丈夫、良い薬だからと、乾君の傷口に塗ってくれた。
あの二人が次に何をしてくるのか、本当に怖いと思っていると、
急に滝本君が、
「俺達双子を敵にまわしたことを絶対に後悔させてやる。
覚えてろよ。」
と言って、平松さんと二人で消えてしまった。
滝本君と平松さん、双子だったの?
ということは、平松さんもBJJ の娘ってこと?
乾君はまだ意識が戻らないけれど、またすぐに滝本君達が襲いに戻ってくるかもしれない。
一刻も早く国王の闇のペンダントを浄化しなければ。
でも、どうやって…。
「彩夏音、こんな時に大切な話があるんだ。
君が初めて魔法を使えた日から一週間後の午前0時に、君が出会ったボク達アルーノの人間に関する記憶が全て消えてしまう。」
えっ!?
「ボクは今からレオを連れて一度アルーノに戻る。
そして、国王の闇の浄化の手がかりになりそうなものをもう一度探してくるよ。
三日後、三日後の午前0時に君の記憶はなくなる。
出来るだけ早く戻ってくるから、待っていて、彩夏音。」
「わかった。待ってるわ。
気をつけてね。」
とハロと乾君は消えた。
どうか乾君の怪我が早く治りますように…。
あれから三日たったのに、ハロは戻ってくる気配はない。
どうしたの?
まさか乾君に何かあったんじゃ?
どうしよう。
もう時間もない。
早く闇を浄化しないといけないのに。
何をしてるの?
早く戻ってきて、ハロ。
あと五分で午前0時になるという時、ハロは血相を変えてやって来た。
「彩夏音、ごめん。遅くなって。
大変なことになったんだ。
実は国王がBJJ に暗殺されたんだ。」
えっ!?
何ですって…。
私はそのまま意識を失って倒れた。
「クソッ、間に合わなかったか。」