兄弟
「ジャック ホワイト、オッド グリーン動くな、手を挙げろ。」
と声が聞こえた。
振り向くと、ハロが銃をかまえている。
「大丈夫、彩夏音?」
「ハローっ。」
私は号泣した。
でも、
「ハロ、今呼んだ名前って?」
滝本君を指差して、こっちがジャック グリーン、
もう一人はオッド グリーンだ。
乾君が?
「多分本名ではない。
活動名だ。
彼らは決して本当の名前は使わない。」
「ハロ、大変なの。
乾君が…。」
「そんなことは絶対にさせない。」
「乾君を助けて、お願い。」
「早く手を挙げるんだ。
二人共。」
と再びハロ。
しぶしぶ挙げる滝本君と乾君。
ハロが、乾君に巻き付けてあった爆弾のようなものを瞬く間に全部外した。
よかった、本当に。
これで安心…、
じゃなかった。
滝本君が私に銃口を向けている。
「俺は狙った獲物はどんな手を使ってでも手に入れる。」
とこちらを睨みつけている。
私は怖くて身動き一つとれない。
体が、ガタガタ震えているのがわかる。
今までに経験したことのない恐怖。
ハロも滝本君に銃口を向けた。
やめて、二人共。
どうしよう。
望優を連れて逃げられたらいいけど…、
と望優の方を見ると、
平松さんがぴったりと望優に張りついている。
逃げるのは無理。
とにかく望優の方に行きたい、
そう思い、望優がいる方に体を向けた時、
ーパンッ。ー
と乾いた銃声が…。
えっ!?
その瞬間、乾君が私をかばうようにして、そのまま倒れた。
まさか、当たったの?
同時に何かキラキラしたものが、パラパラと舞い落ちた。
「乾君、大丈夫?」
「大丈夫。かすっただけだ。」
見ると、首筋をかすったみたいで、血が少し流れている。
「大変。」
「本当に大丈夫だから。」
その時、舞い落ちたものを平松さんが拾ってしまった。
ペンダント?
ロケットペンダントだ。
平松さんが、
「何これ?」
と言いながら、放り投げようとした時、ハロが、
「やめるんだ。」
と止めた。
平松さんから無理やり奪い取って、
それを見たハロは顔色が変わった。
そして乾君も見て、言った。
「レオ?
レオなのか?」
ハロは乾君と全く同じロケットペンダントを持っていて、それを乾君に見せた。
乾君も顔色が変わり、目を大きく見開いて、ハロの顔を見ている。
レオってどういうこと?
乾君は何も言わないまま、うつむいた。
滝本君がもう一度銃口を向けてきたので、ハロが銃を持っている滝本君の手に命中させた。
「彩夏音、レオはボクの弟だ。」
と静かに話した。
乾君がハロの弟?
「ずっと探してたんだよ、
レオ。」
と乾君に話しかけた。
乾君は黙ったままで…。
「覚えているわけないよね。
ボク達が別れたのは、レオが一才の時だったから…。
兄がいたことも知らなかっただろう。」
「…、知っていた。」
と乾君は小さな声で答えた。
そういえば、前に兄がいたと教えてくれたことがあったね。
ハロは少しだけ嬉しそうに、
「そうか。」
と言った。
ボクの弟、レオ。
小さな時、家庭の事情で生き別れになっていた。
ボクは父さん、レオは母さんに…、別れてから一度も会うことはなかった。
父さんからはレオは幸せに暮らしているとだけ聞いていた。
ずっと会いたかった。
父さんが亡くなった後、教えてもらっていた住所を訪ねたが会えず、手がかりが全くつかめなかった。
いろんな所を探したけれど、もしかしてと最悪のことも考えていた。
まさか、BJJ にいたなんて…。
だからわからなかったのか。
かわいそうに。
もっと早く探していれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに。
申し訳ない、レオ。
本当にごめんよ。